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KPIが多すぎる会社ほど、現場の優先順位がズレる

前回の記事では、経営戦略とはやらないことを決めることだと書きました。

全部の仕事を追わない。
全部の荷主を同じように扱わない。
全部の問題を一度に解決しようとしない。
限られた車両、人、時間、資金をどこに集中するかを決める。

これが戦略です。

ただ、戦略を決めただけでは現場は変わりません。

社長の頭の中では、伸ばしたい荷主がある。
見直したい仕事もある。
増やしたくない案件もある。
営業や配車に変えてほしい行動もある。

でも、それが現場の行動に落ちていなければ、会社は今まで通り動きます。

そこで必要になるのがKPIです。

ただし、ここに大きな落とし穴があります。

KPIを設定すれば現場が動くわけではありません。
むしろ、KPIが多すぎる会社ほど、現場の優先順位がズレることがあります。

KPIはあるのに、なぜ現場は変わらないのか

会議では数字を見ている。
売上も見ている。
粗利も見ている。
稼働率も見ている。
事故件数も見ている。
クレームも見ている。
残業時間も見ている。
訪問件数も見ている。

それなのに、翌月の現場行動が変わらない。

このような会社は少なくありません。

数字を見ていないわけではありません。
むしろ、真面目に見ています。

ただ、問題はその数字を見た後です。

営業は、明日からどの荷主に行けばよいのか。
配車係は、何を優先して組めばよいのか。
管理者は、どの現場課題から手をつければよいのか。
幹部は、誰に何を任せればよいのか。

ここまで落ちていなければ、KPIは現場行動に変わりません。

KPIとは、ただの管理数字ではありません。
経営方針を現場行動に翻訳するためのものです。

KPIは多いほど管理できるわけではない

KPIが多い会社ほど、一見すると管理ができているように見えます。

売上。
粗利。
稼働率。
実車率。
積載率。
残業時間。
事故件数。
クレーム件数。
訪問件数。
新規案件数。
採用数。
離職率。
教育回数。

どれも大事です。

ただし、全部を同じ熱量で追うと、現場は何を優先すべきか分からなくなります。

営業からすると、訪問件数を増やせと言われる。
でも、利益率も見ろと言われる。
新規も取れと言われる。
既存荷主も守れと言われる。
条件交渉も進めろと言われる。

配車係からすると、稼働率を上げろと言われる。
でも、残業は減らせと言われる。
事故も減らせと言われる。
荷主対応も丁寧にしろと言われる。
ドライバーの負担も見ろと言われる。

管理者からすると、事故を減らせと言われる。
離職も減らせと言われる。
教育もやれと言われる。
現場トラブルも拾えと言われる。
会議資料も出せと言われる。

全部大事です。

でも、全部大事と言われると、現場は結局いつもの判断に戻ります。

KPIが多いこと自体が問題なのではありません。
優先順位がないことが問題なのです。

財務目標だけでは、現場は何をすればよいか分からない

一方で、KPIがほとんどなく、財務目標だけになっている会社もあります。

来期売上10%増。
営業利益を増やす。
利益率を改善する。
生産性を上げる。

もちろん、財務目標は必要です。
会社としてどこを目指すかを示すために大事です。

ただ、財務目標だけでは現場は動けません。

来期売上10%増と言われても、営業はどの荷主を攻めればよいのか分かりません。
利益率改善と言われても、配車係はどの仕事を優先すればよいのか分かりません。
生産性向上と言われても、管理者はどの現場課題から手をつければよいのか分かりません。

財務目標はゴールです。

でも、現場が必要としているのは、そこに向かうための行動指標です。

どの荷主への接触を増やすのか。
どの案件を増やさないのか。
どの条件交渉を進めるのか。
どのコースを見直すのか。
どの車両の使い方を変えるのか。
どの管理者が、どの課題を見るのか。

ここまで落ちて初めて、現場は動けます。

財務目標だけで現場任せにすると、現場は目の前の仕事を頑張るしかありません。

結果指標ばかり見ても、行動は変わらない

KPIを考える時に大事なのは、結果指標と行動指標を分けることです。

売上。
利益。
事故件数。
離職率。
残業時間。
クレーム件数。

これらは大事な数字です。

ただ、多くは結果として出てくる数字です。

結果の数字だけを見て、もっと良くしようと言っても、現場は何を変えればよいか分かりません。

たとえば、事故件数を減らすと言う。
これは大事です。

でも、現場行動に落とすなら、何をするのか。

点呼時に確認する項目を変えるのか。
ヒヤリハットの共有回数を増やすのか。
事故が多い時間帯やコースを見直すのか。
新人ドライバーの同乗期間を変えるのか。
管理者が面談する対象を決めるのか。

ここまで落ちていなければ、事故件数という数字を見ても行動は変わりません。

利益率改善も同じです。

利益率を改善しようと言っても、営業や配車は何を変えればよいのか分からない。

伸ばす荷主への商談数を増やすのか。
薄い仕事の条件交渉を進めるのか。
荷待ちが長い案件を見直すのか。
帰り便が弱いコースを改善するのか。
配車負荷が高い仕事を減らすのか。

結果指標だけでは、現場は動けません。

KPIは、結果を見るためだけではなく、行動を変えるために設計する必要があります。

KPI同士が矛盾すると、現場の判断がブレる

KPIが多すぎる会社では、KPI同士が矛盾することもあります。

稼働率を上げろ。
でも残業は減らせ。

売上を増やせ。
でも利益率も上げろ。

新規を増やせ。
でも既存荷主の対応品質も落とすな。

事故を減らせ。
でも配車は詰めろ。

現場からすると、どちらを優先すればよいのか分かりません。

もちろん、経営としては全部大事です。
ただ、現場判断の場面では、優先順位が必要です。

今月は何を最優先するのか。
この荷主は伸ばすのか、守るのか、交渉するのか、見直すのか。
このコースは稼働を優先するのか、負荷軽減を優先するのか。
この営業活動は件数を追うのか、重点荷主への深さを追うのか。

ここが決まっていないと、現場はその場その場で判断します。

そして、多くの場合は目の前の仕事を埋める判断になります。

KPIの目的は、現場を迷わせることではありません。
現場が迷った時に、何を優先するかを示すことです。

良いKPIは、戦略と現場行動をつないでいる

良いKPIは、戦略と現場行動をつないでいます。

たとえば、会社の戦略が採算の良い荷主に経営資源を集中することだとします。

この時、見るべきKPIは単なる売上や訪問件数だけではありません。

重点荷主への商談数。
条件交渉の進捗。
見直し対象案件の改善件数。
荷待ち時間の長い案件の改善状況。
帰り便が弱いコースの改善状況。
配車負荷が高い案件の削減。
重点荷主への車両投入状況。

こうした数字を見るから、営業や配車の行動が変わります。

営業は、ただ訪問件数を増やすのではなく、どの荷主に行くべきかが分かる。
配車係は、ただ車両を埋めるのではなく、どの案件を増やすべきではないかが分かる。
管理者は、どの現場負荷を減らすべきかが分かる。

KPIとは、現場を数字で縛るものではありません。
経営の優先順位を、現場が動ける形に変えるものです。

だから、KPIは戦略から逆算する必要があります。

何を伸ばすのか。
何を見直すのか。
何を増やさないのか。
誰が何を変えるのか。

これが決まってから、KPIを決めるべきです。

KPIを絞ることは、管理を弱めることではない

KPIを絞るというと、管理が甘くなるように感じるかもしれません。

でも、実際は逆です。

KPIを絞るとは、今いちばん変えるべき行動を明確にすることです。

数字をたくさん見ることが管理ではありません。
数字を使って、現場の行動を変えることが管理です。

今期は重点荷主への営業行動を増やす。
今月は荷待ちの長い案件を見直す。
今月は帰り便が弱いコースを改善する。
今月は管理者が面談すべきドライバーを明確にする。
今月は社長判断に戻っている業務を一つ現場へ渡す。

このように、KPIは行動に変わる必要があります。

見る数字を絞ることで、現場は迷いにくくなります。

何を優先すべきかが分かる。
何を後回しにしてよいかが分かる。
どの行動が評価されるのかが分かる。
会議で何を報告すべきかが分かる。

KPIを減らすことは、管理を緩めることではありません。
優先順位を鋭くすることです。

会議で見るべきは、数字の数ではなく翌月の行動である

KPIが多すぎる会社では、会議も重くなります。

資料は多い。
数字も多い。
報告も多い。

でも、会議が終わった後に、翌月やることが変わらない。

これはKPIが機能していない状態です。

会議で大事なのは、数字を全部確認することではありません。

その数字を見て、何を変えるのか。
誰が動くのか。
いつまでにやるのか。
何を見て進捗を確認するのか。

ここまで決めることです。

KPIは、会議資料を厚くするためにあるのではありません。
翌月の行動を変えるためにあります。

だから、会議で見るKPIも絞るべきです。

今月、本当に変えたい行動は何か。
その行動が増えたかどうかを見る数字は何か。
その数字を誰が持つのか。
次回会議で何を確認するのか。

ここまで決まると、KPIは現場を動かす道具になります。

まとめ KPIは現場を縛る数字ではなく、優先順位を伝える言葉である

KPIが多すぎる会社ほど、現場の優先順位がズレることがあります。

数字はたくさんある。
会議でも見ている。
資料にも載っている。
でも、現場が何を優先すべきか分からない。

この状態では、KPIは機能していません。

KPIは、多ければ良いものではありません。

財務目標だけでも足りません。
結果指標だけでも行動は変わりません。
KPI同士が矛盾していれば、現場の判断はブレます。

本当に必要なのは、戦略と現場行動がつながったKPIです。

何を伸ばすのか。
何を見直すのか。
何を増やさないのか。
どの荷主に時間を使うのか。
どの仕事を交渉するのか。
どのコースを改善するのか。
誰が、いつまでに、何をするのか。

ここまで落ちて初めて、KPIは意味を持ちます。

KPIは現場を縛るための数字ではありません。
経営の優先順位を、現場に伝える言葉です。

だからこそ、増やしすぎてはいけません。
絞る必要があります。

現場は数字が嫌いなのではありません。
何をすればよいか分からない数字に追われるのが苦しいのです。

経営の仕事は、数字を増やすことではありません。
現場が迷わず動ける優先順位を示すことです。

このnoteでは、運送会社の営業、配車、採用、組織づくり、会議、法対応まで、現場と経営の間にあるズレを整理して発信しています。
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