決められる社長と決められない社長の違いは、勇気ではない
社長の仕事は、正解が見えない中で決めることです。
値上げするか。
荷主を見直すか。
増車するか。
採用するか。
幹部を登用するか。
外から中途幹部を入れるか。
赤字に近い案件を続けるか、条件交渉するか。
どれも簡単には決められません。
なぜなら、判断の先には必ず不安があるからです。
値上げしたら荷主が離れるかもしれない。
案件を見直したら売上が落ちるかもしれない。
増車したのに仕事が続かないかもしれない。
採用した人が定着しないかもしれない。
幹部に任せたら現場が混乱するかもしれない。
こうした不安があると、判断は止まります。
そして、決められない自分に対して、社長自身がこう感じることがあります。
自分には勇気が足りないのではないか。
もっと思い切りが必要なのではないか。
決断力が弱いのではないか。
でも、私は少し違うと思っています。
決められる社長と決められない社長の違いは、勇気だけではありません。
本質的には、リスクの見方が違います。
1.決められないのは、勇気がないからではない
決められない社長が弱いわけではありません。
むしろ、責任感があるから決められないことも多いです。
社員の生活がある。
家族がある。
借入がある。
荷主との関係がある。
長年守ってきた会社の信用がある。
だから、簡単に動けない。
これは当然です。
ただ、ここで問題になるのは、不安の中身が見えているかどうかです。
決められない時、多くの場合はこうなっています。
なんとなく怖い。
なんとなく危ない。
なんとなく失敗しそう。
なんとなく今はまだ早い。
この状態だと、人は動けません。
なぜなら、何が怖いのかが分からないからです。
一方で、決められる社長は、不安がないわけではありません。
不安を分解しています。
値上げであれば、何が怖いのか。
荷主が離れることなのか。
交渉がこじれることなのか。
担当者との関係が悪くなることなのか。
一時的に売上が落ちることなのか。
ここまで分けて考える。
怖い、で止めない。
何が怖いのか、まで見る。
これだけで、判断の質は変わります。
2.人は、得する未来より損する痛みを強く感じる
人は、得をする喜びより、損をする痛みを強く感じます。
これは経営判断でも同じです。
値上げに成功して利益が残る未来より、荷主に断られる痛みの方が強く見える。
幹部を採用して社長の負担が減る未来より、採用に失敗してお金と時間を失う痛みの方が強く見える。
赤字案件を見直して会社が強くなる未来より、売上が一時的に減る痛みの方が強く見える。
だから、人は動きにくくなります。
これは性格の問題ではありません。
人間の自然な反応です。
ただ、経営ではこの反応に流されすぎると危険です。
損をしたくない。
失敗したくない。
波風を立てたくない。
この感情だけで判断すると、本来変えるべきことまで先送りになります。
そして気づかないうちに、会社は少しずつ弱くなります。
3.決められる社長は、リスクを分解している
決められる社長は、無理に不安を消しているわけではありません。
リスクを分解しています。
たとえば、荷主への値上げ交渉を考える場合。
何が起きる可能性があるのか。
その確率はどれくらいか。
起きた時の損失はどれくらいか。
事前にできる対策はあるか。
代わりの荷主を探せるか。
段階的に交渉できるか。
全荷主ではなく、一部から始められるか。
ここまで見る。
すると、漠然とした怖さが、管理できるリスクに変わります。
動けない人は、リスクが大きいから動けないのではありません。
リスクの正体が見えていないから動けないのです。
逆に、リスクが見えると、次の打ち手が見えます。
一気に変えない。
小さく試す。
撤退ラインを決める。
代替案を用意する。
最悪でも会社が倒れない範囲で動く。
これができると、判断はかなりしやすくなります。
4.無謀に賭けるのではなく、小さく試せる形にしている
ここは誤解してはいけません。
決められる社長は、無謀に賭けているわけではありません。
成功するか分からないけど、とにかくやってみよう。
失敗したらその時考えよう。
勢いで投資しよう。
これは経営では危険です。
本当に決められる社長は、失敗した時の損失を限定しています。
いきなり全社で変えない。
一部の荷主から試す。
一拠点で試す。
一人の幹部候補に小さく任せる。
採用も最初から大きな固定費にしない。
増車も、仕事の見込みと撤退ラインを決めてから動く。
これは、経営における小さな実験です。
大きく賭けるのではなく、小さく試す。
うまくいけば広げる。
うまくいかなければ修正する。
この考え方を持っている社長は、動きながら学べます。
逆に、最初から完璧な判断をしようとすると、いつまでも動けません。
5.本当に怖いのは、挑戦リスクだけではない
多くの人は、挑戦することをリスクだと考えます。
値上げするリスク。
荷主を見直すリスク。
人を採るリスク。
幹部に任せるリスク。
投資するリスク。
もちろん、これらにはリスクがあります。
でも、経営ではもう一つ見なければいけないものがあります。
それは、現状維持リスクです。
値上げしないまま、原価だけが上がるリスク。
薄い案件を続けて、会社の体力が削られるリスク。
社長が全部判断し続けて、幹部が育たないリスク。
採用の仕組みを変えず、人が定着しないリスク。
荷主構成を見直さず、特定荷主への依存が高まるリスク。
会議を変えず、毎月同じ問題が繰り返されるリスク。
挑戦するリスクは見えやすいです。
でも、何もしないリスクは見えにくい。
ここが怖いところです。
決められる社長は、挑戦リスクだけを見ていません。
現状維持リスクも見ています。
だから、今のままでも危ないと判断できるのです。
6.完全な情報は、いつまで待っても集まらない
経営判断で難しいのは、情報が不完全なまま決めなければいけないことです。
もう少し数字がそろったら。
もう少し現場の状況が見えたら。
もう少し荷主の反応が分かったら。
もう少し採用市場を見てから。
もう少し景気が落ち着いてから。
こう考えたくなる気持ちは分かります。
でも、経営では100点の情報がそろうことはほとんどありません。
情報がそろった頃には、タイミングを逃していることもあります。
もちろん、何も調べずに決めるべきではありません。
ただ、情報を集め続けることが、判断の先送りになっている場合もあります。
決められる社長は、完全な情報を待ちません。
今ある情報で、何が分かっているのか。
何がまだ分からないのか。
分からない部分は、小さく試して確認できないか。
失敗した時に、どこまでなら耐えられるか。
こう考えます。
不確実性をゼロにしてから動くのではありません。
不確実性が残ったまま、損失を限定して動くのです。
7.まとめ 決められる社長は、不安がないから決めているのではない
決められる社長と決められない社長の違いは、勇気だけではありません。
決められる社長も不安です。
怖さもあります。
失敗した時の痛みも分かっています。
ただ、その不安をそのままにしていません。
何が怖いのかを分解する。
起きる確率を見る。
起きた時の損失を見る。
事前にできる対策を考える。
小さく試せる形にする。
撤退ラインを決める。
現状維持リスクも見る。
だから決められるのです。
一方で、決められない時は、不安が漠然としています。
怖い。
危ない。
まだ早い。
失敗したら困る。
この状態では、判断は止まります。
経営に必要なのは、不安を消すことではありません。
不安を扱える形にすることです。
社長の仕事は、正解が見えてから動くことではありません。
正解が見えない中で、会社が倒れない範囲に損失を限定しながら、前へ進めることです。
決められる社長は、不安がないから決めているのではありません。
不安を分解し、損失を限定し、それでも残る不確実性を受け入れて決めているのです。
このnoteでは、運送会社の営業、配車、採用、組織づくり、会議、法対応まで、現場と経営の間にあるズレを整理して発信しています。
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