読書離れではなく、思考体力の低下である(AI時代の勉強法と思考体力 #002)
「最近の人は、本を読まなくなった」
そんな言葉をよく聞きます。
でも私は、この問題を単なる読書離れとして見るだけでは、少し足りない気がしています。
本当に起きているのは、
本を読まないことそのものではなく……
考え続けるための体力が、少しずつ失われていること。
こちらの方が、本質に近いのではないでしょうか。
長い文章を読むことは、意外と高度な作業です。
ただ文字を追っているだけではありません。
前に読んだ内容を覚えておく。
話の流れをつかむ。
すぐに結論が出なくても待つ。
わからない言葉があっても、いったん先へ進む。
自分の経験と照らし合わせる。
「つまりどういうことだろう」と考える。
こうした小さな作業を、何度も繰り返しています。
つまり読書とは、知識を受け取る行為である前に、
思考を持続させるトレーニングでもあります。
ところが今は、情報がとても速い。
短い動画。
要約投稿。
見出しだけのニュース。
結論が先に出る解説。
AIによる一瞬の要約。
スマホを開けば、情報はこちらから探しに行かなくても流れてきます。
そして私たちは、短時間で「知った感じ」になれるようになりました。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。
忙しい中で情報を集めるには、要約もショート動画もAIも役に立ちます。
問題は、それに慣れすぎたときです。
長い説明に触れた途端、
「で、結論は?」
「要点だけ教えて」
「長いから読めない」
「つまり何が言いたいの?」
そんな反応が、自分の中に出てくることがあります。
これは能力が低いという話ではなく、今の情報環境に適応した結果です。
速い情報に慣れた脳は、遅い情報を扱うことが苦手になります。
結論がすぐ出ない話。
一度読んだだけでは理解できない話。
複数の要素が絡み合う話。
白黒をつけられない話。
こういうものを抱えたまま、考え続ける。
その力が、思考体力です。
そしてこれは、
読書だけの話ではなく、仕事でも同じです。
誰かの話を最後まで聞く。
患者さんの言葉と表情のズレに気づく。
検査結果だけで判断せず、生活背景とつなげる。
一つの仮説に飛びつかず、別の可能性も考える。
すぐに成果が出ない介入を、根拠を持って続ける。
こうしたことにはすべて、思考体力が必要です。
特に専門職は、「知識がある」だけでは足りません。
知識を集める。
情報を比べる。
状況に合わせて解釈する。
患者さんや利用者さんの生活に当てはめる。
そして次の一手を決める。
この一連の流れがあって、はじめて知識は使えるものになります。
AIは、情報を集めることを圧倒的に楽にしてくれました。
わからない用語を聞ける。
論文の要点を整理できる。
考え方のたたき台を出してくれる。
視点を増やしてくれる。
これは大きな助けです。
ただ、AIが代わってくれるのは、主に「答えの候補を出すところ」までです。
その答えが本当に妥当か。
この人に当てはまるのか。
何が抜けているのか。
例外はないのか。
明日から何をするのか。
そこを考えるのは、こちらの役割です。
AI時代に必要なのは、AIを使わない根性ではありません。
AIを如何に使い倒すかです!
AIで情報収集が速くなるほど、
人間には「その情報を抱えて考える力」が求められるようになります。
答えを早く知る力よりも。
答えをすぐに信じない力。
要点をつかむ力よりも。
要点だけでは足りないと気づく力。
効率よく学ぶ力よりも。
効率化できない部分に、時間を使える力。
それが、これからますます価値を持つと思います。
本を読むことは、昔ながらの勉強法に見えるかもしれません。
けれど、長い文章を読み、立ち止まり、考え、自分の言葉にする時間は、
AI時代だからこそ必要になる
思考の筋トレなのだと思います。
読書離れを嘆く前に。
まずは、自分の思考体力を守る。
すぐに結論が出ない文章を、少し読む。
わからないことを、すぐに閉じずに抱えてみる。
AIの答えに「本当にそうだろうか」と問い返してみる。
その小さな習慣が、
知ったつもりで終わらない学びをつくっていきます。
齋藤 信
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