まっすぐ手記 S2-18|直して、だまして、最後まで使う。フィリピンの「南の技術」

🌏 酒井先生のまっすぐ手記|旅で出会った、人と知恵とユーモア
新潟県長岡市(栃尾)生まれの酒井先生。
青年海外協力隊としてフィリピンで理数科教師を務め、長崎大学熱帯医学研究所での研修を経て、1997年に酒井歯科医院を開院しました。
地域医療に長く携わるかたわら、旅先で出会った人々との交流や、異文化に触れて感じた驚きや学びを“まっすぐ”に綴っています。
実は先生には、少し不思議な引き寄せの逸話があります。
ある日ふと、「ペン吉さん、僕の本を書いてくれないかな…」と思っていたそうです。
すると翌年、本当にペン吉(著者)が原稿を携えて現れたのです。
そして出版後には、本の中に登場した人物から4年ぶりに連絡が入り、再び一緒に旅をすることになりました。
エッセイシリーズ『酒井先生のまっすぐ手記』は、東南アジアやモンゴルでの体験を描いたドキュメンタリー紀行。
ユーモラスな語り口と、現地の人々との温かな交流が多くの読者に愛されています。
✏️ 一部エピソードはnoteでも公開中。
Kindle版では未公開の旅話も多数収録し、“心で旅するシリーズ”として広がり続けています。
――1995年 フィリピン手記より。

🐥 ペン吉とは?
育児や小さな日々の気づきを大切に綴る、Webライターです。
黄色い鳥「ペン吉」と青い鳥「ことりさん」と一緒に、絵本や手記づくりを楽しんでいます。
Kindle絵本では、
「実用・工作・趣味」1位、
「学習まんが」3位、
「絵本」4位 にランクインした作品も出版。
Kindleをはじめたきっかけは、命を救ってくれた歯科医師・酒井先生の
「旅の手記を本にしたい」という願いを形にしたかったから。
先生のまなざしや出会いの温度をそっとすくいあげ、手紙のように届けることを心がけています。
読んだ方のこころが、すこしでもあたたかくなりますように。
南の技術、物は動けばよい
フィリピンでは、車や電気製品は、我々が考える以上に貴重品だった。かなり苦労して手に入れた場合がほとんどであるから、それらに対する執着心は並ではない。
本人、または家族の誰かが海外へ出稼ぎに行き、稼いだお金で買い求めたものもある。日本人がボーナスやローンで手軽に入手するのとは事情がまったく違う。
「そりゃあ、大事にするはずだ」
そう思った。それは、当然のことだった。
だから、仮に故障したとしても、なかなか手放すことが出来ない。何とか直して、だましだましでも使い続けようとする。その姿勢は、見上げたものだった。
壊れても、直す。捨てない。
かつての日本では一時期、「消費は美徳」などと言われた。しかし、この国ではそういうわけにはいかない。
国の状態からして止むを得ないのだろうが、物を大切にするという点から見れば、我々はもっとフィリピンの人たちを見習ってもよいのではないか。
「便利さに慣れすぎてしまったのは、こちらのほうかもしれない」
そんな気もした。
引っ越しのたびに、まだ使用できる家具や電気機器を捨ててしまう日本の習慣を思うと、少し心苦しくなる。少なくとも、まだ使えるものを簡単に手放すことには、ためらいを覚えた。
この国は暑い国である。クーラー、扇風機、冷蔵庫は、当然のように毎日フル回転だ。従って、北の国よりも寿命ははるかに短い。
南の国を象徴するかのように、扇風機、クーラー、冷蔵庫、それぞれを専門とする修理屋がある。店の中には、所狭しと故障品が並べられている。
「こんなに壊れたものばかりで、商売になるのだろうか」
最初は、正直そう思った。
だが、よく見ると、幾つかの故障品から部品を取り出し、それを使って一つのものを直しているようだった。
「なるほど、こうやって生き延びさせるのか」
これは、もう立派な南の技術だと感じた。
南の技術は、まず動けばいい
日本では引っ越しシーズンになると、まだ使用できる電気製品が、あちこちのゴミ収集所に並ぶ。もったいない話である。
南の国の視点から見れば、それらを拾いに来る外国人がいたとしても、決して不思議ではないだろう。

この修理文化に似た現象として、ジープ工場がある。ジープは、車の部品をジャンク屋と呼ばれる部品専門店から買い集め、溶接技術によって組み立てられる。
溶接とは、金属同士を熱でつなぎ合わせる技術で、彼らはこれを実に巧みに使っていた。
こうして作られたジープを買った人が日本にもいるし、フィリピン全土を走るミニバスやジープの数を考えれば、これでも一つの産業を成していると言える。
しかし残念ながら、ジープニーはあまりにも個性の強い車であるため、外貨獲得の手段にはなりにくいようだった。
「惜しい話だ」
正直、そう思った。
街の露店では、時計の修理がよく行われていた。車、電気製品、時計など、ハイテク的な故障でない限り、彼らなりに修理する技術は持ち合わせているようだった。
ハイテク的な故障というのは、精密部品や専用機器がなければ直せない種類のものを指す。
南の技術というのは、自ずと限られてくる。だから最低限、機能して動いてくれれば、それでよい、という考え方になる。
「動けばいい。まずは、それでいい」
そう割り切る姿勢が、ここにはあった。
タクシーやバス、ジープに乗っていると、窓ガラスがなかったり、あっても上下に動かなかったりすることがよくある。それでも車はちゃんと動き、人を運んでくれる。それで十分、ありがたい存在なのだ。
車の前方に座り、運転手の仕草を見ていると、実に興味深かった。ハンドルの脇に、電気系統のコードが数本、むきだしになっていることがある。
注意深く見ていると、必要に応じて、その中の二本を巧みに接触させている。
「なるほど、そうやって使うのか」
感心するしかなかった。
私が見た中で一番多かったのは、クラクションを鳴らすときだった。
ポンコツが、ちゃんと走る国
ミンダナオ島北部の都市、スリガオを訪れたときのことである。私が訪ねた職業訓練校の先生が、市内を案内してくれることになった。
彼は50ccのバイクに乗っていたが、これがまた驚くべき代物だった。廃品回収屋で見つけたポンコツを、50ペソ、約1500円で買い求め、それを自分で改造して動くようにしたという。
「よくぞ、ここまで」
思わず声が出そうになった。
私は90ccのバイクに乗り、彼はそのポンコツバイクに乗って市内を散策した。ところが、どうしてどうして、そのバイクは実に立派に機能していた。
我々が普段、廃車にしてしまう車は、その時点でエンジンの寿命の10分の1程度しか使っていない、という話を、車の専門家から聞いたことがある。
「まだ、そんなに残っているのか」
そう考えると、日本の感覚が少しずれているようにも思えた。
日本ではメーカーの宣伝もあり、多くの人が2〜3年で車を買い換える。しかし、この国の人々には、そんな贅沢はなかなか出来ない。だから、とことん使いたおす。
人で言えば、何度も臓器移植を行い、老衰でどうにもならなくなるまで生き続けるようなものだ。車にしてみれば、本望だろう。これもまた、南の国に技術があるからこそ成り立つ話である。
ただし、このままの状態では、原料から物を生産する産業を起こすまでには至らないだろう。
では、どうすれば可能になるのか。私が思うに、彼ら自身が「どうすれば出来るのか」に気づき、動き始めたときこそが、先進国の仲間入りをする第一歩なのだと思う。
現在のように、海外援助を当てにし、ただおねだりをするだけでは、先は明るくない。もっとも、彼らすべてがそうだと言いたいわけではない。
現地で懸命に働き、自分たちの力で何とかしようとしている人々が大勢いることも、私は知っている。
ただ、国としていつまでも外に頼り続ける姿勢のままでは、いずれ限界が来るだろう、そう感じたのである。
北の国のお古を使って満足しているようでは、現状を脱却することは出来ないだろう。南の技術は、いつまでも南の技術のままであっては、発展性がない。
北の製品をとことん使い尽くすのは、悪いことではない。100円ライターを再充填して使い続けるのも、大いに結構だ。
しかし、それだけで終わらせてはいけない。それだけの執着心があるのなら、それを国の発展のために費やしたらどうだろうか。

結び
物を直し、動かし、最後まで使い切る。その姿勢には、学ぶべきものが確かにあった。
けれど同時に、その執着心が「次の一歩」を生み出したとき、南の技術は、きっと南の技術のままでは終わらない。
私は、そう感じた。


(ショートバージョンはこちら👇
🌻ペン吉の出版一覧はこちら▼
🌻私がKindle出版で参考にしている本はこちら👇
※リンクにアフィリエイトを含みます
🌻こんな記事も読まれています
🌻 シリーズをまとめて読みたい方はこちら
✏️ 出版経験ゼロからの挑戦録
このエッセイを書いた酒井さんの本を、Kindleで出版するまでの舞台裏を綴ったマガジンです。原稿づくりの苦労や、小さな発見、思わぬハプニングまで――制作の裏側をのぞいてみませんか?👇
📚 酒井さんのまっすぐ手記
旅先で出会った人や出来事、異文化に触れて感じた驚きや学びを“まっすぐ”に綴ったエッセイマガジン。
笑いあり、発見ありの旅の物語を、ぜひお楽しみください👇
いいなと思ったら応援しよう!
ペン吉さんに力をわけてください🐣