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人事のトレンドを、30年ぶん振り返ってみる

前回は、「組織の土壌」という考え方についてお伝えしました。公開したあとで、ふと考えたことがあります。この数十年、いったいいくつの「種」が人事の世界にやって来て、入れ替わっていったのだろう、と。

今日は、少しだけ長くなりますが、振り返りにお付き合いいただければと思います。

90年代——「頑張った人が報われる」はずだった

オフィスの机には電話とFAX。連絡は対面か紙が当たり前で、パソコンは部署に数台の共用機、という職場がまだ多かった頃です。

バブルが崩壊し、右肩上がりの成長が止まりました。年功序列は、勤続とともに人件費が増えていく仕組みです。業績が伸び続けることを前提に成り立っていたこの仕組みを、伸びない業績では支えきれない。年功序列終身雇用が初めて本気で疑われたのは、そういう背景からでした。

代わりに輝いて見えたのが、「成果主義」という言葉です。年齢や勤続年数ではなく、成果で処遇を決める。頑張った人が、きちんと報われる。理屈としては、とても公平に聞こえました。90年代の半ばから、目標管理制度(MBO)——目標を立て、その達成度で評価する仕組み——が、大きな会社から順に広がっていきました。

ただ、この話には続きがあります。先駆けとなった企業のその後を検証した記録には、確実に達成できる無難な目標ばかりが並ぶようになった、腰を据えた挑戦が評価されにくくなった、という反省が残されています。個人の成果を測ろうとするほど、教え合いやチームの協力が細っていく——そうした弊害も、当時の検証や書籍で繰り返し指摘されました。

頑張った人が報われるはずの仕組みの中で、頑張り方そのものが変わってしまった。設計のミスというより、仕組みが人の振る舞いを思わぬ方向へ変えてしまう、という現象がそこにはありました。

2000年代——反省と、輸入の時代


2000年代に入ると、行き過ぎへの反省が語られるようになります。結果だけでなく、そこに至る行動や資質も見よう——コンピテンシーという言葉が入ってきたのは、この頃でした。また、部下との関わり方を見直すコーチングが紹介され、さらに、働く人の心の健康も、ようやく会社の課題として扱われはじめました。

ダイバーシティ、ワーク・ライフ・バランス、エンプロイアビリティ。海の向こうから、新しいカタカナが次々と輸入された時代でもあります。オフィスでは一人一台のパソコンが当たり前になり、連絡が紙とFAXからメールへ置き換わっていったのも、ちょうどこの頃でした。

2010年代——「選ばれる会社」への転換


2008年のリーマン・ショックで、各社はいったん守りに入ります。そのあいだにも、景気の波とは関係なく進んでいた変化がありました。少子化です。

働き手の中心となる世代の人口は、実は90年代の半ばを頂点に、すでに減少へ転じていました。その影響が2010年代に入って採用の現場にはっきりと現れ、人手不足は一時のものではなく、構造として続くものになりました。会社が人を選ぶ時代から、会社が人に選ばれる時代へ。

エンゲージメント。働き方改革。健康経営。1on1。心理的安全性。——この10年に現場で聞いた新しい言葉を並べると、それだけで一つの棚ができそうです。

手のひらのスマートフォンで仕事の連絡が済むようになったのも、この10年でした。

2020年代——5年で来た、30年ぶんの波


そしてコロナ。感染対策として、リモート勤務が一夜にして導入されました。準備の整っていた会社も、そうでない会社も、です。やがてコロナが明け、出社へ戻す動きが強まりましたが、以前とまったく同じ形に戻った会社ばかりではありません。週に何日出社するのか、どの仕事は画面越しでよいのか——その線引きを、いまも会社ごとに探し続けています。

もちろん、仕事の性質上、現場に立つことが前提の職場もあります。それでも、働く場所という、長らく誰も疑わなかった前提に、一度問いが立てられた。その意味で、大きな出来事でした。

また、ジョブ型。パーパス。人的資本。それまで10年に一つか二つだった波が、この5年は毎年のように来ています。

振り返って、見えてきたこと


こうして並べてみて、見えてくることが二つあります。

一つ。どの波にも、ちゃんと理由があったということです。成果主義は、年功の行き詰まりへの答えでした。エンゲージメントは、会社が人に選ばれなければならなくなった時代への答えでした。1on1は、対話が失われた職場への答えでした。どれも、その時代の切実な問いに対する、真剣な応答だったのだと思います。新しい言葉には、その時代の悩みが正直に映っています。

二つ。同じものを取り入れたのに、それが根づいて力になった会社と、通り過ぎていっただけの会社に、はっきり分かれたということです。

その分かれ目は——これはあくまで、伴走してきた中での私の考察ですが——何を選んだかでは、なかったように思います。新しい仕組みを入れる前から、その会社が社員一人ひとりとどう向き合ってきたか。分かれ目は、そこにあったのではないでしょうか。

仕組みは、ふだんの接し方の代わりにはなってくれません。それどころか仕組みには、その会社の日々の関わりが、良くも悪くも、そのまま表れてしまうもののようです。

理念が「会社として何を目指すか」を掲げる言葉だとすれば、それを日々の中でどう生きているか——ひと言でいえば「現場の文化」が、ここで言う分かれ目です。ここが定まらないまま新しい仕組みだけを足していくと、仕組みはばらばらの道具のままで、社員はやがて、どの仕組みも信じなくなっていきます。

新しい種の良し悪しの前に、見ておきたい場所がある——それが、前回の「組織の土壌」の話でした。

次の波の前で

そして今、生成AIという新しい波が来ています。今まさに過渡期のただなかで、仕事のあちこちで、さまざまな変化が同時に起きています。この波が行き着く先は、まだ誰にも分かりません。

ただ、30年を並べてみて、確かに言えることが一つだけあります。波は、必ず、また来ます。そして波が来るたびに、変えるべきものと、変えずにいるべきものの区別を、それぞれの会社が問われることになります。



少しだけ考えてみてください。皆さんの会社が30年後も変えずにいたいものは、何でしょうか。それは今、言葉になっているでしょうか。

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(運営)株式会社A&Mコンサルティング 代表 下風 亜子
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