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研修の効果が続かない、本当の理由

「研修は効果がない」——そんな話をしたいわけではありません。
むしろ研修は、目的によってはとても有効な打ち手です。新しい知識ややり方を、多くの人に一度に、同じ内容で伝える。共通の土台をつくる。何かを始めるきっかけをつくる。こうした場面で、研修は大きな力を発揮します。

ただ、「掲げた理念を、日々の判断や行動にまで根づかせる」——理念を、生きた文化に変えていく——という目的に対しては、研修だけでは届きにくいのです。研修をやったのに現場が元に戻ってしまうのは、研修が得意とすることと、理念を文化に変えていく営みが必要としていることのあいだに、少しずれがあるからだと私は考えています。

今日は、研修が「効くとき」と「効きにくいとき」の違いから、理念が文化として根づく条件を考えてみます。

研修が「効く」場面と、そうでない場面

研修がいちばん力を発揮するのは、「知っている状態」をつくることです。やり方を教える、知識をそろえる、視野を広げる。こうしたことに、研修はとても向いています。

一方で、理念を体現した文化は、「知っている」だけでは根づきません。文化とは、知識そのものではなく、日々の判断や行動の積み重ね——理念が形になったもの——だからです。「知っている」と「根づいている」は、別のものです。

この二つを混同して、理念を文化に変えることまで研修一回に期待してしまうと、噛み合わなくなります。

研修は「点」、文化は「日常」

研修は、ある一日の、数時間の出来事です。ふだんの仕事の流れからいったん離れて、まとまった時間をとって行う「点」の打ち手。一方、文化は、その点と点のあいだ——日々どんな判断を下すか、人にどう任せるか、うまくいかないときにどう向き合うか——という「日常」のなかに宿ります。

研修の場では、「よし、やってみよう」と前向きな気持ちになれます。けれど席に戻れば、これまで通りに回っている日常がそこにある。締め切りがあり、慣れた段取りがあり、まわりの空気がある。その日常そのものが変わらないかぎり、一日の点は、線にも面にもなっていきません。これが、「戻ってしまう」現象の正体です。

教わった言葉は、まだ自分の言葉ではない

研修の多くは、「正解」や良いお手本を伝える場です。こう考えるといい、こう任せるといい、こう向き合うといい——どれも、なるほどと納得できる内容です。でも、正解を知っていることと、それを自分の言葉で語れることのあいだには、深い隔たりがあります。

教わった言葉は、まだ借りものの言葉です。借りものの言葉は、いざ現場の難しい場面に立たされたとき、とっさには出てきません。人が本当に動き出すのは、誰かに教わった正解を思い出したときではなく、「これは自分にとって、こういうことだ」と、自分の言葉に置き換えられたときです。一方通行で受け取っただけの知識は、その「自分ごととして、自分の言葉で語れる」ところまでは、なかなか届きません。

(「自分の言葉になる」という話は、前回の記事『理念を自分の言葉で語れない、本当の理由』でも掘り下げています。あわせてどうぞ。)
理念を"自分の言葉"で語れない、本当の理由|CULTIVA|Ako Shimokaze


では、何が理念を根づかせるのか

ここで、研修の活かし方が見えてきます。研修は、理念を根づかせる「点」としては、とても良い火種になります。問題は、その点を、そのあと線につないでいけるかどうかです。

線をつくるために必要なものは、大きく三つあります。

一つ目は、対話です。教わるだけでなく、問われ、自分で考え、自分の言葉にしていく。その往復のなかで、借りものの言葉は、はじめて自分の言葉に変わっていきます。

二つ目は、継続です。一度の盛り上がりで終えず、日常のなかで何度も立ち返る。うまくいったこと・いかなかったことを持ち寄ってまた話す——この繰り返しのうちに、特別だった考え方が「うちでは、いつものこと」になっていきます。

三つ目は、仕組みとの接続です。どれだけ良い対話を重ねても、評価のされ方や業務の優先順位が以前のままなら、人は古い行動に戻ります。理念にかなう行動が、現場の仕組みのなかで報われてこそ、文化は根を張ります。

——この三つは、どれも一回の記事では語りきれないテーマです。それぞれについては、また別の機会にじっくりお話しできたらと思います。

今日お伝えしたいのは、ひとつだけ。研修で良いきっかけの火をつけたら、それを対話・継続・仕組みで日常につないでいく。その設計があってはじめて、理念は文化として根づいていく、ということです。


今日の一冊

『学習する組織——システム思考で未来を創造する』
ピーター・M・センゲ 著/枝廣淳子・小田理一郎・中小路佳代子 訳/英治出版/2011年(原著 The Fifth Discipline, 1990)

最後に、今日のお話とつながる一冊を紹介します。
本書が示すのは、変化に強い組織とは「学び続ける組織」である、という考え方です。一度きりの施策で人や組織が変わるのではなく、対話と振り返りを日常に組み込み、チームとして学び続けることでこそ、組織はゆっくり変わっていく——本書を貫くこの視点は、今日お話しした「点を、線にする」という話とそのまま重なります。

少し厚みのある本ですが、研修や制度を「入れて終わり」にしないための土台になる考え方が詰まっています。組織づくりに迷ったとき、何度も立ち返りたくなる一冊です。

さいごに

研修そのものは良い時間だった。参加者の表情も良かった。なのに、組織の変化にはつながらなかった——もし、そんな心当たりがあるとしたら。それは、研修の中身が足りなかったからではなく、そのあとに、学びを日常へつないでいく時間が、まだ用意されていなかっただけなのかもしれません。

あなたの組織で、いちばん大切にしたい理念は、どんな言葉でしょうか。それを、一度の研修ではなく、日常のなかでどう育てていくか——よければ、そんな話からご一緒できたら嬉しいです。

CULTIVAが大切にしている「聴く・耕す・根づかせる」の流れは、こちらでご紹介しています。→ 
CULTIVAとは——理念を、生きた文化に変える伴走|CULTIVA|Ako Shimokaze


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