チャンピオン? チャンピオン!
「市のダンス選手権」とブエノスアイレスでいったら、それは当然タンゴの競技会。
(タイトルイメージ:Photo by Vladislav Klapin on Unsplash)
「市のダンス選手権」こと Campeonato de Baile de la Ciudad 、通称メトロポリターノ(Metropolitano)は、ブエノスアイレス市が毎年主催するダンス競技会です。部門は、舞台で踊るダンスの基づくエセナリオ部門と、サロンでの踊りに基づくピスタ部門にわかれ、さらにピスタ部門は、成人、シニア(55+)、外国人成人、外国人シニア、ミロンガ、バルスと6つのサブ部門に分かれて競われます。
2026年度の成人ピスタ部門の覇者は Aldana Belen Figueroa と Matias Gutierrez!
そして、エセナリオ部門のチャンピオンは Nuria Lazo と Federico Ibañez!
素晴らしいダンスの彼らですが、タンゴの聖地ブエノスアイレスのチャンピオンなんだから世界チャンピオンかというと、それはそうではないんです。メトロポリターノはあくまで市の選手権なので、そのレベルの高さにも関わらず地方競技会あつかい。したがって、彼らはブエノスアイレス市のタンゴチャンピオンとなります(これはこれですごいタイトルだけど)。
世界選手権と地域競技会の違いは、その主催者が「世界」と名乗れるような組織かどうか、という違いなのだそうです。オリンピックでいうところのIOCとJOCの違いみたいな感じでしょうか。
逆にいうと、世界と名乗れるような組織、すなわちその組織構造が広く国際的な団体は、主催する競技会の覇者に「世界」チャンピオンというタイトルを贈って問題ないことになります。実際、いくつかの社交ダンスの国際大会では、スタンダードやラテンと同じくアルゼンチンタンゴを部門立てているところもあって、そこで優勝したペアは、その競技会のアルゼンチンタンゴ「世界」チャンピオンで全く問題ないわけです。
1990、2000年代、タンゴのダンス人口が急増し、世界のあちこちで競技会が催され、様々な地域チャンピオン、「世界」チャンピオンが生まれました。それらの競技会の多くは、2003年に始まったブエノスアイレスのアルゼンチンタンゴ世界選手権大会(Mundial de Tango、通称ムンディアル)に徐々に組み込まれていき、現在はムンディアルの地域予選という形に落ち着いていることが多いです。
そのようなムンディアル連携の地域選手権の優勝者は(競技会によっては上位入賞者も)、すでに予選を突破しているとみなされるので、その年のムンディアルの決勝もしくは準決勝ラウンドから参加できるという権利を得ます。
ムンディアルもブエノスアイレス市(のフェスティバル事務局)が主催なのですが、その成立の当初から国外のタンゴ団体がいくつか関わってきたのだそうです。現在は、音楽や文学その他様々なタンゴのカルチャーも体験できるタンゴのフェスティバル TangoBAの一部として、毎年8月末から9月初めにかけて真冬のブエノスアイレスで、「ムンディアル(世界)チャンピオン」の称号をかけた熱戦が繰り広げられます。
ダンス・バトル
このように、国際大会としてのフォーマットが整備されてきたのはここ20年ほどのことであるタンゴですが、小、中規模のコンテストは昔からよく行われてきました。
いにしえの大ダンサーたちの武勇伝の中にも、誰それは高級売春宿が客寄せとして開催したダンスバトルで勝って名をあげた、などという話もあるくらいなので、居合わせた観客の歓声の大きさなどで勝敗を決めるダンスバトル形式のコンテストなどは、タンゴダンスの成立初期からあったと思われます。
タンゴがもっと一般的になってからも様々なコンテストが開催されてきました。例えば、伝説的ミロンゲーロでマエストロのアントニオ・トダロが若いころ参加したあるコンテストはこんな感じだったそうです。
ミロンゲーロと呼ばれる、タンゴを熱心に踊りにくるアマチュアの中には玄人はだしの人も多く、自分の踊りを皆に認めさせたくてウズウズしている彼らにとって、新聞社、ラジオ局などが大きなダンスホールで開催するコンテストは参加せずにはいられない魅力を持っていました。また、これらコンテストの勝者は観客の人気投票で決まることがほとんどだったので、自分のサポーターにコンテスト会場に来てもらうことがとても重要でした。そのようなあるコンテストに参加したミロンゲーロの一人は、大金持ちの息子。ミロンガも兼ねるコンテストの入場券を何百枚も買い込んで、友達、知り合いに配りました。コンテスト当日、金持ち息子の知り合いでごった返す会場に、ダンスパートナーと乗り込んだのが若きアントニオ。金持ち息子のような資金力も、高価な入場券を買える友達も持たなかった彼らですが、その華麗なダンスは観客を魅了し、見事、一等と賞金を射止めたのだそうです。この話を教えてくれた人は「トダロは(決勝の人気投票で)700票以上とったんだ!」といっていました。(その700票っていうのがどこから来たのかはよくわかりませんが)たくさんの人で埋まった会場でのコンテストの熱気が伝わってくるような話です。
そんな伝説のアントニオ・トダロと Milena Plebs(この人も伝説!)のダンスは下のリンクでご覧いただけます。 Esteban Moreno が簡単な解説をつけてくれていてとても親切。
現在は、ムンディアル以外にもアルゼンチンタンゴに特化した「世界」大会はあり、アルゼンチン一極集中をさけタンゴをよりオープンにする、という点でも注目されています。もちろん、そのような有名競技会をめざすというのも一つの道ですが、もっと身近な競技会に挑戦してみるというのも、自分探し・人生再挑戦の一手段としてなかなかな人気のようです。競技会によってはジャック&ジル部門(1曲ごとにパートナーをかえて踊る)など、一人で参加できるカテゴリーが設けられているところもあるので、日ごろの練習の成果を試してみるのも楽しい遊び方かと思います。
……そうか、じゃあ、わたしもこの際思い切ってあのコンペに……って? ええ、ええ、いいじゃないですか。ダンスはみられることで磨かれるっていいますし。じゃあ、まずは気合い入れて、付き合って練習してくれる人を探すことから始めます?
©Rico Unno, CC BY-ND
