ハリーポッターと車椅子の妻 【前編】
そこでの唯一の不安は──
私がそれを2作目までしか、
観ていないことだけのはずでした。
そこはハリーポッターの
『スタジオツアー東京』。
期間限定のイベントだった
【炎のゴブレット】も、
何のことやらと……
けれど昔から、
ハリーポッターが大好きだった妻は、
そこにいる間ずっと、
ニコニコ・パトローナムでした。
在宅介護が始まってからも妻とは、
これまでも旅行には行っていました。
体調の波もあり、
またいつ行けるか分からなくなるかも知れないため、行けるうちにと。
日程もやや無理をして調整し、
そこへ行く計画を立てていました。
旅行は、
都内のホテルに一泊二日し、
二日間をそこで過ごす予定でした。
介助する私の入場が、
無料なのも嬉しく。
テーマパークは、
巨大な屋内施設でしたが、
入って驚いたのは、
都内とは思えないその広さと、
造り込まれた圧巻の世界観でした。
またどこのレストランも美味しく、
本や映画を見ていない人でも、
十分に楽しめる場所でした。
そんな妻との旅行ですが、
これから2回に分けて、
少しお伝えできたらと思います。
大変なこともありましたが、
良い旅行だったと思います。
初日──
晴天の気温は27度。
少し汗ばむような陽気でした。
テーマパークに着くと、
その周辺は、
すでに映画の世界でした。
いろんなキャラクターのオブジェが、
広い敷地の芝生の上や、
通路のいたるところに並び、
映画をあまり見ていない私でも、
気分はすっかりハリーポッターでした。
少し早く着いたので、
そのオブジェの前に行き、
『はい撮るよー、笑ってー』
と、妻をスマホでパシャパシャ。
『恥ずかしいから、やめてー』
などと言いながらも、
ずっと妻は嬉しそうでした。

入場の時間が迫ったので、
私一人でチケットの手続きを
済ませていると。
窓口のスタッフから、
『えー! 明日も、
来ていただけるんですか?』
…….?
なぜか、
やや大きめのリアクション。
もしかして、
2日連続で来るような場所じゃ……
と、少し気になり。
『ここ、2日連続で来る人とか、
少ないんですか?』
と聞いてみれば、
『あ、そんなことないですよ』
『たくさん楽しんでくださいねー』
何となく取り繕ってる感……
まあでも、
気にしても仕方ないかと、
妻にも言わないでおきました。
妻の車椅子を押しながら、
入り口に向かい。
『では、入場します!』
と言えば、
妻もワクワクしたようす。
中に入って、
目の前に広がった世界は──
まさに、
ハリーポッターファンには、
たまらない世界でした。
妻のテンションも一気に、
ニンバス2000に。

360度、広い屋内に敷き詰められた、
その膨大な展示品や、
作り込まれたオブジェの数々を、
目にするたびに妻は、
『わあー、すごいねー』
と、歓声をあげて。
『これ、あの場面のだよ? 』
『ほら、あれ知ってる?』
と興奮しながら、
私に確認してきました。
初めのうちは私も、
『へー、よく知ってるねー』
などと対応していましたが、
正直、まったく分からず……
『いや、2作目までしか、
見てないんだよね……』
と、何度答えても、
ハリポタの魔法に掛かった妻は、
すぐにまた、
『ねえ、これ、知ってる?』
正直、
3作目以降を見ていなかったことを、
すこし後悔もしていました。
ただ、妻の喜ぶ姿が嬉しく、
映画よりもそれは、
私の心をルーモスしていたと思います。
※光を灯す魔法のようです。

気が付けば、
初日のツアーは、
4時間以上、経っていました。
私はほぼ休まず、
広大な敷地をずっと車椅子を
押し続けたせいか。
後半になると、
かなりバテバテで──
脱水気味で声も出しずらくなり、
ふくらはぎも吊り始めていました。
けれど、
妻のテンションは終始高く。
そのうち私は、
『へー、すごいねー (棒)』
とだけ、発するのが、
やっとの状態に。
最後の方に至っては、
妻の問いにも答えず、
ただ黙々と車椅子だけを押すだけの、
まるで修行僧のよう……
ホテルに戻り──
妻と初日を
あれやこれやと振り返りながら、
翌日の予定を立てると。
疲れた妻は、
スヤスヤと寝落ちていました。
私も寝ようと、
張っていたふくらはぎを揉んでいると、
ふと──
『明日も来て、いただけるんですか?』
という、あの言葉がよぎり。
確かにこれは、
2日連続はキツいかも……と。
けれど疲れていたせいか、
それ以上は考えることもなく、
私もそのまま、
寝落ちていました。

ハリーポッターと車椅子の妻
【前編 完】
▼後編へ続きます。
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