『介護への道』──生まれ変わる妻
人はどこまで、
人として生きていけるのか──
脳卒中の術後から、
二週間が経過していました。
ICUで麻酔によって、
眠り続けていた妻が、
目を覚ます。
妻は何も言わず、目を見開き、
ただ、ぽろぽろと涙を流していました。
私はこの時を、
どれほど待ち望んだことか。
喜びに震えるような気持ちで、
これまでの鬱憤を晴らすように──
妻に話しかけ続けました。
でもすぐに、
違和感が訪れました。
その涙は、私の声に、
反応したものではありませんでした。
感情の表れでもなく、
ましてや置かれた状況を、
理解して悲しんでいるようにも見えませんでした。
それはまるで……
生まれたばかりの赤ん坊のような涙でした。
意識が戻り、
いきなり広がった知らない世界に、
──怯えて。
ただただ泣いているように、
私には見えました。
それでも話しかけ続けました。
ほんのわずかでも良いから、
私の声が届いていてほしいと願って。
けれど──
そこにいたのは、ただ涙を流すだけの、
私のことなど、
何も知らない“誰か”でした。
そして、その通りに。
学生時代から、
ずっと一緒に過ごしてきた、
あの妻には──
もう二度と、
会うことはありませんでした。

『介護への道』
──生まれ変わる妻【完】
▼『話せない妻』へ続きます
※この話は全て、
筆者の実際の体験に基づいています。
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▼この作品は『若若介護』シリーズの一部です。 シリーズの他の記事はこちら
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