『介護への道』──話せない妻
目を覚ましたあとも、
しばらくの間──
妻の口から言葉が、
出ることはありませんでした。
それは、“話さない”のではなく、
──“話せない”と知ったのは、
もう少し後のことでしたが。
最初に発したのは、
ICUから急性期病棟へ移った頃のわずかな声。
【アー】
それを聞いた瞬間は、うれしかった。
でも、不安でした──
そして妻が初めて笑ったのは、
それからさらに、
1週間も経ってからのことでした。
少しずつ──
ほんとうに少しずつでしたが、
妻には変化がありました。
でもそれは、
“回復”という言葉には、
ほど遠いものでした。
私は目の前の現実に、
一喜しては"三憂"していました。
【アー、アー】
……心構えはしていたつもりでした。
でも、あまりに変わり果てた妻の姿を
目の当たりにするのは、
やはり、
つらく耐えがたいものでした。
感情を押し殺すことができず、
その頃の私は場所を選ばずに、
よく泣いていました。
……妻は、
私のことも、
子どもたちのことも、
自分の生理すらも、
理解できないまま──
ただ、
「アー、アー」
とだけ。

『介護への道』──話せない妻【完】
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