看護師だった妻【後編】やり尽くした後に
▼前回の話【前編】
妻が小児科を選んだ理由は、
子どもが好きだったこともありますが、
1番は、
「患者や他の人と、
余計な会話をしなくて済むから」
でした。
真面目で、正義感が強く、負けず嫌い。
でも、人と話すのが苦手で、友人もほとんど作らないタイプでした。
仕事では、患者や業務には誰よりも、
誠実に向き合う一方、
自分が正しいと思うことは、上司に反発してでも絶対に曲げない。
そんな妻の口癖はーーー
「今日も上司と喧嘩した」
「あの上司とは合わない」
……聞いているうちに、
私の方が「上司も気の毒だな」と思うこともありました。

当時の妻は、小児科の病棟勤務。
三交替制で、日勤から深夜勤に入る日は、
わずか3時間だけ家に戻り、
食事の支度と入浴、仮眠を1時間取るだけで、また病院へ。
「忙しい日は家事はやらなくていいよ」
と何度も伝えても、
妻はわざわざ帰宅してご飯を作り、洗濯し、それからまた出勤していきました。
「病院にいると、疲れるから」
妻はそう言って、家の中に安心を求めていたようでした。
妻は、アレルギーの"認定看護師"を目指していました。
その試験には、前の年に一度落ちています。
2度目の挑戦を前に、職場に迷惑をかけるのではないかと受験を迷っていた妻に、
私は、
「やりたいなら、やってみたら?」
と、背中を押すしかありませんでした。
しかし、いざ受けると決めた後の妻は、本当に凄いものでした。
学会に参加し、仕事と家事を両立しながら、
寸暇を惜しんで勉強とレポートに励み。
必要な症例数をこなすため、
病棟勤務のまま、外来勤務にも掛け持ちで入れてもらったり──
40度の熱で気を失いながらも、レポートを仕上げたりと、まさに鬼気迫る姿でした。
その努力の末、
ようやく掴んだ合格通知──
けれど──
その、わずか1か月後。
妻は倒れ、
看護師の仕事には、
二度と、
戻ることはありませんでした。
あれから、
約10年が経とうとしています。
「元の体に戻ったら、また看護師する?」
と尋ねた私に、妻は少し笑って。
「うーん……やりたくない。
でも……やるかも」
あれだけ必死に努力して、
走り抜けた6年間。
でも、それ以上に、
心も体も、削り続けていたのだと思います。

看護師をやれなくなったことは、
もしかしたら、
妻にとっては良かったのかも。
今では──
そう思えたりもしています。
看護師だった妻【後編】
やり尽くした後に【完】
▼『以前の夫婦関係』へ続きます
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