心配させない長女
妻が脳出血に倒れたとき、
長女は大学1年生でした。
昼夜問わず、
毎日好きなダンスに明け暮れていました。
その生活は、社会人になり、
一緒に暮らしている今も変わりません。
平日は仕事が終われば、
ダンスに出かけ帰宅は日付が変わった頃。
土日も休まずに朝から晩まで、
ダンススタジオやスクールに向かう
生活を続けています。
もともと長女と家族の関係は、
悪くはありませんでした。
大学生になっても、
母親と一緒にお風呂に入ったり、
私と喫茶店や食事に出かけたり。
弟にはバイト代が入れば、
何かを買ってあげるなど、
気前も気風もよく、人付き合いも上手。
私から見ても、
"良い奴"でした。
ただ、小さい頃から──
長女は"人から心配されること"を、
極端に嫌う性格でもありました。
怪我をしても、熱を出しても、
『大丈夫。問題ない』
とだけ言って周囲を寄せ付けず。
その姿勢は、
母親が倒れてからも変わりませんでした。
むしろ、
そのことを周囲に悟られぬように、
それまでの学業・ダンス・バイトの生活を変えることなく卒業まで突き進みました。
その代わり、
母親の一年半にわたる入院中、
見舞いに来たのも
──わずか2日
『ママのこと、気にならないの?』
と私が聞けば、
『だって母親が、
病気だ障害者って見られたら、
私が心配されたり、
同情されたりするじゃん』
『それに、パパが毎日ママの写真とか動画送ってくるから、様子は分かるし』
なるほど、
と妙に納得させられました。
さらに、
息子の自殺騒ぎの時も──
警察に連れられ帰ってきた息子に、
私が『帰ってきてくれてありがとう』
と言っている横で、
『死ぬなら一人で死ねよ!、
人に心配かけんな!』
と怒鳴りつけて、
警官がなだめるほど怒っていたのも長女でした。
そんな性格や生活もあって、
長女の周囲で、
妻が障害者であることを
知る人は今もほとんどいません。
妻が倒れた当初、長女には、
『ママが病気だろうと、お前の人生には、
一ミリも影響させないから。大丈夫』
とは言いましたが──
ある意味で、
それを忠実に守っているのか、
もしくは親にこれ以上の心配をかけまいとする長女なりの配慮なのか。
──その本当のところは、
分からないままです。
立派な社会人になった長女に、
今となっては親として、
してやれることはほとんどありません。
せめて、
一緒に暮らしている間くらいは、
"その生活ぐらいは支えてあげよう"
と思う程度で。
ただ、
私が疲れているときくらいは──
少しは家事を手伝ってくれてもいいんじゃないかな、と思ったりもします。
今朝も私が起きたときには、
すでにダンスへと向かっていた長女。
その後ろ姿へ、
私が何かを伝えたり、
何かをする時間や術もなく──

心配させない長女 【完】
▼この作品は、創作大賞2026 エッセイ部門にエントリーしています。
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▼息子の自殺騒ぎ──『家族の崩壊』
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