見出し画像

ウチの潜入捜査くん【第4話】

第4話 渦巻く謎

~私立才駆論高校 1階 螺旋階段前廊下~

平和だと思われていた才駆論高校に、ついに悲劇が起きた。拳を握る添。泣きわめく戸井。そして黒田は、見るも無残な姿で横たわっている。

ドタバタと階段を降りてくる音がしてきた。品田が是津校長およびその場に居合わせた教員たちを連れてきたのだ。

品田「こちらです! 校長先生!」

品田の後に是津が、そして野呂、田佐井が続いた。

是津「添くん! 戸井くん!」

野呂「黒田が転落したって本当かい?!」

田佐井「く、黒田くんがどうして?!」

少し遅れて、斉園が駆けつけた。

是津「斉園先生! こっちじゃ!」

斉園「黒田……?! つい先ほどまで、私の補習を受けていたのに……!」

慌てふためく教員たち。

添「俺が来たときには、もう死んでいました。警察にはすでに通報しています」

是津「なんと……」

是津はひどく落ち込み、うなだれた。

添「ひとまず、警察が来るまで現場はそのままにしてください。それと、品田雅子先生」

品田「は、はい!」

添「こいつを……戸井風斗を保健室へ連れていってもらえますか。事情聴取は俺が引き受けるので」

添は、戸井の肩に手を乗せた。

品田「わかったわ! さぁ、トイプーくん。行きましょ」

品田は、号泣している戸井の肩に手を回し、保健室へと連れていった。



翌日、事件のことは瞬く間に広がり、才駆論高校は臨時休校となった。

添は、事情聴取の後、戸井を家まで送った。その後、寧音とまどかに連絡し、事の顛末を伝えた。寧音とまどかは、事件そのものよりも、戸井を心配していた。
話し合った結果、三人は戸井のお見舞いに行くことにした。


~戸井邸 風斗の自室~

添「急に来て悪かった。気分はどうだ?」

ぶっきらぼうながら、戸井に優しく声をかける添。

戸井「うん……大丈夫……ありがと……」

食事もろくに喉を通らなかったのか、一晩でかなりやつれている。その姿に、まどかの目は潤んでいた。

寧音「しかし、どうして黒田が自殺なんて……」

寧音がつぶやく。

添「俺もにわかには信じられん。だが、遺書が見つかったとなれば、そう考えるしかなさそうだ」

寧音「その遺書ってのは、本当に黒田が書いたものなのか?」

添「パソコンの文書作成ソフトでつくられていたから、筆跡鑑定はできなかった。ただ、黒田緑青の指紋がたくさん付いていたから、おそらく本人が作ったものだろう、と。字が下手だったらしいから、読めるように配慮したのではないか、と警察は考えているようだ」

寧音「しかし……!」

まどか「やめてよこんなときに! トイプーくんの気持ちも考えてよ!」

まどかが怒鳴った。

寧音「すまない……」

戸井「……いいんです」

戸井は力なく言った。

戸井「ボクだって、信じたくないです……黒田くんが……じ、自殺したなんて……でも……そうなんですもんね……それが本当のことなんですもんね……」

寧音「トイプー……」

静まり返る部屋の中。沈黙を破ったのは、添だった。

添「……これを言うべきか迷ったのだが」

寧音「なんだ?」

添が、胸ポケットから一枚の写真を撮り出した。

添「黒田緑青の遺書の写真を預かってきた」

寧音「! なぜお前がそんなものを?!」

添「それはいずれ説明する。今はとにかくこれを読んでほしい」

添が三人に見えるように写真を置いた。

僕はMr.アブセンス、ミナミマサヨシです。
今までの事件はすべて僕がやりました。
あんなことをするなんて本当にバカだったと思います。
だから死んで償います。

黒田緑青

寧音「黒田が、Mr.アブセンス?!」

まどか「そんな……!」

再び沈黙が訪れた。が、それもすぐに破られた。
今度は戸井によって。

戸井「これ……おかしいよ!」

添「どこがおかしいんだ?」

戸井「だって……黒田くんはスマホのメッセージも誤字だらけなんだよ?! こんなきれいな文章、書けるわけないよ!」

添「なんだって?」

添は写真を手に取り、凝視した。

添「たしかに、誤字脱字はないな」

戸井「……許せない」

先ほどまで憔悴していた戸井は、怒りを燃やしている。

戸井「黒田くんは殺されたんだ! そしてその犯人はきっと、今までの事件の犯人でもあるんだよ! 黒田くんにぜんぶ濡れ衣を着せて殺したんだよ!」

寧音「落ち着けトイプー」

寧音が諭すも、戸井の怒りは収まらない。

戸井「添くん! 犯人を捕まえよう! ボクは黒田くんを殺したやつを絶対に許さない! 捕まえて、ぶん殴ってやりたいんだ!」

戸井は立ち上がり、涙ながらに訴えた。

戸井「添くん!!」

添「……戸井風斗。お前はどうしてそこまでするんだ?」

戸井「友達だからに決まってるじゃないか!!!!!」

戸井に圧倒されたのか、添はめずらしく目を丸くした。
そして、一瞬だけ口角を上げた。

添「…………フッ」

寧音(添が、笑った……?)

常に仏頂面の添の変化に、寧音は気づいた。が、そのことに言及はしなかった。

添「よし、では黒田緑青を殺した犯人を見つけるぞ」

まどか「でも、どうやって……?」

添「昨日の事情聴取で、現場の状況や校内にいた者のアリバイなんかをすべて聞いてきた。これを元に推理しよう」

添はまたしても胸ポケットに手をやり、今度は黒い手帳を取り出した。


添「事件発生時、俺と戸井風斗は、品田雅子先生に連れられて保健室にいた。戸井風斗がトイレに行った後、急にバーンと大きな音がして、俺は保健室を飛び出した。現場は保健室を出てすぐ、1階の螺旋階段だ。戸井風斗がへたり込んでいる先に、黒田緑青が血を流して倒れていた」

一瞬、戸井の顔色が悪くなったが、すぐに立ち直った。

添「死因は、頭部外傷による出血性ショック死。螺旋階段の4階から転落したものと見られる。現場付近にはあやしい痕跡がなかったことから、なにか仕掛けがあったとは考えにくい。現場にあったのは、さっきの遺書くらいだ」

寧音「シンプルに突き落とされた、というわけか」

添「そしてアリバイ。俺と品田雅子先生は音がした瞬間に保健室にいた。戸井風斗は、俺が保健室を出たときすでに現場にいたが、4階にいた人間があんなに早く1階まで降りられない。事件当時アリバイのない者は、6人だ」

まどか「6人か……けっこういるわね」

添「その6人とは、金持鶴之介、米村寿江、田佐井親次先生、野呂真先生、斉園理人先生、そして是津延泰校長だ」

戸井「校長先生も?」

添「ああ、2階にある校長室に一人でいたらしい。前回の定期テストの答案を、全校生徒分チェックしていたそうだ。校長室は職員室の隣だが、事件当時、職員室にはだれもいなかったらしい」

寧音「そういえば校長本人から聞いたことがある。全校生徒の答案をすべて確認するのが校長としての務めだ、と」

添「次に金持鶴之介。帰宅する直前に腹痛を覚え、事件が発生するまでの間ずっと4階のトイレにこもっていたらしい。なんでも、タンパ君のブイヤベース味を食べてお腹を下したそうだ。あんなに美味いのにな」

戸井「親が経営する会社の商品でお腹壊すなんて、なんかかわいそうだね……」

添「米村寿江は、屋上にいたそうだ。毎月1日は自転車に乗る練習をすると言っていたしな。だが、その日は練習を早めに切り上げ、屋上の真ん中に座ってぼーっとしていたらしい。耳が遠いせいか、大きな音には気づいていないようだった」

まどか「88歳だもんね……」

添「田佐井親次先生は、直前まで外で是津延泰校長の銅像工事の立ち会いをしていた。ところが、手続きに必要な書類を忘れたとかで、職員室に戻った。腰痛でひいひい言いながら螺旋階段で2階に上がり、職員室のドアを開けようとしたときに大きな音が聞こえたようだ。その間、だれにも会ってはいないらしい」

戸井「相変わらず不憫だな、田佐井先生……」

添「校内を見回っていた野呂真先生は、事件発生時にどこにいたかは明確にはわからないとのことだ。非常階段を3階から2階へ下りたところで、職員室の方が騒がしいことに気づき、是津延泰校長たちと一緒に降りてきたらしい」

寧音「見回りしていたのなら、いつどこにいてもおかしくない、か」

添「最後は斉園理人先生だな。黒田緑青の補習が終わった後、一旦職員室に戻ってから、4階の図書室で本を探していたらしい。司書はすでに帰宅していて、1時間以上はずっと一人だったと。是津延泰校長から携帯に連絡が入り、それで駆けつけたようだ」

戸井「図書室でなにしてたんだろ?」

添「以上が六人の証言だ。これを基に、事件発生時だれがどこにいたかを図で描いてみよう」

添は、手帳に校舎の簡単な図面を描き、そこに事件発生時の各人の位置を書き込んだ。

戸井「なるほど、こういう状況だったんだね」

まどか「4階から突き落とされたのなら、事件発生時に4階にいた斉園先生と金持くんがあやしいね」

寧音「いや、屋上にいた米村も犯行は可能だ。屋上から4階に下りればすぐに犯行現場へたどり着く」

戸井「じゃあその三人のだれかかなぁ?」

添「もしかしたら、下の階にいながら、4階にいる黒田緑青が転落するよう仕向けた可能性もあるかもしれんな。だとすれば、2階にいたほかの三人にも犯行が可能となる」

寧音「なにか思い当たる方法があるのか?」

添「ない」

まどか「ないんだ……」

四人が頭を捻るも、現時点ではこれ以上の進展はなかった。

添「こうなったら直接現場を調べるしかないな」

戸井「でもどうやって? 学校は今も警察が調べてるんじゃないの?」

添「それはなんとかなる」

寧音「添、お前は何者なんだ? 遺書の写真といい、どうして警察のように立ち回れる?」

添「それは言えない。だが、いずれわかる」

そう言うと、添は部屋を出ていった。

まどか「謎の多い人だよね、添くんって」

戸井「でも、悪い人じゃないと思います」

寧音「それはそうかもしれないが……」

戸井「とにかく、添くんが現場を調べている間、ボクたちもできることをやりましょう! ボクは金持くんにもっと詳しい話を聞いてみます!」

寧音「そうだな。私は外で作業していた工事業者に当たってみようと思う」

まどか「じゃあ私は、米村おばあちゃんのところに行くね。家、うちの近所みたいだから!」

三人もまた、自分のやるべきことのために、部屋を飛び出した。


~道路~

添が走りながら、電話をしている。

添「添光成だ。例の才駆論高校の事件のことだが、至急調べてほしいことがある」


~私立才駆論高校 校長室~

学校に着いた添は、まず校長室に顔を出した。

コンコン

是津「はい」

添「添光成です」

是津「君か……」

戸井ほどではなかったが、是津もかなりやつれている。彼もまた、黒田の死に胸を痛めていた。

是津「黒田くんがあんなことになってしまって……わし絶不調……」

添「心中お察しします。こんな状況で恐縮ですが、現場を調査したいので、許可をお願いします」

是津「調査? 彼は自殺ではないのかね?」

添「はい。まだ推測の域を出ませんが、遺書が偽造された疑いがあります」

是津「……つまり殺人の可能性がある、と?」

添「はい。そのため、一度、現場の様子を確かめたいのです」

是津「……まあ君のことだからそれは構わんがの」

是津が添に詰め寄る。

是津「は、だれにも話していないだろうね?」

添「もちろんです。守秘義務がありますから」

是津「ほうか。ならよい」

添「ありがとうございます。では失礼します」

添が退室した。


~私立才駆論高校 1階 螺旋階段前廊下~

若い警察官と中年の警察官が、見張りをしている。若い方が、添の姿を見つけて声をかけた。

若い警察官「あ、ダメだよ君! 昨日、事件があったから、今日は臨時休校なんだよ」

添「俺は添光成だ。現場を調べさせてもらいたい」

若い警察官「ゾエミツナリぃ?」

訝し気な顔をする若い警察官だったが、先輩であろう中年の警察官に肘で小突かれた。

中年の警察官「き、君が……いやあなたがあの……!」

若い警察官「え、知ってる人ですか?」

中年の警察官「バカ! この方は……」

中年の警察官は、若い警察官に耳打ちをした。

若い警察官「……えっ! そうなんですか?! うわ、失礼しました! どうぞ!」

若い警察官は、青ざめた表情で添に敬礼した。

添「礼を言う」


~私立才駆論高校 4階 螺旋階段前廊下~

添(ここが現場だな)

添は、黒田が突き落とされた、4階の螺旋階段前廊下にやってきた。

踊り場の手摺りのすぐそばまで来たとき、添は足元に違和感を覚えた。

添(床がベタベタする)

ビャッビャッという不快なべたつき音を纏いながら、添は現場の細部まで入念に調べた。

添(ほかに気になるものはないな……ん)

ふと顔を見上げると、添の目に屋上へ続く扉が映った。

添(屋上か……)


~私立才駆論高校 屋上~

添は初めて屋上にやってきた。開放的な空間に、少しだけ清々しさを感じた。

添(それにしても、風が強いな……)

この屋上は、突風が多いことで有名だった。

添(たしか、米村寿江がここで自転車に乗る練習をしていたんだったな。しかし、こんなに風が強かったら、簡単に落ちてしまい……)

ここで添があることに気づく。

添(待てよ……なぜ犯人は屋上ではなく螺旋階段で黒田緑青を突き落としたんだ? 屋上の方がよっぽど突き落としやすいのに。それに、米村寿江が自転車の練習をしていたとしても、日を改めればいいだけのこと……)

ヴーンヴーン

ポケットのスマホが振動した。画面には「戸井風斗」と表示されている。

添「戸井風斗か。どうした」

戸井「添くん! 金持くんから新しい証言をもらったよ!」

添「なに? どうしてお前が……」

戸井「添くんにばっかり頼っていられないからね! メガネネさんもナンマドさんも、それぞれ別のことを調べてるよ! ボクは金持くんに電話して、いろいろ話を聞いていたんだ!」

電話越しの戸井は、どこか生き生きしている。

戸井「それでね、金持くんの事件当時のことなんだけど……」


~戸井と金持の通話(回想)~

金持「ああ、黒田とは小学校からずっと一緒だったからな……さすがにこたえたよ……」

普段は高慢ちきな金持も、幼馴染の死に心を痛めていた。

戸井「そうだよね……ボクも黒田くんとは補習で一緒だったり、DVDを貸してもらったりしてたから、わかるよ」

金持「戸井は最初に黒田を発見したんだってな。その、なんていうか……大変だったな」

戸井「うん……でも、ボクは黒田くんの死を無駄にしないって決めたんだ」

自分に言い聞かせるように戸井が言った。

戸井「ボクは黒田くんをあんな目に遭わせた奴を許さない! だから今、いろいろ調べてるんだ」

金持「ちょっと待て! 黒田は自殺だったんじゃないのか?!」

驚く金持。

金持「遺書が見つかったって聞いたけど……」

戸井「あれは偽造の可能性が高いんだ。だから、事件当時、校内にいた人たちの証言をもう一度洗い出したいんだ。金持くん! どんなことでもいいから、なにか変わったことがなかったか教えてくれないかな?」

金持「……オレも容疑者の一人なのか?」

戸井「そういうことになるね。だけど、ボクは違うと思う」

金持「なんでだ?」

戸井「だって、友達じゃないか!」

金持「……!」

戸井の純粋な気持ちに、金持はどこか胸を打たれた。

金持「……変わったことっていうかさ」

金持がおもむろに語り始める。

金持「オレ、事件が起きたとき4階のトイレにこもってた、って言ったじゃん? 実はあれ、女子トイレだったんだ」

戸井「女子トイレ?」

予想外のことに、戸井の声は裏返った。金持が急いで弁解する。

金持「やらしいことなんて考えてないからな?! ……あのとき、なぜか男子トイレに使用禁止の札がかかってたんだ。ほかの階の男子トイレに行けばよかったんだろうけど、けっこう限界近くてさ……テスト前でほとんど人もいなかったし、バレないだろって」

戸井「そうだったんだ……でもなんで使用禁止だったんだろ?」

金持「それはわかんないけど……あ、変わったことといえば」

戸井「なになに?」

金持「トイレにこもってるとき、すごいでかい音がしたんだ」

戸井「それって、黒田くんが落ちちゃったときのバーンって音?」

金持「いや、もっと連続した音だった。ドドドドドって感じの。なんか工事でもやってんのかなって思ってたんだけどさ、ほかの人がそのことについてなにも言わないから、オレも言わないでいたんだ」

戸井(工事か……たしか校長先生の銅像をつくる工事をしていたな……)

事件当時、是津の銅像が設置されているところだった。戸井はそのことを思い出していた。

金持「で、その後すぐトイレから出て帰ろうと思ったら、なぜかドアが開かなくて。思いっきり力を入れたら開いたんだけど、外側にガムテープが貼られてたんだよ。それから階段を下りていくと先生方がバタバタしてて、事件のことを知ったってわけ。オレが気づいたのはこれくらいかな」

戸井「ありがとう! 金持くん!」

~回想終わり~

~私立才駆論高校 屋上~

添「……なるほど、金持鶴之介は事件当時4階の女子トイレにいて、ドドドドドという連続した音を聞いた、と」

戸井「うん。校長先生の銅像をつくる工事があるって、田佐井先生が言ってたじゃない。その工事の音なのかなって」

添(だが、4階のトイレまで工事の音が届くものなのだろうか……)

添は屋上から銅像の設置場所を見下ろした。是津の等身大サイズの銅像をつくっているところだったが、屋上からは米粒ほどの大きさに見える。設置場所からは意外と距離があった。

添「ガムテープもきっと犯人の仕業だろうな。わかった。俺も引き続き現場を調べてみる。礼を言うぞ」

戸井「うん! ボクもほかに新しい情報がないか調べてみるよ!」

戸井との通話を切り、添は屋上を後にした。


~私立才駆論高校 螺旋階段~

ヴーンヴーン

螺旋階段を下りていると、またしてもポケットのスマホが振動した。

添「添光成だ。なにかわかったか?」

???「はい。取り急ぎ報告です」

電話から、低い男の声が流れた。戸井とも是津とも違う、中年のそれだった。

???「被害者の首の後ろ、うなじの当たりに、真新しいやけどの痕がありました。おそらく、スタンガンかなにかでしょう」

添(スタンガン……! そういえば事件のあった日、戸井風斗がスタンガンを紛失していた。犯人が盗んだのか……!)

???「また、被害者の履いていた靴の裏に、ガムが付着していました。調べた結果、被害者が事件の直前まで噛んでいたものと断定されました」

添(そういえば床がベタベタしていたな。あれはガムだったのか)

自身の捜査結果と照らし合わせながら、添は通話を続ける。

添「スタンガンで気絶させられ、その拍子に噛んでいたガムが落ち、靴の裏にくっついた、というわけか」

???「おそらくは。それで、そのガムに妙な繊維が付着していまして……」

添「妙な繊維?」

???「ええ。細い糸のようなものが付着していたのですが、鑑識でもよくわからなくて……現在、専門機関に依頼して急ピッチで調査しているところです。この付着物の正体がわかったら、すぐに連絡します」

添「そうか。では引き続き頼んだぞ」

通話を終えたときには、1階まで下りてきていた。ちょうど品田がそばを通りかかったところだった。

品田「ああ……テンくん」

添「添光成です。品田雅子先生、ご気分はいかがでしょうか」

品田「ええ……なんとか大丈夫よ」

そう言うも、品田の顔色はすぐれない。

品田「……ちょっとお茶に付き合ってくれない? 一人だとなんだか不安で……」

添「俺でよければ」


~私立才駆論高校 保健室~

品田がお茶を淹れる。しかし、心ここにあらずか茶葉を入れ忘れ、ポットからは透明なお湯が出ている。添はなにも言わずに白湯を飲んだ。

品田が、ぽつりとつぶやく。

品田「あの子……黒田くんね、1年生の頃はよくここに遊びに来てくれたのよ。ほら、あの子って部活動はやっていないし。手芸のこととかなにもわからないはずなのに、私の話をニコニコしながら聞いてくれる良い子だったのよ……」

品田の目に涙が浮かぶ。

品田「それなのに、どうして……どうしてあんな良い子が死ななくちゃならないの……うっうっ」

品田はすすり泣いた。

品田「……ごめんなさいね。あなたもお友達を失ってつらいでしょう」

添「俺は大丈夫です」

品田「そう……私ね、つらいときは『月刊すげー手芸』を読んで心を紛らわせるんだけど、今回は逆効果だったみたい」

添「? どういうことですか?」

品田「この人もね、自殺しちゃったのよ。何年か前だけどね。殺人事件の犯人だって言われてたんだけど、実はえん罪だったらしくて。でも、その疑いが晴れる前に……」

品田は月刊すげー手芸を開き、添に見せながら、当該人物の写真を指差した。

添「これは……!」

添があることに気づく。

添「……品田雅子先生。これ、お借りしてもいいでしょうか」

品田「え、ええ、構わないけど……」

ヴーンヴーン

添「ありがとうございます。電話が来たのでここで失礼します。お茶、ご馳走様でした」


添は保健室の外で電話に出た。

添「添光成だ」

???「さっきの付着物の正体がわかりました」

添「本当か! ………………! そうか、そうだったのか……!」

添はなにかを確信した。

添「礼を言う」

電話を切り、添は駆け出した。

添(間違いない。黒田緑青を殺したのは、あの人だ……!)


(つづく)



前話次話

全話リスト


いいなと思ったら応援しよう!

アルロン なんと アルロンが おきあがり サポートを してほしそうに こちらをみている! サポートを してあげますか?