裁量労働制実態調査を厚生労働省が労働条件分科会で再度行うと表明
労働政策審議会 (厚生労働大臣の諮問機関)労働条件分科会が昨日(2026年4月17日)開催されましたが、厚生労働省は裁量労働制実態調査2026を行うよう検討していると表明。なお高市総理は施政方針演説で「裁量労働制の見直し」と言及されていました。*写真は首相官邸ウェブサイトより転載
働き方改革の総点検と裁量労働制の見直し
高市首相は今年(2026年)2月20日の施政方針演説で「働き方改革の総点検においてお聞きした働く方々のお声を踏まえ、裁量労働制の見直し、副業・兼業に当たっての健康確保措置の導入、テレワークなどの柔軟な働き方の拡大に向けた検討を進めます」とのべています。
「働き方改革の総点検」とは働き方改革関連法施行後5年の総点検(調査)のことですが、調査結果は厚生労働省が(2026年)3月5日に公表しました。
その調査結果の中で裁量労働制に関する記載と言えば、「労働者ヒアリング調査 調査結果 (労働基準関係法に対する課題・要望)」に書かれていた一人の方の意見だけでした。
〇個別制度に関する意見
・裁量労働対象者についても過重労働になっている者はおらず、自分の裁量で研究に従事できるため、良い制度だと思っている。
結局、この匿名の裁量労働制適用者一人だけの声を聞いて裁量労働制の見直し、率直に言えば、裁量労働制の対象拡大はできないでしょう。
そこで、いきなり裁量労働制実態調査2026を厚生労働省が、労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)労働条件分科会で表明した、ということでしょう。
そうすれば、今度は「裁量労働制実態調査2026で聞いた声により裁量労働制の見直し(裁量労働制の対象拡大)」と言えるから、ということでしょう。
しかし厚生労働省の裁量労働制実態調査はすでに2019年に調査、2021年に公表されました。
その後、2023年に厚生労働省が改正され、2024年4月1日から施行(実施)され、専門業務型裁量労働制の対象となる業務は銀行又は証券会社の顧客のM&Aに関する調査、分析、考察、助言に関する業務が追加され、対象業務が20になりました。
裁量労働制実態調査2019~2021とは
すでに厚生労働省が実施して結果も公表している裁量労働制実態調査は「専門業務型及び企画業務型それぞれの裁量労働制の適用・運用実態や裁量労働制の適用・非適用による労働時間の差異等を把握すること」を目的として実施されました。
また主な調査事項は
(1) 適用事業場と非適用事業場それぞれについて、労働時間、業務遂行における裁量の程度、今後の裁量労働制に対する意見(対象労働者の範囲等)
(2) 適用労働者と非適用労働者それぞれについて、労働時間、健康状態、業務遂行における裁量の程度、今後の裁量労働制に対する意見(対象労働者の範囲等)
(3) 適用事業場において求められる措置(同意(撤回)手続、健康・福祉確保措置、苦情処 理措置、労使委員会等)の実態等
この裁量労働制実態調査のプレ調査は2019年8月~9月、本体調査は2019年は11月~12月に行われましたが、結果公表は2021年6月25日になりますので裁量労働制実態調査2019~2021と呼ぶようにします。
裁量が高いと満足し裁量が低いと健康に悪影響
(前述の)働き方改革関連法施行後5年の総点検(調査)結果で裁量労働制を良い制度だと評価している方は「自分の裁量で研究に従事」している方です。
東京大学サイトの2024年12月20日の記事に『新たな政府統計の分析が明らかにした「裁量労働制」の労働環境への影響』と題された記事があります。
その記事によると、東京大学公共政策大学院の川口大司教授、早稲田大学教育・総合科学学術院の黒田祥子教授らの研究グループが裁量労働制が、「労働者の労働時間、賃金、健康、満足度に与える影響」を分析し、その研究結果「労働者が業務に対してどの程度の裁量を持つかが、制度(裁量労働制)の効果を大きく左右すること」を明らかにしました。
この研究では厚生労働省が2019年11月から12月にかけて実施した裁量労働制実態調査データを活用しています。
また、この研究では裁量の大きさを5つの側面で測定し、これらの基準に基づき自己決定の割合が高い労働者を「裁量が高い」と定義しています。
分析研究の結果は「裁量が高い労働者では健康状態の悪化は見られませんでしたが、裁量が低い労働者では長時間労働が健康に悪影響を与える傾向がありました」 、また「裁量が高い労働者は満足度が向上する一方、裁量が低い労働者では満足度が低下しました」ということです。
働き方改革の総点検(働き方改革関連法施行後5年の総点検)調査結果の34ページに記載された働く方(一人)の意見も、分析研究の結果と変わらないということがわかりました。つまり裁量の高い裁量労働制適用者の満足度は高いということです。
新たな政府統計の分析が明らかにした「裁量労働制」の労働環境への影響(東京大学)
裁量労働制拡大をめぐり連合と経団連が激論
昨年(2025年)12月24日には高市内閣の日本成長戦略会議で経団連会長が裁量労働制の対象拡大を提案しましたが、この日に開催された労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)労働条件分科会で連合の冨高裕子副事務局長と経団連の鈴木重也労働法制本部長が裁量労働制の対象拡大をめぐり激論となりました。
その分科会において黒田委員(黒田祥子・早稲田大学教育・総合科学学術院教授)は「裁量労働制調査にずっと関わってきた者として、少し意見を述べさせてください。(略)より精緻な分析で見えてきたことは、裁量労働制適用者でも、裁量がない人たちは健康状態が悪いということが見えています。したがって、これは再三申し上げてきたことですけれども、裁量労働制を導入しさえすれば健康もよくなるということではないということは、念のため、もう一度申し上げておきたいと思います」と発言しています。
つまり裁量労働制実態調査2019~2021結果の分析によると「裁量度の低い裁量労働制適用者は心身の健康を害する」ということです。
高市総理と裁量労働制実態調査2026
高市総理は裁量労働制実態調査2019~2021(2019調査、2021公表)分析結果があるにもかかわらず、自分が施政方針演説で述べた「裁量労働制の見直し」(裁量労働制の対象拡大)を実現するために不必要な裁量労働制実態調査2026を実施しようとしているような気もします。
ただし前回の裁量労働制実態調査2019~2021以後、2023年に厚生労働省令が改正され、2024年4月1日から施行(実施)され、専門業務型裁量労働制の対象となる業務に銀行又は証券会社の顧客のM&Aに関する調査、分析、考察、助言に関する業務が追加されています。
追加された業務にについては実態調査は行われていませんので、その意味では必要な実態調査であるかもしれません。

参考:裁量労働制実態調査2026に関する報道
労働政策審議会(厚生労働大臣の諮問機関)労働条件分科会(2016年4月17日開催)に関する報道記事になります。
時事ドットコムニュース
時事ドットコムニュースは「厚生労働省は(4月)17日の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の分科会で、裁量労働制の実態調査を行う方針を示した。裁量労働制を巡っては、高市早苗首相が見直し検討を表明。運用状況などについて最新の動向を把握し、今後の議論の参考とする。同省幹部が審議会で明らかにした。2019年に行った裁量労働に関する実態調査をベースに『中立的に、限られた予算と期間で行う』と説明した」と報じています。
朝日新聞
朝日新聞の記事(裁量労働制、実態調査を検討 働き手の満足度や健康確保など 厚労省)には「高市早苗首相が掲げる『裁量労働制の見直し』をめぐり、厚生労働省は(4月)17日、裁量制を導入する企業や働く人への実態調査を検討していると明らかにした。働き手の満足度や、企業による健康確保措置の状況などを調べ、今後の労使や学識経験者らの議論に役立てたい考えだ」と書かれています。
また朝日新聞の記事には「2024年に制度の見直しがあり、専門型の対象となる業務が増えたほか、適用の際に企画型のみに必要だった労働者本人の同意を専門型にも広げた。長時間労働の抑制のため、終業から始業まで一定時間をとる勤務間インターバル、労働時間の上限を設けるなどの項目が、企業が選んで行う措置に加わった」と付け加えられています。
読売新聞
読売新聞オンラインの記事(裁量労働制の「実働時間」「満足度」調査へ、見直し議論の参考に…高市首相は「柔軟な働き方」拡大に意欲)には「厚生労働省は(4月)17日、実際の労働時間にかかわらず一定時間働いたとみなす『裁量労働制』について、適用労働者の実働時間などの実態調査に乗り出す方針を明らかにした。高市首相は制度の見直しも含めた柔軟な働き方の拡大に意欲を見せており、厚労省は調査結果を参考に見直しの議論を進める」と記載されています。
また記事には「この日の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の分科会で、厚労省の担当者が実態調査を実施する意向を示した。調査時期や規模は未定だが、適用された労働者や企業などを対象に実働時間や裁量の度合い、満足度などを聞き取るという」と書かれています。
そして記事には「厚労省による裁量労働制の実態調査は2019~21年にも行われている。この時の調査では、裁量労働制で働く人の1日の平均労働時間が一般労働者より21分長い実態などが判明した」と付け加えられています。
日テレNEWS
日テレNEWSは「労働者と経営者が事前に決めた『みなし労働時間』をもとに賃金を支払う裁量労働制をめぐっては、高市首相が今年(2026年)、見直しに向けた検討を進めると表明しています。こうした中、厚労省は(4月)17日、『働き方』について議論する審議会で、『裁量労働制』の実態を把握するための調査を行う方針を明らかにしました」と報道しています。
また「多様な働き方を重視するため経営側は、裁量労働制の対象拡大に賛成の立場をとる一方、労働者側は、長時間労働につながるおそれなどから対象拡大については反対で、出席した委員からは『今調査を行うことの必要性に疑問を感じざるを得ない』との意見が出ました」「 厚労省は、2019年に行った過去の調査をもとに実態調査をすすめていくとしています」とも報じています。
TBS NEWS DIG
TBS NEWS DIGは「高市総理が見直しを検討するとしている裁量労働制について、厚生労働省は実態を把握するための調査を検討していると明らかにしました」と報道しています。
また「審議会では、裁量労働制の職種の対象拡大を求めている経団連側が、『前回が古い調査ということもあり、今時点での裁量労働制の状況がどうなのか改めて把握し、議論することが重要』などと主張。 一方、対象拡大に反対している連合側は、『いま調査を行う必要性と妥当性に疑問を感じざるを得ない』『経済団体などからの見直しの要望を踏まえたという意味合いを持たれてもやむを得ない』などと批判しました」「裁量労働制をめぐる調査は、2019年に裁量労働制の対象者の労働時間や満足度などを集計していて、厚労省はこの前回の調査をベースに現状の実態調査を行うことを検討しています」とも報じています。
共同通信
共同通信は「高市早苗首相が掲げる『労働時間規制の緩和検討』を巡り、厚生労働省が、各企業における裁量労働制の運用状況に関する実態調査に乗り出す方針を固めた。(4月)17日に開催された、労使の代表による労働政策審議会分科会で厚労省が表明した。分科会では同制度を含む労働基準法改正についての議論が進んでおり、現状把握が必要と判断した」と報じています。
また「厚労省によると、開始時期や規模は未定という。具体的な調査内容は今後詰める見通しだが、裁量労働制が適用されている労働者の実際の裁量具合や、同制度に対する満足度について尋ねることなどを想定している」「裁量労働制を巡っては、高市首相が2月の施政方針演説で『見直しなどの検討を進める』と言及していた」とも報じています。
追記:裁量労働制に関する実態調査(案)
本日(2026年5月13日)労働政策審議会(厚労大臣諮問機関)労働条件分科会が開催され、厚生労働省は裁量労働制に関する実態調査(案)をしめしました。調査は7月~8月に行われる予定。
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