年金に税金はかかる?公的年金等控除と確定申告の注意
「ねんきん定期便に書かれていた見込額、あの金額がそのまま振り込まれる」——そう思っていませんか。実は、年金にも税金はかかります。受け取るときには税金や社会保険料が引かれるので、額面と手取りは別の数字です。
しかも、ここには多くの方が誤解している落とし穴があります。「年金生活者は確定申告をしなくていい(確定申告不要制度)」という話を聞いて、「だから何もしなくていい」と思い込んでしまうことです。実際には、申告したほうが得になる場合もあれば、別の申告が必要になる場合もあります。
この記事では、年金にかかる税金のしくみを、銀行や保険の「だから運用を」「だから保険を」という誘導なしで、中立に整理します。
(私はアクチュアリー〔年金数理の専門家〕の準会員として、企業が将来支払う退職金や年金の額を数理計算し、その内容を説明する仕事をしてきました。その立場から、制度のしくみを中立にお伝えします。個別の損得や、特定の金融商品をすすめるものではありません。)
年金は「雑所得」——だから税金がかかります
まず大前提として、公的年金(国民年金・厚生年金など)は、税金の世界では「雑所得」という所得に分類されます。給料が「給与所得」であるのと同じように、年金は雑所得として所得税・住民税の対象になります。
ただし、年金は老後の生活を支えるお金なので、そのまま全額に税金がかかるわけではありません。「公的年金等控除」という、年金専用の大きな控除が用意されています。計算の骨格はとてもシンプルです。
年金の収入金額 − 公的年金等控除額 = 税金の対象になる所得
この「公的年金等控除額」が大きいほど、税金の対象は小さくなります。そして、年金以外の所得が1,000万円以下の方の場合、控除額には最低保証があります。
65歳未満の方:年金収入が60万円以下なら、公的年金等控除で全額が引かれ、年金にかかる所得はゼロになります。
65歳以上の方:年金収入が110万円以下なら、同じく所得はゼロになります。
つまり、65歳以上の方なら、年金収入が110万円までは、年金そのものには所得がかからない計算です。実際には、ここからさらに基礎控除など本人共通の控除が引かれるので、税金がまったくかからない範囲は、もう少し広がります。「年金にも税金がかかる」とはいっても、いきなり全額に課税されるわけではない、という点はまず押さえておきたいところです。
税金は「あらかじめ引かれている」——源泉徴収のしくみ
では、税金はいつ払うのでしょうか。実は、一定額以上の年金を受け取っている方は、年金が振り込まれる時点で、すでに所得税が天引きされています。これを源泉徴収といいます。
源泉徴収される金額は、ざっくりいうと「年金額から一定の控除を引いた残りに、5.105%をかけた額」です(この5.105%には、復興特別所得税が含まれています)。給料から所得税が天引きされるのと同じ発想です。
ここで一つ知っておきたいのが、「扶養親族等申告書」という書類です。これは、配偶者や扶養家族がいる方、障害のある方などが、その分の控除を年金の天引きの段階で反映してもらうための申告書です。日本年金機構から送られてきたら、提出するかどうかで天引きされる税額が変わることがあります。届いたまま放置せず、自分に当てはまる控除がないかを確認しておくと安心です。
なお、混同しやすいので、税金に関わる「二つの目安」を整理しておきます。
110万円(65歳以上)/60万円(65歳未満):この年金収入までは、年金そのものにかかる所得がゼロになる線です(さらに基礎控除等で非課税の範囲は広がります)。
205万円前後(65歳以上)/155万円前後(65歳未満):これを下回ると、そもそも年金から源泉徴収(天引き)されない目安の線です(2026年からの新しい基準。詳しくは後ほど)。
数理の視点から——額面を増やしても、手取りは同じ割合では増えません
年金額を数理で扱ってきた立場から、税金の話で一つ、見落とされやすい点をお伝えします。
「年金を増やせば、その分だけ手取りも増える」——直感ではそう思えます。けれども、税金や社会保険料まで計算に入れると、そう単純にはいきません。
たとえば、受給を遅らせる「繰下げ」をすると、年金の額面は最大で4割以上増えます。ところが、額面が増えると、それに連動して、
雑所得が増えて、所得税・住民税が増える
源泉徴収で天引きされる税が増える
介護保険料や国民健康保険料を計算する基礎(所得)も上がる
——という、手取りを減らす方向の要素が同時に動きます。その結果、「額面が4割増えても、手取りは4割までは増えない」ということが起こります。
私は企業の年金や退職金の数理計算を毎年してきましたが、この「額面の増え方と、手取りの増え方が一致しないズレ」は、受け取り方を設計するときに必ず効いてきます。額面の数字だけを見て「増えるから得」と決めず、税と社会保険料を引いた手取りどうしで見比べる——これが、数字を扱う立場からのいちばんのおすすめです。
ここが落とし穴——「確定申告不要制度」は『何もしなくていい』ではありません
さて、いよいよこの記事の本題です。年金生活者の方には、「確定申告不要制度」という、申告の手間を省ける仕組みがあります。次の2つを両方とも満たす方は、所得税の確定申告をしなくてよい、というものです。
公的年金等の収入金額が400万円以下(かつ、その全部が源泉徴収の対象であること)
公的年金等以外の所得金額が20万円以下
多くの年金生活者の方が、この条件に当てはまります。ただ、ここで「申告不要」を「何もしなくていい」と取り違えると、損をすることがあります。落とし穴は二つあります。
落とし穴1:申告したほうが「得」になる場合がある
確定申告不要制度は、あくまで「申告しなくてもよい(義務がない)」という制度であって、「申告してはいけない」という制度ではありません。次のような事情がある方は、確定申告をすることで、源泉徴収で天引きされていた税金の一部が還付(返ってくる)になることがあります。
1年間の医療費(生計を同じくする家族の分も合算できます)が大きくかかった年(医療費控除)
生命保険料・地震保険料を払っている(生命保険料控除など)
災害や盗難の被害にあった(雑損控除)
たとえば、年間の医療費が10万円を大きく超えていれば、医療費控除によって、先に天引きされた税金の一部が戻ることがあります。戻る額は人によって変わりますが、大切なのは「源泉徴収で先に納めた税金を、申告で精算して取り戻せる」という構図を知っているかどうかです。「申告不要だから」と何もしないと、本来戻ってくるはずのお金を取りこぼしてしまいます。
落とし穴2:所得税は不要でも、「住民税の申告」は別に必要なことがある
これは特に見落とされやすい点です。確定申告不要制度は所得税のしくみです。住民税は別のルールで動いているため、所得税の確定申告をしない場合でも、お住まいの市区町村への住民税の申告が必要になることがあります。
住民税の申告が関わってきやすいのは、たとえば、所得税の確定申告をしない方で、医療費控除を反映したい場合や、国民健康保険料・介護保険料などの軽減・判定に関わる場合です。必要かどうかは自治体によって扱いが異なるので、「自分は申告不要だから住民税も大丈夫」と早合点せず、迷ったらお住まいの市区町村の窓口で確認してください。
【2026年からの変更】源泉徴収の対象になる年金額の基準が引き上げられます
新しい制度の動きも、一つお伝えします。令和7年度の税制改正で基礎控除などが見直され、それに連動して、年金から所得税が源泉徴収される対象になる年金額の基準が、2026年(令和8年)分から引き上げられます。国税庁・日本年金機構の案内によると、おおむね65歳以上は年金収入205万円未満、65歳未満は155万円未満の方が、源泉徴収の対象から外れる目安です(従来はそれぞれ158万円未満・108万円未満でした)。
つまり、税負担が軽くなる方向の改正が進んでいます。ただし、適用される金額や細かい条件は、ご本人の状況によって変わります。自分の正確な金額や、源泉徴収がどう変わるかを知りたい場合は、年金事務所や国税庁の最新の案内、お近くの税務署で確認してください。
その数字が、次の判断を動かします
年金の税金は、しくみを知って終わりではなく、受け取り方しだいで手取りそのものが変わってきます。ご自身の状況に近いものから、目を通していただければと思います。
そもそもの見込額(額面)をどこで見るのか確かめたい方へ。額面の数字は、毎年届くねんきん定期便で確認できます。読み方は 「ねんきん定期便の読み方」 で整理しています。
これから受け取り方を考える方へ。退職金や年金は、一時金で受け取るか年金で受け取るかによって、税金のかかり方が大きく変わります。全体像は 「退職金・iDeCo・年金の受け取り方」 です。
受給を遅らせようか迷っている方へ。繰下げで額面が増えると、この記事で見たとおり税や社会保険料も増えます。額面の増加だけで判断しないための視点は 「繰下げ受給」 で整理しています。
どこから考えればいいか分からない方へ。30秒のセルフチェック で、自分がまず考えるべき論点を絞れます。
まとめ
公的年金は税金の世界では「雑所得」で、所得税・住民税の対象になります。ただし公的年金等控除があり、65歳以上は年金収入110万円、65歳未満は60万円までは年金にかかる所得がゼロになります。
一定額以上の年金には、振り込みの時点で5.105%の所得税が天引き(源泉徴収)されています。扶養親族等申告書を出すと、天引きされる税額が変わることがあります。
額面を増やしても、税・社会保険料が連動して動くため、手取りは同じ割合では増えません。額面でなく手取りで見比べます。
確定申告不要制度(年金収入400万円以下 かつ それ以外の所得20万円以下)は「申告しなくてよい」であって「何もしなくていい」ではありません。医療費控除などがあれば申告で還付になることがあり、所得税が不要でも住民税の申告は別途必要なことがあります。
2026年(令和8年)分からは、税金が天引きされる年金額の基準が引き上げられます(65歳以上205万円未満・65歳未満155万円未満が目安)。正確な金額は年金事務所・税務署で確認してください。
ねんきん定期便の見込額(額面)の読み方は こちら で整理しています。受け取り方による手取りの違いの全体像は こちら です。
退職後の健康保険(任意継続・国民健康保険・家族の扶養)を、どれにするかで迷う方は こちら で3つの選び方を比べています。
確定申告が必要かどうか(しなくていい人・損する人)は 年金の確定申告は必要? で見分け方を整理しています。
もしお役に立てたら、スキやフォローをいただけると励みになります。年金や制度のしくみを、できるだけ事務的にならずに整理して発信しています。
本記事は2026年(令和8年)時点の制度に基づく一般的な説明です。税制は改正され、控除額・要件・税率や年金額は年度や個人の状況により異なります。確定申告の要否、還付の可否、住民税申告の要否、ご自身の正確な税額は、お一人おひとりで異なります。実際の判断・手続きは、国税庁・お近くの税務署・お住まいの市区町村・年金事務所・税理士などの専門家にご確認ください。特定の受け取り方や金融商品、節税商品をすすめるものではありません。
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税金の全体像がつかめたら、次は「いつから受け取るか」で手取りが変わります。繰上げ・繰下げ・働きながらの3つを、自分の数字で試算する1枚を別の記事にまとめています。
