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「無駄な経験」なんて、ひとつもなかった。-教師の私が、学生時代の自分に感謝していること【休み時間#9】

#休み時間シリーズ (第9話)
学校の先生や教育全体に関する
あるあるな話題を取り上げていきます。

※このシリーズは、どの回からでも読めます。


教育実習に来ている学生と、放課後に雑談していたときのことです。

「先生は、大学時代どんなバイトをしてたんですか。」
「やっぱり、塾講師や家庭教師をやっておいた方がいいんでしょうか。」

そんな話題になりました。

塾講師に、家庭教師。
なるほど。たしかに教職志望の「王道」かもしれません。

では、私がどんなアルバイトをしてきたのか。振り返ってみると、我ながら驚くほど節操がありません。確かに、塾講師や家庭教師も経験しましたが、それ以外にも……

  • 引っ越し屋

  • 警備員

  • 野球場のビールの売り子

  • 株式の書き換え事務

  • 肉屋の洗い場

  • デパートの売り場装飾

  • 銭湯の掃除

  • 交通量調査

  • 牛丼屋

これらはすべて、教員を目指していた大学時代に経験したものです。
「なんとなく面白そう」という好奇心や、「楽に稼げそう」という軽いノリなどで、アルバイトニュースを見ては日雇いや短期の仕事に飛び込んでいました。

さて、ここで皆さんに問いかけたいことがあります。
「教員になるために、一番役立ったアルバイト」はどれだと思いますか?

多くの人は「塾講師」や「家庭教師」と答えるかもしれません。たしかに、大勢に教える経験は授業力に直結しますし、一対一の指導は「個に応じた関わり」を学ぶ絶好の機会です。採用試験での印象も良いでしょう。

でも、実際に教師になってみると、少し違った思いも感じています。


1.「できない子」の気持ちが、理屈じゃなくわかる理由

学校の中には、
勉強が得意な子、苦手な子。
明るく活発な子、物静かな子。
大雑把な子、繊細な子。
などなど、本当に多様な子どもたちが、一つの教室に集まっています。

そんな彼らと向き合うとき、ふと思い出すのは、あの「王道ではない」バイトたちの記憶の方かもしれません。

  • 引っ越し屋で重たい荷物を運び続けた経験。

  • 夜間警備で「泥棒が来たらどうしよう」とドキドキした経験。

  • ビールの売り子で、酔ったお客さんに絡まれた経験。

  • 肉屋の洗い場がきつすぎて、一日で逃げ出した経験。

  • 「早く終わると困るから、適当にやって」と言われ、社会の複雑さを知った装飾作業。

  • 面倒になって適当にカウンターを押し、怒られた交通量調査。

褒められたとき、仕事がうまくいったときの嬉しい気持ち。
それ以上に、仕事に対する理不尽さ、やる気の出ない日、怖さ、雑に扱われる感覚、「まあいいや」と投げ出したくなる気持ち。

もしかしたら、生徒が学校で感じるかもしれないそれらの感情を、私は教師になる前に味わっていたのではないかと感じています。

実際、これまでも、生徒対応が上手な実習生さんの中には、居酒屋やカフェなどの接客業を経験している人が多かったりします。相手の顔色を見て空気を読む、適切な距離を測る、無茶を言われても感情的に返さない。
それは立派な「教育スキル」の一つなのではないでしょうか。

2.教室の外にある「引き出し」が、生徒との距離を縮める

もちろん、役に立っているのは、アルバイトだけではありません。

私は、学生時代にプロレスと映画やドラマを浴びるように見ました。スキーやテニスにも明け暮れました。当時はそれが仕事に役立つなんて、微塵も思っていませんでした。

でも今ならわかります。
プロレスからは「人前に立つ覚悟」や「場の空気をつかむ感覚」を学び、映画やドラマからは、自分とは違う人生を歩む人の感情を追体験しました。スポーツで味わった「うまくいかない悔しさ」や「上達の喜び」は、子どもたちを励ますときの視点につながっています。

「それ、知ってるよ」「その映画、面白いよね」
そんな一言が、生徒との心の距離を一気に縮めてくれることもあります。

教室で使っているのは、教科書だけではありません。
教室の外で過ごした時間が、知らないうちに教師としての「引き出し」を増やしてくれていたのです。

だから、これから教師を目指す学生さんには伝えたい。
「もちろん、塾講師や家庭教師をやることは力になると思うよ。でも、アルバイトでも、旅行でも、スポーツでも、音楽でも読書でもいい。大学時代にしかできない『社会勉強』を、たくさん、たくさんしておくといいよ」と。

3.先生である前に、一人の人間として人生を楽しむ

そして、差し出がましいようですが、退職した身として、
今、現場でがんばっている先生方にもお伝えしたいです。

毎日、目が回るほど忙しいことは痛いほどわかります。私自身もそうでした。そうすると、自分のことはどうしても後回しになりがちですよね。
でも、だからこそ、自分の「好き」や「関心」を、どうか手放さないでください。

先生が趣味を楽しみ、社会のいろんな風に触れることは、決して「遊び」ではありません。それは、先生という人間の厚みになり、いつか必ず子どもたちを救う「引き出し」になります。

教師である前に、一人の人間として人生を楽しむ。
その背中こそが、子どもたちへの何よりのメッセージになるのだと、私は信じています。

教師になると、時間は一気になくなります。
もしタイムスリップできるなら、私はもっともっと、いろんな世界を見に行きたい。経験したい。社会勉強をしたい!

そんなことを、休み時間のコーヒーを飲みながら、ふと思った今日の日でした。


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▼休み時間シリーズ

前回:
第8話:落語に学ぶ教師の話術

次回:
第10話:1000億円の無駄が江戸を救った

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