中学生捜査員と挑む“謎解き授業”。教師と生徒にワクワクが生まれる瞬間|休み時間#13
#休み時間シリーズ(第13話)
学校の先生や教育全体に関する
あるあるな話題を取り上げていきます。
※このシリーズは、どの回からでも読めます。
私が教師として最もワクワクした瞬間。 それは、教室が中学生捜査員で満ちる“謎解きの時間”が始まるときでした。
もちろん本物の捜査員ではありません。 けれど、彼らの目はまるで事件の真相を追う探偵そのものだったのです。
「オッペケぺー、オッペケぺー、オッペケペッポーペッポーポー……」
みなさんは、こんな不思議な歌詞の歌を聞いたことがありますか。 私は、明治時代の歴史の授業を行う時、必ずこの歌を歌っていました。
しかし、歌い始めると、教室にはこんな声や反応が—— 「先生…どうしちゃったの?」 「なんか怪しい歌を歌ってるけど、日本語?外国語?」 「……(笑)」
さて、私はなぜこの歌を歌っていたのでしょうか。 今回は、生徒とともに行ってきた“謎解きの授業”について紹介します。
1.社会科は、暗記科目じゃない!
「社会科って、暗記ですよね?」
入学当初の生徒は、よくこんな言葉をかけてきます。 でも、この言葉を聞くたびに、私は心の中でニヤリとしてしまうのです。
「ふふふ、君はまだ知らないんだね。この教科が、世界で一番スリリングなミステリー小説だということを」
確かに、多くの人にとって社会科は「年号や人名を覚える苦行」なのかもしれません。 定期テストや入試でそれらを問う以上、ある意味仕方のないことかもしれません。
でも、それが本来の社会科の勉強なのでしょうか。
社会科の学びとは、現在や過去の社会的事象を理解するために、主体的に自分で考え、判断し、表現することなのではないでしょうか。
ですから私は授業で「なぜ?」「どのように?」をたくさん問います。
「なぜ?」と問われれば因果関係を答えるため。 「どのように?」と問われれば目的と手段の関係を答えるため。 生徒たちは頭をフル回転させて考えていくことに。
そう、チャイムが鳴った瞬間、そこは教室ではなく、中学生捜査員が集まる「謎解きの場所」に変わるのです。
2.川上音二郎の謎を解き明かそう
さて、冒頭に記した明治時代の授業。 私は先ほどの歌を歌った後、1枚の絵を見せ、こう切り出していきます。
「これは、筑前黒田藩、今の福岡県出身の川上音二郎という人物が歌った歌です。 彼は日本初の演歌師とも言われていますが、実はこの『オッペケぺー節』を歌うたびに警察に目をつけられ、一説によると180回以上も逮捕された人です。」

所蔵:福岡市博物館 画像提供:福岡市博物館収蔵品データベース
「なぜ、彼は『オッペケぺー節』を歌うと逮捕されたんだと思いますか。」
一瞬、教室に静寂が訪れます。 しかしすぐに、生徒たちの頭の中で思考の歯車が回り始めます。
「他人の悪口を言ったから?」 「あー、確かに。それはダメだ。」 「踊りが変だった?」 「リズムが速すぎて聞けなかった?」 「踊りやリズムくらいじゃ捕まらないんじゃない?」 「なら、きっと放送禁止用語的な歌詞が出てくるんだよ。」 「それなら今もそういうことで発売禁止になったことあるね。」 「いやいや、何といってもタイトルが変だよ…」
意見が出るたび、それに対する意見が交錯します。
そして—— 『オッペケぺー節』の歌詞を配ると、生徒たちはそれを熱心に読み込み始めます。
ほどなくして、
「あ!もしかして…この歌詞が問題なんじゃない?」 「それなら、この部分も!」 「ここの歌詞だって、きっと政府が怒るよ。」 「だから、政府批判が広がらないように捕まえたんだよ。」 「えー、それってひどくない?」
個々の言葉の意味が詳しくわからなくても、当時の明治政府を痛烈に皮肉っていることは十分に伝わってきます。
教科書の端っこにいたはずの歴史上の人物が、私たちと同じように悩み、怒り、行動した「生きた人間」として立ち上がってきた瞬間です。
ここでようやく教師の出番が来ました。
『オッペケペ―節』は、自由民権運動の理念である「自由・平等・国民の権利」をわかりやすく大衆に伝えるための演説歌、すなわち“演歌”であったことを解説します。
「そうか、わかった!」
もちろん、社会科の面白さは、歴史だけにとどまりません。
地理も公民も、問いを立てれば尽きることのない思考の素材になるのです。
例えば、地理なら――
「なぜ香川県丸亀市では、うどん作りが盛んなのでしょうか。」
と問えば、
気候や地形、水、暮らしの積み重ねが、一つの食文化を形づくっていることが見えてきます。
例えば、公民なら――
「なぜ初代ゴジラは、人々の暮らしを破壊する存在として描かれたのでしょうか。」と問えば、
そこには、当時の社会不安や政治的背景が色濃く反映されているのです。
社会科の各分野には、良質なミステリー小説を読み進めるような知的な手応えが詰まっています。そして、この「謎が解けた瞬間」の空気感。 これこそが、社会科という教科の醍醐味なのです。
3.教室の「特等席」で見える景色
こうして生徒たちが思考を巡らせているとき、実は教室には、誰よりも強く心を動かしている人間がいます。
それは、黒板を背にしている私です。
この場所は、もしかすると世界で一番贅沢な特等席なのかもしれません。
さっきまで眠そうにしていた生徒の目が、好奇心でキラリと輝く。 納得がいかずに眉間にシワを寄せていた子が、パッと表情を明るくする。 「そうか、わかった!」と声を発したときの満足そうな笑顔。
その変化を、私は最前線で目撃できるのです。
歴史の裏側にある人間ドラマも、地理に隠れた暮らしの知恵も、公民が映し出す社会のリアルも—— 語れば語るほど、私自身の声にも熱が宿っていきます。
私が楽しそうに語れば語るほど、生徒たちの「もっと知りたい」という熱量も上がっていく。 この胸の高鳴りの共鳴こそが、授業というライブの最高潮なのではないでしょうか。
4.そして、ワクワクは伝染する
教師になって気づいたことがあります。
「先生が楽しんでいない授業を、生徒が楽しめるはずがない。」
私が教科書の内容に驚き、歴史のミステリーに興奮し、地理の謎にうなり、公民の背景に震え、心から「社会科って面白い!」と叫んでいるとき、その感情は確実に生徒に伝わります。
そして、そうやって作った授業の謎解きに、生徒たちがワクワクする。それがまた私を次の授業へと突き動かしてくれるのです。
「えー、もう社会科終わり?」 「ねえ先生、次の時間は何の勉強をするの?」
授業終了時にこのような声を聞けたときが、私にとって最高のご褒美の時間です。
社会科は、暗記じゃない。
明日もまた、あのキラキラした目に出会うために。 私は退職したこれから先も、非常勤講師として一番の「ワクワクの発信源」になるべく、教室に立ち続けたいと思っています。
「こういう授業を、もう一度大人の皆さんにも体験してほしい。」
そんな思いから、現在「三四郎の社会科教室」を開いています。
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▼休み時間シリーズ
前回:
第12話:バレンタインの笑顔
次回:
第14話:月亭方正
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