シバ丸印の会社シミュ①――守破離と「守護知能」で考える、AI時代の組織OS
シバ丸、これまで仕事や組織について、あっちでワンワン、こっちでワンワン吠えてきました。
責任は曖昧にしないほうがいい。
未決事項は未決のまま流さないほうがいい。
評価は地図であったほうがいい。
失敗は責めるより、次に使える形で残したほうがいい。
人はみんな同じではないのだから、同じ綱を配れば公平というわけでもない。
では。
そのへんを全部盛りした会社が、本当にあったらどうなるのか。
シバ丸自身はそこで、
小屋の中で安心してネムネムしたり、
元気な日は好きなだけ駆け回ったり、
たまには芝生の上でゴローンしたりできるのでしょうか。
自分でワンワン言っておいて、
「こんな会社イヤだワン!」
となったら、ちょっと恥ずかしい。
というわけで今回は、シバ丸印の会社をゲーム感覚でシミュレーションしてみます。
なお、全部盛りとはいえ、一度に全部検証するとシミュレーション用CPUまで寝そうです。
今回はまず、
「良い制度を、人間が運用し続ける負荷」と、それを分担する守護知能の条件
を中心に見ていきます。
ところで、「組織OS」ってなんだワン?
タイトルに入れておいて何ですが、先に定義しておきます。
この記事でいう組織OSとは、
人の善意や記憶力だけに依存せず、判断・学習・休息・知識共有が回るための、役割・型・記録・支援の基盤
くらいのものです。
制度そのものではありません。
AIだけでもありません。
人。
型。
権限。
知識。
支援。
それらが一緒に動くための土台です。
OSが重すぎれば動きません。
軽すぎれば事故ります。
では、その前提で会社を建てていきます。
まずは犬小屋……ではなく会社を建てる
社員数は250人くらい。
BtoB SaaS、業務改善、システム開発、AI活用支援あたりをやっている知識労働系企業という設定にしておきます。
このくらいの規模になると、全員が同じ会社にいても、全員の頭の中までは共有できません。
誰が何を知っているのか。
どこに過去の知見があるのか。
誰に聞けばいいのか。
だんだん分からなくなってきます。
会社の基本思想はひとつ。
人は万能ではない。だから、善意・注意力・根性だけに頼らない。
人間は忘れます。
勘違いもします。
疲れれば判断も鈍ります。
犬だって暑ければ床にベターッとなります。
なので、
役割
判断基準
権限
品質基準
エスカレーション条件
再発防止
学習の仕組み
を用意します。
「優秀な誰かが何とかしてくれる」
は禁止です。
その優秀な誰かも、たぶん眠いワン。
未決は悪くない。でも放し飼いにはしない
この会社では、「まだ決まっていない」は悪ではありません。
新しい仕事をしていれば、分からないことなんて普通に出ます。
ただし、
未決事項を野良犬化させてはいけません。
誰のものか分からない。
いつまでに決めるか分からない。
気づいたら後工程で、誰かの足首に噛みついている。
これはダメなやつです。
なので未決事項には、
何が未決か
誰が持つか
いつまでか
放置したらどこへ影響するか
を付けます。
首輪と名札を付けておくわけです。
わん。
評価は判決ではなく地図にする
この会社の人事評価は、年数だけでは見ません。
「10年いるから上級者」
ではなく、
どこまで自律的に判断できるか
どんな成果物に責任を持てるか
どの程度の曖昧さを扱えるか
他者やチームへどんな影響を与えられるか
失敗から何を整理し、次へ残したか
を見る。
失敗そのものを減点するわけではありません。
失敗ログを、そのまま査定表へ流し込むわけでもありません。
見るのは、その後です。
評価結果も、
「あなたはこの点数です」
で終わらせず、
今どこにいて、次へ行くには何が必要か
が分かる地図として返します。
シバ丸、地図をくるくる回して見ています。
北はどっちだワン。
失敗したら経験値にする
この会社では、
「失敗しました」
だけでは経験値は入りません。
RPGで敵に殴られて、
「痛かったです」
だけではレベルは上がらないのです。
何が起きたのか。
何を見落としたのか。
何なら防げたのか。
次はどうするのか。
そこまで整理して、ようやく経験値になります。
逆に成功も、
「あの人だからできた」
で終わらせません。
その成功をみんなでクンクン嗅ぎます。
何が効いた?
どの条件なら再現できる?
次の型にできる?
ここで、稽古や習い事などで使われる「守破離」を、シバ丸式に一周させてみます。
守 → 破 → 離 → 新しい守
まず型を覚える。
型を使えるようになる。
型の限界が見える。
理由を持って破る。
そこから新しいやり方が生まれたなら、再現できる部分を次の型へ戻す。
※本来の守破離に「新しい守へ戻る」という循環まで含まれている、という話ではありません。
シバ丸が組織学習用に勝手に一周させました。
理由を持って破ったので許してくださいワン。
そして、
自由という名の丸投げは禁止です。
……おや?
ここまでシミュレーションしたところで、異変が起きました。
シミュレーション上のシバ丸が、小屋の前をウロウロしています。
右へ三歩。
左へ二歩。
また右へ。
尻尾がちょっと下がっています。
わん?
評価基準があります。
レビュー基準があります。
会議の型があります。
未決管理があります。
失敗ログがあります。
育成地図があります。
公平性のための調整もあります。
どれもシバ丸が欲しいと言ったものです。
なのに。
なんだか重いワン。
欲しいものを全部制度化したら、なんだか重いワン
問題が起きる。
再発防止でルールを足す。
別の問題が起きる。
また足す。
公平にしよう。
例外を足す。
会議を良くしよう。
準備項目を足す。
するとそのうち、
人を守るための制度が、人の頭の中へ新しい負荷を押し込み始めます。
シバ丸、ルールブックを枕にして寝ようとしました。
硬いです。
寝心地が悪いワン。
ここで大事なのは、
型そのものが悪いわけではない
ということです。
捨てたいのは型ではありません。
人間がその型を全部、
覚える。
探す。
照合する。
思い出す。
適用する。
という運用です。
もちろん、制度が重くなる原因の全部がこれではありません。
決めること自体の重さ。
人と意見が割れる重さ。
例外を判断する重さ。
そこは残ります。
でも、
覚える。探す。照合する。
このへんまで毎回、人間の頭だけでやる必要はないのでは?
機械が得意そうなところくらい、持ってもらってもよさそうです。
人の負荷が高いなら、AIに分担してもらったらいいじゃない
ということでシバ丸。
シミュレーション上に、新しい装備を投入してみました。
首輪型デバイスです。
カチッ。
わん?
守護知能――Guardian Intelligence
ここでは仮に、
GI:Guardian Intelligence
日本語ではシバ丸式に、
守護知能
と呼ぶことにします。
名称はこの記事上の呼称です。
同名・近似名の製品や概念が、ほかにある可能性はあります。
ここで言うGIは、
人間の判断を奪わず、人間がより良く判断できる状態を守る知能
という概念です。
もう少し具体的に言うと。
GIがやるのは、
見つける。分ける。つなぐ。残す。
GIが勝手にやらないのは、
最終判断を決める。叱る。評価を確定する。本人の意思なく引っ張る。
「AIさん、全部やっといて」
ではありません。
GIは社員の横について、
会社の基本ルール
業界知識
過去案件
標準フレームワーク
本人の役割
現在のタスク
必要な人や部署
を参照しながら、
「この仕事、まず3つに分けて考えられそうです」
「過去に似た案件があります。似ているのはここ、違うのはここです」
「この論点は○○さんにつなぐと早そうです」
と支えてくれます。
犬なのかAIなのか、だんだん分からなくなってきました。
首輪はある。リードはない。
首輪型とはいっても拘束具ではありません。
軽い。
柔らかい。
デザイン自由。
任意の支援は、自分で選べる。
そして最重要仕様。
首輪はある。リードはない。
会社が社員を引っ張るための装置ではありません。
社員が知識や仲間へつながるためのインターフェースです。
つながっている。でも縛られてはいない。
ここは絶対条件です。
リードを付けようとする人がいたら、シバ丸がワンワンします。
……いや。
ワンワンするだけでは足りませんでした。
そもそもこの会社、
善意だけに頼らないために作った会社
でした。
なら、GIだって善意だけで運用してはいけません。
詳しいガバナンスは次回に回すとして、最低限、
GIの提案は本人が拒否・上書きできる
提案には根拠や参照元を示す
GIを使った時間そのものを評価しない
相談ログを勝手に人事評価へ流さない
誰が何を参照できるのか、本人にも見える
GIを切ったことだけを理由に不利益を与えない
くらいは仕様にしておきます。
もちろん、法令・セキュリティ・品質上の必須ルールまで自由に消せるわけではありません。
会社として必須のルールと、GIによる任意の助言は分ける。
「AIが言ったから必須」
にはしないワン。
本人に見えないログを会社だけが見ている。
相談内容が、知らないうちに評価材料へ飛んでいる。
「自由に外せます」と言われたけれど、外したら仕事ができない。
それは、
リードが見えなくなっただけです。
わんわん。
「あの人に聞いて」を減らす
新人。
「あの人に聞いて」
中堅。
「あの人に聞いて」
トラブル。
「あの人を呼んで!」
あの人。
寝かせろワン!
これでは属人化から抜けられません。
聞かれた人にだけ経験が溜まり、
次もその人が一番詳しくなるからです。
GIならまず、
標準
過去事例
類似案件
ベテランが過去に残した知識
から解決を試みます。
それでも人間が必要なら、
「○○さんへ、この論点だけ15分相談すれば足りそうです」
くらいまで整理してからつなぐ。
つまり、
優秀な人を不要にするのではなく、優秀な人を“その人にしかできない仕事”へ戻す。
これが狙いです。
そして、
「そのベテランが知識を書く時間は?」
……ありません。
なので、なるべく書かせません。
GIが、本人の指定した案件や記録から下書きを作る。
何でも常時クンクン嗅ぎ回ってよいわけではありません。
本人には、
「だいたい合ってる」
「そこ違う」
くらいを返してもらう。
清書までベテランへ押しつけたら、また寝られないワン。
表に出た実践知を、次の「守」へ戻す
社員が仕事の中で、
「この条件なら、標準から外したほうがうまくいくな」
と気づいた。
そのままなら個人技です。
GIは、
どんな状況だったか
何を変えたか
なぜ変えたか
結果はどうだったか
を整理します。
ただし、
ベテランの勘や暗黙知を全部吸い出せる
なんて言うつもりはありません。
GIが拾えるのは、仕事の中で言葉や行動として表に出てきた断片です。
そこから、
個人の実践 → GIが候補化 → 人間が検証 → 新しい守
へ。
GIができるのは、整理と候補化まで。
「これは標準にしよう」
と決めるのは、その型を使う現場の人間です。
必要なら品質やセキュリティなど、関係する専門家にも見てもらう。
全員会議で育てるわけではありません。
使う人が育てる。
AIに型を育ててもらう。
でも、
勝手に社則を書き換えさせない。
ここもリード禁止です。
GIも守破離する
今度は、GIのほうを守破離させてみます。
GIの支援量も、
その仕事への習熟度と、本人の希望
に合わせます。
守。
初めての仕事。
「まず、この型で走ってみましょう」
GIが丁寧に教えます。
破。
慣れてきた仕事。
「標準はこれです。ただし今回違う条件は2つあります」
選択肢とリスクを出します。
離。
かなり慣れた仕事。
「説明いらんワン。変なところだけ教えて」
GI。
「3点あります」
それだけ。
熟練者だって、初めての領域では守へ戻る。
新人だって、得意なことならGIに黙ってもらっていい。
GIが社員を勝手に格付けするわけではありません。
育つほど、GIは少し黙る。
ずっとワンワン吠えられたら、そっちがうるさいですからね。
守護しすぎて、
自分で走る方法を忘れさせてはいけません。
シバ丸的に最高の首輪
なお。
シバ丸的に最高の首輪は、
頑張るとチュールが出ます。
これはかなり重要です。
人間向けモデルから本当にチュールを出す必要はありません。
でも、
「今日はよく走りました」
「この判断は良かったです」
「そろそろ小屋へ帰っても大丈夫そうです」
くらいは言ってくれてもいい。
ただし、
GIが人間の状態を勝手に決めつけるのも危険です。
「疲れているはずです!」
と毎回言われても、
今いいところなんだワン。
となります。
なので、
「設定していた集中時間を超えました。休憩しますか?」
くらいがちょうどいい。
提案する。
決めるのは人間。
チュールだけ置いていってください。
わん。
おや? 首輪が太くなってきたワン
さて。
GIが便利です。
便利だから機能を足します。
通知を足します。
チェックを足します。
ナレッジを足します。
……。
シバ丸の首輪。
最初は極細だったはずなのに、なんだか太くなってきました。
重いワン。
なので、首輪にも健康診断を受けてもらいます。
見るのは、
GIがおせっかいになっていないか
通知が多すぎないか
古い知識が残っていないか
間違った類推で人を迷わせていないか
人間が自分で考えなくなっていないか
特定のベテランへ負荷が集中していないか
監視装置へ変質していないか
あたり。
そして重要なのは、
何を追加するかだけでなく、何を消すかも決める。
そもそも要らない制度なら、GIへ載せる前に捨てます。
GIにも制度にもダイエットが必要です。
GIを入れる前より、
説明。
確認。
監視。
管理。
の総量が増えたなら、たぶん負けです。
賢そうな首輪を作ることが目的ではありません。
人の首を軽くすることが目的です。
GIも普通に間違えることにしておく
せっかくシミュレーションなので、一回くらい間違えてもらいましょう。
GI。
「過去に非常によく似た案件があります」
若手シバ丸。
「じゃあそれで行くワン!」
ベテランシバ丸。
「……いや、待つワン。今回そこ違わない?」
クンクン。
確かに似ています。
でも、契約条件が違いました。
危ないところでした。
なのでGIには、
似ているところはここ。
違うところはここ。
参照したのはこの情報。
確認できていないのはここ。
まで出してもらいます。
自信満々かどうかより、
何を根拠にして、何がまだ分からないのか。
そっちのほうが大事です。
そして分からないときは、
「分かりません」
と言う。
……これをちゃんと言わせるのも、たぶん簡単ではありません。
でも、自信満々に間違った方向へ吠える首輪はもっと困ります。
重要な判断では、最終判断者も消しません。
「AIがそう言ったので」
で責任が宙に浮いたら、
それはもう、
責任の野良犬化です。
最初に戻ってきました。
わん。
そして今回ベテランが気づいた「契約条件の差」は、次からベテランの鼻だけに頼らず、確認項目へ戻しておきます。
これもまた、
新しい守
です。
ではGIが増えたら、誰がGIを見るの?
ここでまた問題が出ます。
GIそのものを見守る存在まで必要になりそうです。
組織守護知能。
OGI。
愛称は、
オムニママ。
……なんだか急にSFの香りが強くなってきました。
普段は優しいママです。
ただし、
リードを付けようとしたり、
組織知を汚染したり、
人としての最低線も、会社として明文化されたルールも盛大に踏み抜いたりすると、
般若になるそうです。
シバ丸たち、ちょっとプルプルしています。
そしてここでシバ丸。
新たな疑問に気づきました。
GIは、いったい誰に忠を尽くすんだワン?
本人?
会社?
顧客?
社会?
……忠誠とは誰に対するものなのか。
なんだか段ボールの中から、バンダナを巻いた傭兵のおじさんが出てきそうな問いになってきました。
分からない人は、
そういうものだと思ってくださいワン。
さらに、
OGIを守るのは誰なのか。
GIのログは誰のものなのか。
会社を辞めたらGIともお別れなのか。
……。
これ、際限がないやつでは?
その話は次回にします。
シバ丸、もう一度走ってみる
GIを装着して、シバ丸再出発。
朝。
GI。
「今日の候補は5件です。今の期限から見ると、この3件を先にする案があります」
シバ丸。
「ふむふむ。今日はこっちからやるワン」
会議前。
「今日決め残すと、来週困りそうなのはこの2点です」
「わんわん」
困った。
「過去に似た案件があります。違いはこの2点です」
クンクン。
人の力が必要。
「○○さんへ、この論点だけ相談しましょう」
わん。
昼。
「設定していた集中時間を超えました。休憩しますか?」
「今いいところだワン。あと30分!」
了解。
夕方。
「今日、自分で決めた作業は終わっています」
耳ペタン。
ちょっと嬉しい。
そして首輪からチュール。
わんわんわん!
今のところ、シバ丸は住めそうです
特定の誰か一人の頭の中に、全部を依存しない。
でも、人を信用しないわけではない。
型がある。
でも、型に閉じ込めない。
自由がある。
でも、丸投げではない。
AIがいる。
でも、AIが王様ではない。
知識を共有する。
でも、人そのものを共有財産にはしない。
守られる。
でも、縛られない。
首輪はある。リードはない。
疲れたら小屋でネムネムできる。
元気なら駆け回れる。
そして、その途中で得た知恵は群れへ戻っていく。
そんな会社なら。
シミュレーション上のシバ丸。
まだ退去届は出していません。
今のところ、かなりご機嫌です。
わんわん。
次回予告
シバ丸印の会社シミュ②「オムニママは見ている――守護知能を誰が守護するのか?」
GIは誰に忠を尽くすのか。
GI同士で意見が割れたらどうするのか。
個人の記憶は誰のものなのか。
会社を辞めたら、育てたGIまで没収されるのか。
ネットワークが落ちても、同じ方向を向いていられるのか。
会社がGIを監視装置にしようとしたら。
そして。
オムニママが般若になるのは、どんなときなのか。
次回、シバ丸たちがプルプルします。
わん。
関連記事
今回の「同じ群れでも、同じ走り方を求めない」という考え方はこちら。
https://note.com/shibamaru_log/n/n410f2143bcfb
そして、「経験をどう次へ残すか」という話はこちら。
https://note.com/shibamaru_log/n/nfd5ea665c146
