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【番外編①】美容クリニックで働いて知った、きれいな世界の裏側

美容クリニックで働く人は、みんな美人。

私は、わりと本気でそう思っていた。

白くてきれいな院内。
いい匂いのする受付。美意識の高いスタッフ。
女優のような看護師たち。

地方の病棟で、120円の菓子パンをかじっていた私からすると、
美容クリニックはかなりまぶしい場所だった。

だから実際に入職して、最初に少し驚いた。
あれ。
意外と、全員が全員ものすごい美人というわけではない。

これを読んで、額に青筋を立てた方。
ちょっと待ってほしい。

私もこの文章を書きながら、
「どの口が言っているんだ」
と自分で思っている。

今回は、地方の病棟から都会の美容クリニックへ転職した私が、
働いてみて知った、きれいな世界の裏側について書いてみようと思う。

あくまで、私が見た範囲の話である。
全国の美容クリニックを代表するつもりはない。

そんな偉そうなことを言えるほど、
私は立派な美容ナースでもなかった。

むしろ、早々に心を折られた側の人間である。


1.美人ばかりではない。でも本気度は普通ではなかった


まず、最初に驚いたこと。
全員が全員、ものすごい美人というわけではなかった。
もちろん、きれいな人はいた。
肌がつるんとしていて、髪もきれいで、横顔まで抜かりない。
「今、光当たってます?」と聞きたくなるような人もいた。

でも、都会の美容クリニックでは、
「美容クリニック勤務=全員が圧倒的な美人」
というわけではなかった。

ここは、私の中でかなり意外だった。
というのも、地方の美容クリニックで見かけるスタッフさんは、
かなりきれいな人が多い印象があったからだ。

地方には、美容クリニック自体がそこまで多くない。
看護師として美容クリニックに行こうと考える人も、
都会ほど多くない。

だから、美容クリニックで働こうと思う時点で、
かなり美容への関心が高い人が集まりやすいのだと思う。

実際、地方の美容クリニックで見かけるスタッフさんは、
「なぜこちら側の世界にいらっしゃるのですか」
と聞きたくなるくらい、きれいな人が多かった。

一方、都会には美容クリニックがたくさんある。
大手もあれば、開院したばかりの院もある。
院の雰囲気も、スタッフの雰囲気も、本当にさまざまだ。
つまり、美容クリニックと一口に言っても、かなり幅がある。

夢を壊すようで申し訳ないが、
美容クリニックで働いている人が全員、女優級というわけではなかった。

まあ、当然である。

冷静に考えれば、
女優級の人材だけでシフトを組める職場など、そうそうない。

私もその一員だったのだから、なおさらである。

ただし。
美容に対する本気度は、やはり普通ではなかった。

顔。
肌。
歯。
髪。
体型。
見るところが細かい。

私も美容は好きだった。
それなりに関心が高い方だと思っていた。

でも、あの場所に行くと、
私の「美容好き」など、休日にデパコス売り場をうろついて喜んでいる程度のものだったのかもしれない。

あちらは本気だった。
かわいくなりたい。
若く見られたい。
垢抜けたい。
少しでも理想の顔に近づきたい。

その気持ちに、遠慮がなかった。


2. 整形が、休憩室の会話だった


次に驚いたのは、整形へのハードルが異様に低いことだった。

整形と聞くと、皆さんはどんなイメージを持つだろうか。
少なくとも私は、
職場の休憩室で気軽に話す内容ではないと思っていた。

美容クリニックでは違った。

どこを手術したか。
どこを手術したいか。
そして、相手の顔を見ながら、
「◯◯ちゃんは、ここ直したらもっとよくなりそう」
そんな会話が、普通に出てくる。

病棟では、休憩室で
「彼氏いるの?」
くらいの会話だった。

美容クリニックでは、
「どこヤッたの?」
である。

世界が違いすぎる。
しかも不思議なことに、
そういう環境にいると、整形への感覚が少しずつ麻痺してくる。

ちょっと目を大きくしただけ。
ちょっと輪郭をシュッとさせただけ。
ちょっと脂肪を取っただけ。

「ちょっと」が積み重なっていく。
少なくとも、糸リフトくらいは、
メンテナンスの一つとして考えているスタッフも多かった。
もちろん、糸リフトが悪いと言いたいわけではない。

整形なんて必要ない、とも思わない。
それで救われる人だっている。
鏡を見るのが少し楽になるなら、
それはその人にとって大事なことだと思う。

私だって、リスクなくきれいになれるなら、
やっていたかもしれない。
いや、たぶんやっている。

正直に言えば、鏡を見て落ち込む日はある。

顔がもう少し小さかったら。
目元がもう少し華やかだったら。
肌がもっときれいだったら。
そんなことを考えながら鏡を見たことが、私は何度もある。

だから、美容クリニックで働く人たちが
「ちょっと整えただけ」
と言う気持ちも、分からなくはなかった。

ただ、その「ちょっと」の感覚が、
私の想像よりずっと軽かった。

高い化粧品を買うくらいなら、
さくっと美容医療をした方が早いよね。

そんな空気が、普通にあった。
それがたとえ、
一度やったら簡単には戻せないものだとしても。


実際、私が見ていたスタッフの一人は、
数か月でかなり顔の印象が変わった。

目は、目頭切開で大きく。
鼻は、プロテーゼで高く。
丸かった輪郭は、脂肪吸引で細く。

もともとは、愛らしい顔立ちの人だった。
少し丸みがあって、やわらかい雰囲気で、
私はその顔も十分かわいいと思っていた。

でも、少しずつ顔が変わっていった。
気づけば、SNSでよく見るような、
整いすぎた顔立ちに近づいていた。

もちろん、本人がそれで満足しているなら、
他人がどうこう言う話ではない。

周りのスタッフも、
「すごくきれいになった」
「垢抜けた」
「やっぱりやってよかったね」
と、当たり前のように褒めていた。

病棟で誰かの顔が数か月でそこまで変わったら、
たぶん休憩室がざわつく。
良くも悪くも、人は他人の顔の変化に敏感だ。
しかもそれが職場なら、なおさらである。

でも美容クリニックでは、
それはざわつくことではなく、称賛されることだった。

私はその空気に驚いた。
驚いたくせに、
心のどこかでは少し羨ましかった。

お金を出して、痛みに耐えて、
自分の顔を理想に近づけていく人たち。

すごいなと思った。
怖いなとも思った。
そして、上手くいってずるいなとも思った。

自分はその勇気すらないくせに。


3. SNSや広告撮影も仕事の一部だった

さらに驚いたのは、SNSや広告撮影も仕事の一部だったことだ。

それまでは、SNSや広告撮影は、
専門の担当者や事務の人がやっているのだと思っていた。

でも実際は違った。
普通に、美容クリニックのスタッフが兼任していた。
看護師として入職したはずなのに、
気づけばSNS撮影に参加することもあった。
踊る。
撮る。
撮り直す。

私は看護師だったのか。
インフルエンサー見習いだったのか。

いまだによく分からない。
もちろん、今の時代、SNSは大事だ。
美容クリニックにとって、広告や発信が大事なのも分かる。

分かる。
分かるのだが、
入職したばかりの私は、なかなか戸惑った。

病棟で働いていた頃、
まさか自分が美容クリニックの中で撮影に参加する日が来るとは思っていなかった。

人生、何が起こるか分からない。
この話も、書き出すと長くなるので、また別で書こうと思う。


4. 病棟での自信が、通用しなかった


もう一つ、大きく驚いたことがある。

評価される基準が、病棟とまったく違ったことだ。
病棟では、知識、手技、観察力、患者対応、
そして忙しさに耐える力が大事だった。
もちろん、美容クリニックでも知識や技術は必要だ。
でも、それだけではない。

接客。
見た目の印象。
売上。
空気を読む力。
手先の器用さ。
お客様満足度。

大事にされるものが、病棟とは違った。

私は、そこそこ仕事ができる人間だと思っていた。
リーダーもした。
師長代行のようなこともした。
新人教育もした。

だから、どこに行ってもある程度はやれると思っていた。
なかなか傲慢である。

でも、その自信は、
美容クリニックでは全く役に立たなかった。

病棟で評価されていたことが、
そのまま美容クリニックで評価されるわけではない。
これは、地味にこたえた。

転職というのは、場所を変えるだけではない。
今まで積み上げてきた自信が、
急に通用しなくなることでもあるのだと思う。
それを私は、美容クリニックで思い知った。


5. きれいな世界の裏側にあったもの


美容クリニックで一番驚いたのは、
整形そのものでも、SNS撮影でもなかったのかもしれない。
そこでは、きれいになるための手段が、
私が思っていたよりずっと近くにあった。

二重。
ボトックス。
糸リフト。
脂肪吸引。
肌管理。

悩みがメニューになる。
コンプレックスに金額がつく。

最初は驚いていたはずなのに、
毎日その会話を聞いていると、
だんだんこちらの感覚も変わってくる。

昨日まで「整形」だったものが、
いつの間にか「メンテナンス」になる。

それが、あの場所の日常だった。
私はその空気に、完全には染まれなかった。
でも、まったく揺れなかったと言えば嘘になる。

ここを変えたら。
あの施術を受けたら。
美人になれるんじゃないかな。

鏡を見るたびに思う。
我ながら、欲深い。

美容クリニックは、
ただきれいな人たちが働く場所ではなかった。

きれいになりたい人たちが、
自分の顔と財布とプライドを握りしめている場所だった。

そして私も、
その一人だった。


美容クリニック番外編は、こちらに続きます。

↓【番外編②】SNS撮影で踊り、看護師なのか何なのか分からなくなった話

↓ 【番外編③】体感9割。美容クリニックのスタッフは歯に課金していた

美容クリニック番外編は、こちらで完結しました。

↓ 【番外編④・完結】美容クリニックで病んだのは、仕事ができなかったからではない


美容クリニック編の全体の流れを読みたい方へ。

↓ 全12話はこちらにまとめています。


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白湯|地方を出たい女の本音 「この人、うまくいかない日もあるけど、なんとか生きてるな」 そう思っていただけたら、そっと応援してもらえるとうれしいです。 いただいたチップは、店主が次の記事を書く力に。 ときどき、売り子のあざらしのおやつ代になります🦭 その日は、責任をもって食レポします🍵