60代のリアル|第2幕、第24話【実録・介護の動き出した時間】駅のホームでかき消される音声の中で手繰り寄せた介護の次のステップ
前回までのあらすじ
入院からちょうど3ヶ月を迎えた、7月23日(木)。
一般的に急性期病院では退院や転院の話が出される節目の日ということもあり、私は一日中どこか緊張した持ちで過ごしていました。
退院調整看護師さんや主治医から「今後のことについて」と連絡が入るかもしれない——。 そう思いながら携帯電話を気にして過ごしたものの、結局画面すら暗いまま、スマホが鳴ることは一度もありませんでした。
連絡がない状況に戸惑いながらも、「きっと他院へ転院できるほど容体が安定していないだけで、緊急事態でもないのだろう」と、自分に都合よく言い聞かせることで焦る心をなんとか落ち着かせていました。
音沙汰のない静寂に包まれたまま、ただ時間だけが過ぎ去っていった7月23日(木)でした。
しかし、その不気味なほどの静けさの翌日、止まっていたかのように思えた介護の時間が、ついに一気に動き出すことになります——。
介護の動き出した時間
7月24日(金)
特別養護老人ホーム(特養)の入所申請をケアマネジャーさんにお願いしてから、かなりの月日が流れていました。
「そろそろ進捗を問い合わせてみようか……」 そう思いつつも、その日は手元に連絡先の書類がなく、確認は来週に回そうと心の中で保留にしていたのです。
まさか、その直後に事態が動くとは思ってもいませんでした。
夕方、職場で残った仕事を片付けていたとき、カバンの中のスマホが微かに揺れました。けれど、すぐに手を離すことができず、着信音は途中で切れてしまいます。
仕事を終え、駅のホームへと向かいながら着信履歴を確認すると、見覚えない番号が残っていました。
胸騒ぎを覚えながら、そのままホームのベンチの端で折り返しの電話をかけます。
「はい、〇〇(特養の名称)です」
受話器の向こうから聞こえた名乗りに、ハッと息を飲みました。
しかし、その直後、けたたましいベルとともに電車が滑り込んできます。
かき消される音声、駅のアナウンス、構内に響き渡る喧騒。
「申し訳ありません、今駅のホームにおりまして……」
受話器を強く耳に押し当て、何度も何度も聞き返し、必死に相手の質問を拾い集めました。電話は、母の現在の詳しい状況についての確認でした。
「お母様の医療行為は、バルンカテーテルのみでしょうか?」
「あ……子宮脱のリング交換があるのを言い忘れていました」
「もし体調を崩された場合、病院への付き添いは可能ですか?」
「はい、私が付き添います」
騒音の中で必死に母の状態を伝えながら、私はふと思い立って口にしていました。
「一度、見学にお伺いしても宜しいでしょうか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
そうしてトントン拍子に話が進み、8月12日(水)の14時に見学へ伺うことが決まりました。
(詳しい話は、当日に直接お会いして聞けばいい)
ざわめくホームに一人立ち尽くしながら、私は少し火照ったスマホを握りしめました。 ずっと止まっていたはずの介護の時間が、唐突に、そして自らの手で引き寄せるようにして動き始めた瞬間でした。
🌿次回予告
静まりかえっていた介護の時間が、特養からの電話をきっかけに一気に動き出した7月24日(金)。
見学の日程も決まり、どこかホッとした気持ちと新たな緊張感を抱えながら、私は翌日、母の元へとお見舞いに向かいました。
しかし、病室で再会した母の姿は、私の予想を大きく裏切るものでした。
次回、【実録・介護の陰り】。どうぞお楽しみに!
▼ 第25話はこちらです。
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