外国人技能実習制度改正に向けた最終報告書を読む【6】
外国人技能実習制度・特定技能制度が大きな転換点を迎えている。先日、外国人技能実習制度が育成就労制度に変更となる方向で、今国会において法案が提出されることが報道された。
加えて2月22日には、特定技能において自動車運送、鉄道、林業、木材産業の4分野を追加する方向で検討していると報道されている。日本国内における深刻な人手不足解消、外国人技能実習生を取り巻く人権侵害に近い悪辣な周到環境の改善に向けて、大きな動きが目立ってきている。
本noteでは、来る育成就労制度への変更に向け、その前段階において提言された最終報告書を読み、今後どのような形で外国人技能実習制度・特定技能制度が変えられていきそうか、その趨勢を検討する連載を実施している。今回は、その第6回目となる。
前回までで第3章の提言3まで読み進めた。今回は提言4について見ていこうと考えている。
3章 提言4「 新たな制度における転籍の在り方」
この度提出された最終報告書における提言の中で、最も物議を醸したテーマである。外国人技能実習生が実質的に被雇用者として扱われており、実習生というより社員と化している現状、認めるのが道理としか言いようがないテーマである。
一方で、安価な労働者を逃がしたくない企業や地方自治体が否定的になるのは自然とも言える。さりとて、そうした誰にとってもポジティブにならない企業・団体の言い分を正とする道理は、社会的に存在しない。本提言が、実現するのを願ってやまない。
提言①について
① 新たな制度における転籍については、まず、現行の技能実習制度におい て認められている「やむを得ない事情がある場合」の転籍の範囲を拡大か つ明確化する。また、人材育成の実効性を確保するための一定の転籍制限 は残しつつも、人材確保も目的とする新たな制度の趣旨を踏まえ、外国人 の労働者としての権利性をより高める観点から、一定の要件の下での本 人の意向による転籍も認める。 (「やむを得ない事情がある場合」の転籍)
そもそもの話として、現行の外国人技能実習制度であっても転籍は認められている。しかしながら、誰でも簡単にできるわけでない。やむを得ない事情がある場合にのみ認められている。
やむを得ない事情とは、人権侵害行為等が挙げられる。翻して言えば、人権侵害行為のような深刻な事態が生じていなければ転籍が認められない。結果として、実習実施者と技能実習生との間に強力な支配従属関係が生じ、技能実習生にとって逃げ場がなくなってしまう問題が生じる。
また、人権侵害行為のような事態にならなければ転籍できない事実は、ある種転籍するためには人権侵害行為を受ける必要があると条件付ける。それは一定人権侵害行為の発生を受容しているに近く、そうした前提が法制度に取り込まれているのは、明らかに不適切である。
本提言では、転籍について、このやむを得ない事情の範囲を拡大し、人権侵害行為が発生する手前での転籍を認められる形にする必要性を説いている。本提言への反発も少なからず見られたが、内容を踏まえれば、本提言に反対するのは反社会的な存在程度のものでないかと感じられる。
提言②について
② 「やむを得ない事情がある場合」の転籍については、例えば労働条件に ついて契約時の内容と実態の間で一定の相違がある場合を対象とするこ とを明示するなど、その範囲を拡大・明確化し、例えば職場における暴力 やハラスメント事案の確認等の手続を柔軟化する。その上で、転籍が認め られる範囲やそのための手続について、関係者に対する周知を徹底する。 (本人の意向による転籍)
提言①で触れた『やむを得ない事情がある場合』が、そもそも具体性に欠けており、外国人技能実習生にとっても受入れ機関や司法にとっても、極めて判断が難しいため、どういったケースが該当するのかを具体的に記述している。
また、職場における暴力やハラスメントといった事象について、確認等を行う手続きを柔軟化することで、立証手段の確保を容易にするよう提言に盛り込まれている。そうすることで、転籍の実現性を確保し、深刻な事態が生じる前に外国人技能実習生が守られる体制を構築しようとする意図が垣間見える。
提言③について
③ 上記②の場合以外は、計画的な人材育成の観点から、3年間を通じて一 つの受入れ機関において継続的に就労を続けることが効果的と考えられ るものの、以下の要件をいずれも満たす場合には、本人の意向による転籍 も認める。 ア 同一の受入れ機関において就労した期間が1年を超えていること (注1)イ 技能検定試験基礎級等及び日本語能力A1相当以上の試験(日本語 能力試験N5等)に合格していること
(注2) ウ 転籍先となる受入れ機関が、例えば在籍している外国人のうち転籍 してきた者の占める割合が一定以下であること、転籍に至るまでのあ っせん・仲介状況等を確認できるようにしていることなど、転籍先とし て適切であると認められる一定の要件を満たすものであること (本人の意向による転籍に伴う費用分担)
国内の労働法制やILO(国際労働機関)に対するヒアリングを踏まえ、転籍について一定の制限の下で本人意思によるものも認める妥当性がある旨、提言されている。
一方で、無制限な転籍によって生じる負の側面にも言及されている。企業側が育成に対して要した費用の回収面や悪質な仲介業者の出現、外国人技能実習生当人の育成に対する悪影響など、多岐にわたって言及されている。
以上を踏まえて、転籍回数の制限・転籍要件(期間、能力)の設定が細かく提言されている。期間としては転籍先における1年間以上の在籍、能力としては日本語能力、悪質な業者対策として受入れ側の在籍実習生の在籍期間要件等が記載されている。異論が少ないだけあり、どれも妥当性の高い提言になっていると感じられる。
提言④について
④ 本人の意向により転籍を行う場合、転籍前の受入れ機関が支出した初 期費用等のうち、転籍後の受入れ機関にも分担させるべき費用について は、転籍前の受入れ機関が正当な補塡を受けられるよう、転籍前の在籍期 間や転籍前の受入れ機関による当該外国人に対する初期の育成に係る負 担等を勘案した分担とするなど、その対象や分担割合を明確にした上で、 転籍後の受入れ機関にも分担させるなどの措置をとることとする。 (転籍支援)
転籍元の受入れ機関が負担した初期費用について、転籍先の受入れ機関が一定負担する必要性についての提言である。転籍先に負担が生じる形になるとそもそも転籍自体が困難になる。
そうした懸念がある一方で、外国人技能実習生の受入れにかかる初期費用の負担を分担する必要性がある点に妥当性が見出されている。結果として、転籍先の受入れ機関にも分担措置を行う形で、提言がなされている。
しかしながら、外国人技能実習生が単純に労働者として扱われている昨今、転籍とは謂わば転職を理由とした退職とそう大きく変わらない。世の中を見渡したとき、転職先の企業が転職元の企業の人材投資コストを負担するような制度は存在しない。
外国人技能実習生と一般雇用は異なるといった理屈は成り立つかもしれないが、そうであるならば労働者のように扱っている実態との矛盾が生じる。そもそも転籍の要件には、やむを得ない事情が存在する場合、転籍先が転籍元のコストを分担するのは、道義に反するように思えてならない。
また労働市場において、転職による退職が生じるのは、逃げられる会社側に問題があるのであって、逃げられた会社が支出したコストを転職先が負担するなど道理に合わない話でしかない。様々な政治的理由があるのだろうが、違和感の大きい提言である。
提言⑤について
⑤ 転籍支援については、受入れ機関、送出機関及び外国人の間の調整が必 要であることに鑑み、新たな制度の下での監理団体(下記5の提言③参 照)が中心となって行うこととしつつ、ハローワークが外国人技能実習機 構に相当する新たな機構(下記5の提言①参照)等と連携するなどして転 籍支援を行うこととする。また、悪質な民間職業紹介事業者等が関与する ことで外国人や受入れ機関が不利益を被ることがないよう、転籍の仲介 状況等に係る情報の把握など、必要な取組を行う。 (転籍の範囲)
育成就労制度への移行に伴い、転籍件数が増える想定がなされる。そのため、転籍を支援・調整する団体が必要となる。そのため、監理団体を中心としつつハローワークが関与することで、悪質な民間職業紹介事業者等による不利益が外国人技能実習生などに生じないようにする運用体制が提言されている。
本来的に、民間職業紹介事業者を介在させないのが理想的な形であるが、特定技能においては既に民間職業紹介事業者が介在しており、今から排除するのは妥当性に乏しい。そのため、関与自体を否定しない方向で進める点が記載されている。
本来的にはハローワークのみで運用できる体制にしたい想いがあったと察せられるが、人員体制・運用体制の構築を短期間で構築するのは現実的でない点を考慮したものと思われる。
提言⑥について
⑥ 転籍の範囲は、人手不足分野における人材確保及び人材育成という制 度目的に照らし、現に就労している業務区分と同一の業務区分内に限る ものとする。 (育成途中で帰国した者への対応)
転籍する場合、就労中の業務区分と異なる業務区分への転籍を認めるかどうかが議論され、認めない方向で提言がなされている。なぜその結論に至ったかについて、賃金水準の高い産業への人材集中・人材育成面の観点が書かれている。
違和感の大きい提言であるのは言うまでもない。まず外国人技能実習生が労働者と扱われている現実があり、本報告書における数々の提言においてもその点が念頭に置かれている中で、当人の職業選択の自由を制限するのは、憲法に悖る可能性が高い。
また、賃金水準の高い産業とは、多くの場合成長産業であり、より多くの人出を要し、かつ国としてもより多くの労働者を集める必要性が高い存在である。翻って賃金水準の低い産業とは、多くの場合は効率化・機械化によって生産性を上げる必要性がある産業であり、企業・事業者の市場からの退場を促し、新陳代謝を高めるべき存在である。
賃金水準が高い産業に人材が 流出するなどの事態が生じることへの懸念等から、異なる業務区分への転 籍に対して消極的な意見が多くあった。
本提言において描かれている上記の議論は、いわば成長産業への人材移動を阻害し、新陳代謝が必要な産業に貴重な外国人技能実習生を留めさせることで、新陳代謝をも阻害しようという議論である。
本提言は、本来ならば人間を剥がしていくべき産業を生き長らえさせる思惑が垣間見えており、国力を削ぐような提言と言わざるを得ない。法案化に際しては、見直すべき提言であろう。
提言⑦について
⑦ 育成を終了する前に帰国した者については、新たな制度でのこれまで の我が国での滞在期間が通算2年以下の場合(注3)、新たな制度により、 それまでとは異なる受入れ分野・業務区分での育成を目的とした再度の 入国を認めることとする。 (悪用防止及び適切な人材育成のための措置)
いわゆる再入国に関する提言である。現行制度では認めない方向となっている再入国だが、新制度においては一定の制限の元で認める方向で進める意向が伺える。
また、再入国時には前述の業務変更も認める意向とされている。つまり、業務を変えたいのであれば一度帰国して再入国してくれと言っているようにも見える提言となっている。
実際に就業してみて自身の適性との相違や想い描いていた内容との相違によって転職するケースは、世の中にごまんと存在しており、誰もが想像できる程度の話である。
しかしながら、外国人技能実習生については、業務区分の変更が認められず、業務区分をしたいのであれば一度帰国して再入国を必要とすると読み替えられる内容となってしまっている。
ただでさえ日本で働く価値が海外に比して低下している中、何様のつもりなのかと言われても不思議でない内容になってしまっている。果たして転籍に係る本提言は理性的に考えられた内容なのかと疑問を禁じ得ない。
提言⑧について
⑧ 上記の転籍等に係る制度の悪用防止や、適切な人材育成を促すため、上 記2の提言③に係る試験の合格率等を受入れ機関及び監理団体の許可等 の要件や優良認定の指標とする。
(注1)本人の意向による転籍については、従前認められていなかった転籍が認めら れることによる急激な変化を緩和することの必要性に留意する。
(注2)日本語能力に関しては、育成開始後1年経過時までに受験させる試験の内容 (上記2の提言③参照)を踏まえ、各受入れ対象分野でより高い水準の試験の 合格を要件とすることを可能とする。
(注3)新たな制度で複数回我が国に滞在した場合、その通算の滞在期間が2年以下 であれば再度の入国が可能であり、再度の入国後の滞在を含めた新たな制度で の滞在期間は、5年が上限となる(ただし、下記6の提言③により再受験に必要 な範囲で最長1年の在留継続があり得る。)。
転籍を通じた制度の悪用を防止し、また適切な人材育成の促進を行うべく、試験の合格率等を受入れ機関及び監理団体の許可・優良認定の指標にする必要性を説いている。
本内容については、むしろ現行制度で運用されていないのか不思議に思われる内容である。そもそも外国人技能実習制度の抜本的な見直しが必要となった背景には、受入れ機関や監理団体の質の低さがある。
なぜ質が低い、あるいは質が悪い受入れ機関や監理団体が野放しになるような制度になっていたのか甚だ疑問であるが、この度の改正により締めつけが強化されるのであれば、それは願ってやまない話だと考えられる。
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