「Solaria 2nd Stage 第四話|揺れるスタートライン」

「Solaria 2nd Stage 番外編|はじまりの音」
「Solaria 2nd Stage 第一話|星降る約束」
「Solaria 2nd Stage 第二話|ぎこちない光」
「Solaria 2nd Stage 第三話|はじまりの朝」
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「第四話 | 揺れるスタートライン」
冬の冷たい空気が、ダンス室の窓ガラスを白く曇らせていた。
久しぶりの放課後。
久しぶりの5人。
「なんかさ、ちょっと久しぶりじゃない?」
ひなたがストレッチをしながら笑う。
「まあ、冬休み挟んだからね」
しおりは淡々と返すが、その表情はどこか柔らかい。
「みんな元気そうでよかった?」
ゆいが安心したように微笑む。
さくらも小さくうなずいた。
「うん……なんか安心するね」
少しだけ空気がほどける。
——そのとき。
しおりがふと、二人を見た。
「……ていうか」
「ひなたとあかり」
「なんか距離近くない?」
一瞬の沈黙。
「え?」
ひなたがきょとんとする。
橘あかりは、わずかに目を逸らした。
「いや、なんかさ」
ゆいが楽しそうに身を乗り出す。
「前より自然っていうか……仲良くなった?」
さくらも遠慮がちに続ける。
「うん……雰囲気、違う気がする」
ひなたは少し照れくさそうに笑った。

「え、そう?」
「まあ……ちょっとね」
視線が、あかりへ向く。
「……別に」
あかりはそっけなく答える。
けれど、その声はどこか柔らかい。
「大晦日、一緒にいたし」
「えっ!?」
ゆいが大きく反応する。
「なにそれ聞いてない!」
「お泊まりしたの!?」
「情報量多いんだけど」
しおりも思わずツッコむ。
ひなたが慌てて手を振る。
「いやいや、普通に年越して、初詣行って……」
「たい焼き食べて……ちょっと話しただけ!」
「それ“ちょっと”じゃないよ」
ゆいが即答する。
さくらがくすっと笑った。
「なんか……いいなあ」
「青春って感じ」
ひなたがさらに照れる。

一方で——
しおりは静かに二人を見ていた。
(……変わったな)
「で?何話したの?」
ゆいがさらに食いつく。
「あ、それは……」
ひなたが言葉を濁す。
あかりが小さく息をついた。
「……別に大した話じゃないって言ってるでしょ」
少しだけ、トーンが低い。
「えー、気になるじゃん!」
ゆいは笑う。
でも——
ほんの一瞬だけ、空気が引っかかった。
気のせいかもしれない程度の違和感。
ひなたが手を叩く。
「はいはい!その話はまた今度!」
「それより、久しぶりに踊ろうよ!」
「今年最初の練習!」
「うん!」
「やろう!」
音楽が流れる。
軽やかなリズム。
体が自然に動き出す。
——のはずだった。
ほんのわずかに。
呼吸が、揃わない。

数分後。
「……一回止めようか」
しおりの声。
音が止まる。
「今のフォーメーション、少しズレてる」
「え、そう?」
ひなたが首をかしげる。
「うん、ほんの少しだけど」
あかりが足元を見ながら言う。
「まあ、久しぶりだしね」
ゆいがフォローするように笑う。
「ウォーミングアップだと思えば」
「……そうだね」
しおりも小さくうなずく。
もう一度、音楽。
今度は、少しだけ意識を揃える。
ステップ。ターン。
——でも。
微妙にズレる。
「……ま、今日はこんな感じかな」
ひなたが明るく言う。
誰も否定しない。
でも、誰も完全に納得していない。
そんな空気。
◇
中等部校舎前。
少し暗い位置から、部屋の中にいるSolariaの様子が見える。
チア部の数人が、窓の中を覗いていた。

「……見た?」
一人が言う。
「クリスマスのやつ」
「ああ、動画回ってきてたね」
「なんかさ……」
少し間。
「普通に良くなかった?」
沈黙。
「は?」
別の子が眉をひそめる。
「いや、でも去年と全然違くない?」
視線の先。
Solariaの5人。
音に乗って踊る姿。
「……あいつら」
「いつの間にあんな揃うようになったんだよ」
別の子が、少しだけ笑う。
「いいじゃん」
「潰しがい、出てきた」
風が吹く。
髪が揺れる。
「次はうちらの番でしょ」
「人気、全部取り返すよ」
視線が鋭くなる。
「負けるわけないじゃん」
——その目は、完全に“ライバル”のものだった。
◇
翌日の放課後、ダンス室。
練習が終わる。
「お疲れー!」
ひなたが明るく声を出す。
「お疲れ様」
「ふぅ……」
それぞれが水を飲み、荷物をまとめる。
いつもの光景。
——のはずだった。
「じゃ、また明日!」
「うん」
順番に部屋を出ていく。
最後に残ったのは、ひなた。
少しだけ、静かな空間。
ダンス室の中央に立つ。

さっきの動きを、頭の中でなぞる。
(……なんか)
違う。
言葉にはできない違和感。
「……気のせい、かな」
小さくつぶやく。
誰もいない空間に、声が消える。
ふと、床を見る。
さっきのフォーメーション。
ほんのわずかにズレた立ち位置。
そのまま、残っている気がした。
照明を落とす。
暗くなるダンス室。
静寂。
——まだ、壊れてはいない。
でも。
確実に、何かがズレ始めていた。
第四話 揺れるスタートライン (終)
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― 見えない距離 ― へ続く
