見出し画像

Anthropic「Mythos」が揺るがす金融サイバーセキュリティ——ウォール街緊急会合から読み解くAIインフラ投資の次の一手

AIの急速な進化が、金融業界の安全保障と投資の力学を同時に塗り替えようとしている。2025年5月、米財務長官スコット・ベセントとFRB議長ジェローム・パウエルがウォール街の主要銀行CEOを非公開の緊急会合に招集したことが明らかになった。議題は、Anthropicが開発した新たなAIモデル「Mythos」がもたらし得るサイバーリスクだ。同じ週、CoreweaveがMetaに続きAnthropicとも大型インフラ契約を締結し、AIインフラ需要の爆発的な拡大が改めて浮き彫りとなった。本稿では、この二つの動きを軸に、AIがもたらすリスクと投資機会の両面を整理する。


1. ウォール街CEO緊急招集——Anthropic「Mythos」が突きつけるサイバーリスク


1-1. 異例の非公開会合の背景

今週、ワシントンD.C.で開催されていた金融サービス・フォーラムに合わせる形で、急きょ追加の会合がセッティングされた。Bloomberg Techの報道によれば、Citi、Goldman Sachsをはじめとする大手銀行のCEOが参加し、「当初の議題には含まれていなかった」非公開の会議が行われたという。

記者のキャサリン・ドハティ氏は次のように伝えている。

「この会合は放送されることを意図していなかった。予防的な措置であり、AIの技術的課題がいま視野に入ってきていることについて議論を始めるものだった」

JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは、スケジュールの都合で欠席したが、同社は、すでにAnthropicの「Project Glass Wing」の一環としてMythosモデルへの限定的アクセスを持つ約40のパートナー企業のひとつとして、ストレステストに参加している。

1-2. 何が議論されたのか

会合の焦点は大きく二つに分かれる。

第一に、意識の共有だ。Anthropicの新モデルが、既存のサイバーセキュリティ体制にどのような脅威をもたらし得るかについて、CEOレベルでの認識を揃えること。第二に、具体的な防御策の検討である。すでにリスクを認識している企業に対しては「何をしているのか」「内部データの保護にどのようなステップを踏んでいるか」が問われた。

ドハティ氏の報道では、議論の中で特に懸念されたのは、「AIモデルが脆弱性を特定した後、その技術自体がその脆弱性を悪用し始める可能性」だという。つまり、セキュリティ強化のために導入したAIが、逆にシステムの弱点を攻撃のベクトルに転換してしまうリスクだ。

1-3. Mythosの位置づけ——OpenAIとの比較

Anthropicだけでなく、OpenAIもサイバーリスクに関する教育的な取り組みを金融機関に対して進めてきた。ただし、Mythosが注目される背景には、Anthropicの慎重なリリース戦略がある。50未満の組織にしか限定アクセスを提供していない点は、コンピュートの制約だけでなく、モデルの潜在的な影響力の大きさを示唆している。

Bloomberg Techのシリーン記者はこう述べている。

「このモデルが広くロールアウトされるまでは、その真の能力を評価するのは難しい。しかし、実際に実験した少数の関係者は、これを深刻に受け止めている」

2. Coreweave——AIインフラの"ラグジュアリー・ビルダー"が描く成長曲線


2-1. MetaとAnthropicの大型契約が相次ぐ

Coreweaveの株価は、Anthropicとの複数年にわたるデータセンター容量のレンタル契約発表を受けて13%上昇した。これは、前日に公表されたMetaとの210億ドル規模のディールに続くものだ。

Jefferiesのアナリストであるブレント・ティル氏(買い推奨・目標株価120ドル)は、Coreweaveを「AIのスターたちのためのラグジュアリー・ビルダー」と表現する。

「Meta、Anthropic、Microsoft、Google——世界最高の企業がCoreweaveに頼っている。これらの企業のどれも、自前だけではインフラを構築しきれない」

Microsoftは、直近の決算説明会で「コンピュータを設置する物理的な建物が足りない」と述べており、業界全体のインフラ不足が浮き彫りになっている。

2-2. バックログ900億ドルと資本調達の好循環

ティル氏の試算によれば、Coreweaveは、約900億ドルのバックログ(受注残)を抱えている。契約は、最低5年間で、顧客は一定額を前払いでコミットする。しかも、契約相手はMeta、Google、Microsoftといった「巨大なキャッシュフローと資金調達の懸念がない」企業群だ。

Coreweave CEOのマイケル・イントレーター氏は、資本戦略についてこう説明した。

「私たちはA-格付けの社債を7.5億ドル発行した。これはカウンターパーティの質の高さが反映されたものだ。加重平均資本コストの大幅な低下を実現した」

さらに、前日にはコンバーティブル・ノートとハイイールド債の二本立てで大規模な起債を行い、いずれも需要超過(オーバーサブスクリプション)となった。

2-3. 長期的な問い——ソフトウェア的なビジネスへの転換は可能か

ティル氏が指摘する長期的な論点は、Coreweaveが現在のインフラ構築ビジネスから、AmazonのAWSやMicrosoftのAzureのようなソフトウェアライクな高マージン事業へ移行できるかどうかだ。

「今日はインフラを構築している。明日、ソフトウェアを構築し、ワークロードを囲い込めるようになれば、株価はさらに大きく上がる余地がある。まだ完全に離陸して安定飛行に入ったわけではないが、方向性はそちらに向かっている」

時価総額500〜600億ドルの企業が900億ドル超の受注残を持ち、業界の設備投資が前年比70%増で7,000億ドル規模に達しようとしている現状を踏まえれば、株価上昇の論拠には一定の説得力がある。

3. コンピュート・クランチ——需要が供給を圧倒する構造


3-1. 各社が直面する「足りない」問題

Anthropicの年間売上は、300億ドルに到達する勢いで、Google、Amazonを含むどの企業よりも速くこの水準に達したとされる。ティル氏は自身の利用体験も交えながらこう語る。

「AnthropicもOpenAIも、ユーザーをスロットリング(利用制限)し続けている。もっと払ってほしいと誘導している。『制限に達しました』と表示される。需要はあらゆる方向から押し寄せている」

Bloombergの報道によれば、Microsoftのエイミー・フッドCFOがデータセンター建設の遅れを後悔しているとの情報もある。前四半期の決算で「物理的な建物が足りない」と公に認めたことは、業界全体のコンピュート不足を象徴する発言だった。

3-2. ハードウェア↑ vs ソフトウェア↓の二極化

ティル氏が強調するのは、AI市場における明確な二極化だ。

「これが、私が担当するソフトウェア株が下がり続け、ハードウェアと半導体、メモリが上がり続ける理由だ。需要が爆発し続けている」

SanDisk、Bloom Energy、TSMC(売上高前年比35%増)など、AIの「ピックス・アンド・ショベルズ(つるはしとシャベル)」に相当する銘柄が堅調に推移する一方、ソフトウェア株はアジア市場にも売りが波及している。インドのソフトウェア銘柄が特に大きな打撃を受けたとの報道もある。

3-3. OpenAIのStargate英国縮小が示すエネルギーの壁

OpenAIは、英国でのStargate計画を縮小する方針を示した。理由は、エネルギーコストと規制上の懸念だ。これは、コンピュートの確保にはチップだけでなく電力の安定的かつ安価な供給が不可欠であることを改めて示している。

一方、CoreweaveのイントレーターCEOは英国からの撤退を否定している。

「英国から撤退する意図はまったくない。エネルギー企業やデータセンター企業との良好な関係がある。引き続きこの地域でのプレゼンスを拡大する」

同氏はコモディティ畑の出身であり、エネルギーコストを分散するために複数の地域にインフラを配置するリスク管理を行っているとも述べた。

4. ETF資金フローと投資家心理——地政学リスクとAI成長の綱引き


4-1. テーマ型ETFに見る投資家の動き

Defiance ETFsのシルヴィア・ヤブロンスキーCEOは、地政学リスクとAI成長という二つの力が市場を動かしていると指摘する。

「AIパワー、インフラ、チップ関連のテーマ型ETFは、ウクライナやコロナなど他の危機と同様に打撃を受けた。しかし、解決の兆しが見えると再び上昇し始める。長期的には、AIインフラ、AIエネルギー、AIコネクティビティが投資可能なストーリーだ」

特にAIエネルギー関連ETFへの資金流入が直近数週間で回復傾向にあるという。AIは現在、世界のエネルギーの4.5%を消費しており、4年後には10%に達するとの予測がある。

4-2. 停戦の行方がマーケットの分水嶺

ヤブロンスキー氏は、中東情勢の行方が年後半の市場の方向性を左右すると見ている。

「停戦が単なる停戦にとどまらず前進があれば、市場はポジティブな年に向けて軌道に戻る。しかし、あと1〜2カ月紛争が続けば、インフレ、原油・ガス価格、消費者の財布への影響を心配し始めなければならない」

5. 戦争とAI——ドローン・情報優位が変える安全保障の投資テーマ


Palantirに代表されるAI防衛銘柄にも注目が集まっている。同社のCTOは次のように語った。

「これは、テクノロジーとAIによって実質的により生産的になった、初の大規模戦闘作戦だ」

ヤブロンスキー氏は、戦争の形態そのものが変化していると指摘する。2億ドルのミサイルよりも、数十万ドルのドローン2,000機の方が効果的なケースがあり、情報と意思決定のスピードが地上の戦車よりも重要になりつつある。

冷戦以降の航空宇宙・防衛分野における支出は過去最高水準にあり、イラン情勢後は年率20〜30%の成長が見込まれているとの見方もある。

6. まとめ——リスクと需要の両面を見極める


今週の一連の動きは、AIが金融業界にとって「成長ドライバー」であると同時に「システミック・リスクの源泉」でもあるという二面性を鮮明にした。

リスク面では、Anthropic Mythosのようなフロンティアモデルがサイバーセキュリティの前提を変え、金融規制当局が先手を打って動き始めている。投資機会の面では、コンピュート需要の爆発がCoreweave、TSMC、半導体・メモリ企業を押し上げ、ハードウェアとソフトウェアの明確な二極化をもたらしている。

ソフトバンクの孫正義CEOが語る「半兆ドル規模のAIデータセンター」、さらには「兆ドル規模のロボティクスデータセンター」が現実になるかは未知数だが、業界関係者が口をそろえて「まだビルドアウトの初期段階にいる」と述べていることは留意に値する。

投資家にとっては、地政学リスクの推移とエネルギーコストの動向を見ながら、AIインフラという長期テーマにどのタイミングでどの程度のエクスポージャーを取るかが、今後数カ月の重要な判断材料となるだろう。

オススメ記事


Next Big Wave——成長株・アイデアの種・トレンド深掘り



いいなと思ったら応援しよう!

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー