【7/25 - 7/31】注目の海外スタートアップの大型資金調達
7月最終週最大の資金調達は、Nvidiaが出資したとされるAI企業Safe Superintelligenceへの50億ドル規模の資金供給で、これにCommonwealth Fusion Systemsへの10億ドルの投資が続いた。エネルギー貯蔵、健康検査、原子力、フィンテック、そして、AIと、幅広い分野で大型調達が相次いだ一週間となった。
1. Safe Superintelligence ― Nvidiaから50億ドル、AI研究を加速
元OpenAI共同創業者・チーフサイエンティストのイリヤ・サツケバー氏が率いるシリコンバレーのAI研究機関Safe Superintelligenceは、Nvidiaとの長期戦略提携を発表した。この提携には、同社の計算資源を大幅に拡大することを狙った、チップ大手からの50億ドル規模の出資が含まれているとされる。
SSIは、短期的な収益化や商用プロダクトのリリースを急がず、安全でアラインメントの取れた人工超知能(ASI)の実現を目指す「一直線型」の研究アプローチを掲げていることで知られる。創業からおよそ2年間、目立った商業的発表をほとんど行わずに基礎研究に専念してきた同社にとって、今回の提携はNvidiaという最大級のパートナーを得て次のスケールアップ局面に入る大きな一歩となる。同社は、これまでに累計70億ドルを調達しており、Andreessen Horowitz、Alphabet、Sequoia Capitalなども出資者に名を連ねている。
2. Commonwealth Fusion Systems ― 追加10億ドルで累計40億ドル、核融合企業として世界最大
マサチューセッツ州デヴェンス拠点のCommonwealth Fusion Systems(CFS)は、核融合エネルギー技術の開発を手がけ、商用グリッド規模の核融合発電所の建設を目指す企業だ。同社は、非公表の投資家から10億ドルの新規資金を調達したと発表し、これにより累計調達額は40億ドルに達した。これは2021年の18億ドル規模のシリーズB調達以来、世界の核融合企業による資金調達としては最大規模だという。
同社は現在、実証機「SPARC」の組み立てを進めており、今回の資金は、その完成加速と、バージニア州で計画する商用発電所「ARC」の開発推進に充てられる。同社は、今年、米国の主要卸電力市場運営者であるPJM Interconnectionに加盟申請を行った初の核融合企業となっており、2030年代前半の送電開始を目指している。Googleやイタリアのエネルギー大手Eniは、同社への出資者であると同時に、将来の発電量の半分以上を購入する電力購入契約を既に結んでいるという。
3. Antora Energy ― サーマルバッテリーで5.5億ドル、データセンター向けに24時間電力供給
データセンター向けに「サーマルバッテリー」技術を通じてエネルギーを供給するAntora Energyは、シリーズCで5.5億ドルの資金調達を完了したと発表した。G2 Venture PartnersとEclipseが共同主導し、創業9年目、サンノゼ拠点の同社を支援した。
同社の技術は、安価な電力を断熱処理された固体炭素ブロックに「熱」として蓄え、必要に応じて熱または電力として24時間体制で供給する仕組みだ。リチウムイオン電池のような重要鉱物の供給制約や複数年に及ぶ建設期間を必要とせず、化学プラントから食品工場、データセンター、送電網まで、同じ工場生産型モジュールで対応できる点が特徴だという。同社は、今年、サウスダコタ州の食品加工大手施設で、着工から12か月足らずで稼働させた5ギガワット時規模の蓄電システムを実現しており、世界最大級の蓄電プロジェクトの一つとされる。
4. Function ― コンシューマー向け健康検査に4.5億ドル
オースティン拠点のFunctionは、消費者に対し直接、臨床検査・画像診断・パーソナル健康情報の提供サービスを展開する企業だ。従来は医師の紹介を経ないと受けられなかったような詳細な血液検査や画像診断を、個人が自ら申し込んで受けられるようにし、その結果をわかりやすく解釈・可視化するサービスを提供している。同社は、General Catalystから4.5億ドルの成長資金を確保した。
5. Antares ― 初の民間先進炉臨界達成の直後、4.7億ドルで軍事・宇宙向け展開へ
国防・宇宙用途向けの小型モジュール式原子炉(マイクロリアクター)を開発するAntaresは、シリーズCで4.7億ドル(株式3.7億ドル、負債1億ドル)を調達したと発表した。Paradigm(Matt Huang氏・Alana Palmedo氏率いる)とCaffeinated Capitalが共同主導し、Point72 Ventures、Shine Capital、Industrious Venturesなどが参加した。2023年創業の同社の累計調達額は6億ドルを超える。
同社が開発するマイクロリアクターは、燃料補給なしで何年も自律的に稼働し続けることを目指した設計で、送電網の維持が困難な軍事基地や宇宙用途向けに、安定した長期電力を供給することを想定している。同社は今年、アイダホ国立研究所において、米エネルギー省の「Reactor Pilot Program」のもと、試作機「Mark-0」で臨界を達成したばかりだという。これは、民間開発の非軽水炉として米国内で40年以上ぶりの快挙とされる。同社CEO兼共同創業者のJordan Bramble氏は、今回の資金を「納税者の負担と1対1の割合で、この技術を商業規模まで引き上げるために投じる」と説明した。同社は、2027年に先進炉からの発電開始、2028年には米軍施設への初期納入を計画している。Paradigm共同創業者のAlana Palmedo氏は、「Jordan率いるAntaresチームは、工場生産型のマイクロリアクターで、数十年ぶりとなる民間先進炉の臨界達成という快挙を成し遂げたばかりだ」と述べ、今後は米軍基地で長期にわたり安全・確実・経済的に稼働できるマイクロリアクターの量産展開という新たな段階に移行すると評価している。
6. Simile ― AIシミュレーションに2億ドル超、評価額20億ドル
「合成ユーザー」を用いたAIシミュレーションツールを開発するSimileは、評価額20億ドル(ポストマネー)で2億ドル超の新規資金を調達したと発表した。同社はマーケティング調査や製品リサーチにおいて、実際の人間の代わりにAIでシミュレートしたユーザー像を用い、市場の反応を予測するサービスを提供している。Greenoaksが主導したこのラウンドは、パロアルト拠点の同社が製品をローンチしてからわずか5か月というタイミングでの実現となった。
7. ThreatLocker ― サイバーセキュリティに1.9億ドル
サイバーセキュリティ企業ThreatLockerは、シリーズFで1.9億ドルの資金調達を完了した。同社は、許可されたものだけを実行させ、それ以外はデフォルトで拒否する「ゼロトラスト」型のセキュリティプラットフォームを展開しており、AIエージェントの急速な普及に伴うセキュリティリスクへの対応も強化している。Elephantが主導し、オーランド拠点の同社は、今回の資金をプラットフォームの磨き込みと国際展開の拡大に充てる方針だ。
8. CAIS ― オルタナティブ投資プラットフォームに1.7億ドル
独立系ファイナンシャルアドバイザー向けに、プライベートエクイティやヘッジファンドといったオルタナティブ資産への投資機会を提供するプラットフォームを運営する、ニューヨーク拠点のCAISは、シリーズDで1.7億ドルの資金調達を確保した。Vista Equity Partnersが主導し、同社の評価額は20億ドルを超える水準となった。
9. PEX ― 中小企業向け決済カードに1.6億ドル
企業向けにプリペイド・チャージカードの発行と、AIを活用した経費管理・資金追跡ツールを提供するPEXは、株式・負債合わせて1.6億ドルを調達した。同社は特に、経営者の高齢化に伴う事業承継が課題となっている中小企業を主な顧客層とし、旧態依然とした経理体制の刷新を支援している。Bluff Point Associatesが主導投資家を務めている。
10. Eliyan ― AIインフラ向け接続技術に1.45億ドル、評価額10億ドルのユニコーンに
AIチップ間のデータ転送のボトルネックを解消する接続技術を開発するEliyanは、シリーズCを総額1.45億ドルで完了し、評価額10億ドルのユニコーンとなった。同社の技術は、AIチップが処理速度に対しデータの送受信が追いつかず、高価なチップがアイドル状態のまま待機してしまう問題を解決することを目指しており、NvidiaやAMD製GPUに対抗する独自AI計算チップを開発する企業群に向けて、独立した選択肢を提供している。Seligman Venturesが主導し、創業5年目、カリフォルニア州サンタクララ拠点の同社を支援した。
