SaaS株22%下落の本質——「モデリング不可能」という新たな投資リスクと、月次3桁成長するトークン需要の矛盾
「SaaS投資家にとって、これは絶対的な混乱(absolute mess)だ」
Bloomberg Techに出演したマネージングパートナーは、ソフトウェア株の急落を前にこう断言した。2026年2月時点でIGB(iShares Expanded Tech-Software Sector ETF)は年初来で22%以上下落している。しかし、これは単なる景気循環的な調整ではない。投資家が直面しているのは、「従来のSaaSモデルをどうモデリングするか分からない」という、より根本的な問題だ。
1. AIバブルか変革か——矛盾の核心
1-1. 「両方が同時に真実であることはできない」というジレンマ
番組ホストのEd Ludlowは、AI投資をめぐる根本的な矛盾を指摘した。
「AIが旧経済と新経済の両方を変えるのか、それとも我々はAIバブルの中にいるのか。多くの人にとって、両方が同時に真実であることはありえない」
この問いに対し、ゲストは、「エージェント加速(agentic acceleration)」という現象に注目するよう促した。これは単なるAI技術の進化ではなく、SaaSの消費モデルそのものを破壊する力を持つ。
1-2. トークンの「月次3桁成長」が示すもの
ゲストが強調したのは、OpenAIなどで観測されている驚異的な数字だ。
「トークン成長率は月次で3桁台だ。これは四半期ごとでも年次でもない。月次でだ」
クラウド大手(Google、Microsoft、Amazon、Meta)が、合計6,500億ドルの設備投資を計画しているにも関わらず、コンピュート需要に追いつけていないのは、この爆発的なトークン消費が原因だ。
2. 「モデリング不可能」——SaaS投資家の悪夢
2-1. フリーキャッシュフローをどう予測するか
伝統的なSaaS企業の評価は、フリーキャッシュフロー(FCF)の倍率に基づいていた。しかし、ゲストはこう説明する。
「従来のSaaS消費モデルから離れ、エージェント加速を見ると、人々は率直に言って『道を譲っている』。そして、インフラ関連の6つのセクターに移動している」
つまり、投資家は、従来のSaaSモデルがConsumptionベース(利用量ベース)に移行できるかどうか分からないため、SaaS株を手放し、より確実性の高いインフラ銘柄へ逃避している。
2-2. Amazonの「ホワイトカラー大量レイオフ」が意味すること
Ed Ludlowは、キャピタル・エクスペンディチャー(設備投資)がキャッシュフローを圧迫していると指摘し、ゲストはAmazonを例に挙げた。
「Amazonは、(AI投資などで)キャッシュフローが圧迫される局面で、“neutral cash flow(中立〜トントン)”に近づけるために、ホワイトカラーを“かなり大きく”レイオフした」
これは、Google・Metaのように広告収入でFCFを補填できる企業と、そうでない企業(AmazonやMicrosoft)との間に構造的な差があることを示している。
3. 「メモリ危機」——誰も語らない2年以内のボトルネック
3-1. トークンとInferenceが生むメモリ不足
ゲストが、「誰も語っていない」として強調したのが、メモリ問題だ。
「トークンの加速と推論の拡大を考えると、我々は、巨大なメモリ問題を抱えている。これは危機レベルだ。今後2年間、このコンピュートを支えるのに十分なメモリがない」
AI推論(Inference)は、学習(Training)とは異なり、リアルタイムで大量のデータを処理し続ける必要がある。そのため、DRAM・HBMなどの高速メモリへの需要が爆発的に増加している。
3-2. Nvidiaへの期待——決算で何を示すべきか
翌週に控えたNvidia決算について、ゲストは2つのポイントを挙げた。
「第一に、投資家にメモリ問題がないことを保証しなければならない。そして、実際、彼らにはない。Jensenは、サプライチェーンを確保することでメモリ問題を回避している」
「第二に、Blackwellの数字と、次世代Rubenへの移行タイミングが重要だ。これはインフラの本当の変化であり、GPUやInferenceに関するビジネスを共食いしないことを示す必要がある」
つまり、Nvidiaは、メモリ供給の確保と次世代製品への移行がスムーズであることを証明しなければ、市場全体を牽引できない。
4. 公開市場 vs プライベート市場の温度差
4-1. OpenAIの「プラットフォーム統合」が示すもの
Ed Ludlowは、公開市場でのSaaS株売りと、プライベート市場でのAI企業への資金集中という二重構造を指摘した。
週末にSNSで話題になったのが、OpenAIの動きだ。同社はさまざまなプラットフォームを統合し始めており、これは、コンシューマーAIプラットフォームの一極集中を示唆している。
4-2. 「旧と新の戦い」——投資家はどちらに賭けるか
ゲストはこう整理した。
「これは本当に、旧と新の間の戦いだ。旧(SaaS消費モデル)をモデリングできず、エージェント加速を見ている人々は、率直に言って『道を譲って』インフラに移動している」
つまり、公開市場の投資家は、不確実性の高いSaaSモデルの移行を待つよりも、確実に成長するインフラ(半導体、クラウド、ネットワーク)へと資金をシフトしている。
おわりに——「絶対的な混乱」の中で何を信じるか
IGB(ソフトウェアETF)の22%下落、Bank of Americaの調査で過去最高の「企業は過剰投資している」との回答、そして4大テック企業による6,500億ドルの設備投資計画——これらすべてが、AI時代における投資判断の難しさを物語っている。
ゲストが繰り返した「absolute mess(絶対的な混乱)」という言葉は、単なるレトリックではない。従来のSaaSモデルが崩壊しつつある一方で、新しい消費ベースモデル(Consumptionベース)がどう機能するかは未知数だ。そしてその移行期に、メモリという物理的制約が2年以内に顕在化する。
投資家が今直面しているのは、「AIバブルか変革か」という二択ではなく、「どのレイヤーに賭けるか」という選択だ。SaaSアプリケーション層か、インフラ層か。そしてその判断は、Nvidia決算という次の試金石で再び試される。

