Voyager Technologies創業者Dylan Taylor氏、創業7年で5億ドル超調達からIPOへ ― 次世代ISS「Starlab」
宇宙飛行を実際に経験した経営者が、国際宇宙ステーション(ISS)の後継機を自ら手がける――。Voyager Technologies創業者でCEOのDylan Taylor氏は、2025年6月に同社をニューヨーク証券取引所に上場させた人物だ。創業からわずか7年弱で私募市場から5億ドル超を調達し、公開市場へと駒を進めた背景には、宇宙体験から得た独自の経営哲学があるという。Unreasonable Storiesポッドキャストでの対話をもとに、投資家・ビジネスパーソンの視点からその内容を整理する。
1. Voyager Technologiesとは何か
Taylor氏は、Voyager Technologiesを「国家安全保障分野と宇宙インフラの両方を手がける会社」と説明する。同社は、ISSの後継となる商業宇宙ステーション「Starlab」の開発を進めると同時に、現時点でISSを最も多く利用する民間企業でもあるという。過去7年間で1,400件の実験・ミッションをISSで実施してきた実績があり、衛星間通信や位置特定に使うレーザー技術・スターセンサーなどの基盤技術にも携わっているとTaylor氏は述べた。
2. 創業の原点 ― 3歳で芽生えた宇宙への憧れ
Taylor氏が宇宙に惹かれたきっかけは、父親と見た『スタートレック』だったという。当時、デンバーの治安の良くない地域で暮らしていた家庭環境と、画面の中の調和の取れた世界とのギャップに「なぜ自分の周りの世界とこんなに違うのか」と疑問を抱いたことが原体験になったと振り返る。
その後、ビジネスの世界で一定の成功を収めながらも「目的意識を持てない」状態にあったTaylor氏は、38歳のときに自身のキャリアを見直し、宇宙産業への投資家・メンターとして関わり始めた。これが後にVoyager創業、そして非営利団体Space for Humanityの設立へとつながっていく。
3. 「反射する栄光」という経営哲学
Taylor氏が重視する考え方の一つが、あるメンターから受け取った「reflected glory(反射する栄光)」という言葉だ。「他者にもたらす栄光を見る喜びが、自分自身の栄光への欲求を上回ったとき、本当のリーダーになれる」という教えを、今も意思決定の軸にしているという。
事業の組み立て方についても、ゴールから逆算して必要な工程を担う発想を取っている。宇宙産業の早期投資家として活動を始めたのも、「業界に資金循環の起点が欠けていた」というギャップを見つけたためだと説明している。
4. Starlab計画 ― ISSの後継機を巡る競争
ISSは、25年以上運用されている人類最大級のプロジェクトで、総額400億ドル超が投じられてきたとされる。米議会では運用期限を2030年から2032年へ延長する案が検討されているが、Taylor氏は、「それ以上の延長は見込みにくい」との見方を示す。
NASAは、ISSの商業的な後継機開発を公募し、Voyagerはフェーズ1の競争に勝ち抜いた企業の一つとなった。後継機「Starlab」はAirbus、三菱、Palantir、Hiltonなどとのコンソーシアムで開発が進められており、これまでにNASAとの間で28のマイルストーンを通過しているという。設計審査も完了し、フェーズ2の選定を経て、軌道投入は2029年を目標としている。
5. IPOの舞台裏 ― Barclaysとの協業
Voyagerは、2025年6月に上場を果たした。Taylor氏は「上場すること自体は簡単な部分で、難しいのは質の高い上場企業であり続けること」と語り、当初から公開企業として運営することを前提に会社を設計してきたと説明する。実際、創業者であるTaylor氏自身が議決権の過半を保持する構造になっており、四半期ごとの業績に縛られず長期的な経営判断を下せる体制を意図的に構築したという。
IPOプロセスでは、創業330年を超える金融機関Barclaysのバンカー、Rob Brass氏が大きな役割を果たした。Taylor氏は「市場に向けた語り方を一緒に作り上げてくれた」とその貢献を評価している。なお同社はIPO後、Barclaysを含む銀行団とともにコンバーティブル(転換社債型)のフォローオン・オファリングも実施している。
6. 宇宙経済の次の10年 ― LEO・月・ラグランジュ点
Taylor氏は今後10年の戦略を「LEO(低軌道)、月、ラグランジュ点」という3つの軸で語る。月面開発については、「Project Prevail」と呼ばれる取り組みを進めており、月の砂(レゴリス)による機材損傷対策のコーティング技術、レゴリスからの酸素生成技術、月面居住モジュールの3点を中心に開発を行っているという。月にはヘリウム3など地球では希少な資源が存在することも、月を目指す理由の一つだと説明する。
また、データセンターの電力・冷却問題を背景に、宇宙空間での演算基盤の可能性にも言及。軌道上では放射冷却のみとなるため大型の放熱板が必要になるなど技術的な制約はあるものの、小型分散型のデータセンター網という発想もあり得るとした。
7. 微小重力が生む医療・産業革新
ISSでの実験が地上の生活にもたらした具体例として、Taylor氏は肺がん治療薬「Keytruda」の製剤開発における微小重力環境の活用を挙げる。重力の影響を排除した環境では、タンパク質の折り畳みや結晶成長の挙動を地上とは異なる形で観察できるという。
さらに、ISS上で半月板(meniscus)を3Dプリントし地上に持ち帰った例も紹介。微小重力下では細胞組織を重力による圧縮なしに積層できるため、将来的には患者本人の幹細胞から臓器を生成する可能性にもつながるとしている。半導体や光ファイバー向けの高純度結晶成長も、同様に宇宙環境を生かせる分野だという。
8. メンターシップという経営の土台
Taylor氏は、自身の最大のメンターを父親だと述べ、「自分を管理・操作しようとする意図を一度も感じなかった」関係性が信頼の基盤になったと振り返る。自身が他者を指導する際には独自の「メンター契約」を用い、契約には「40歳までに自分自身も最低3人をメンターすること」という条項を必ず含めているという。知見や支援を一方向で終わらせず、次の世代へ循環させる仕組みを意識的に設計している点が特徴的だ。
