Navan創業者Ariel Cohen氏が語る、2025年10月IPOの裏側――きっかけは「ウクライナでの一夜の悪夢」
出張先のホテルでチェックインを拒否され、真冬の街を凍えながら次の宿を探し歩いた――。そんな個人的な「悪夢」が、2025年10月にIPOを果たした出張・経費管理プラットフォーム「Navan(ナバン)」誕生のきっかけになったという。共同創業者でCEOのAriel Cohen氏は、Yahoo Financeの番組「Power Players」のインタビューで、創業の経緯からAI戦略、そして上場後の市場との対話まで率直に語った。本稿では、その内容をビジネスパーソン・投資家向けに整理する。
1. 創業のきっかけ ― ウクライナでの一夜
Cohen氏は、出張が好きだと前置きしつつ、既存の出張サービスの質の低さに長年苦しんできたと振り返る。象徴的なのが、ウクライナ・オデッサでオフショア拠点を立ち上げていた頃の体験だ。深夜11時にホテルへ到着したところ、クレジットカードのシステム障害により「ノーショー」と誤って処理され、予約が取り消されていた。真冬の中、旅行代理店にも連絡が取れず、結局別のホテルでプレジデンシャル・スイートを高額で手配する事態になったという。
Cohen氏は、「こうした話はあまりにもリアルで、共同創業者のElanと私は、もっと良いサービス、もっと良い予約方法があるはずだと考えた」と語る。この原体験が、Navanの出発点になった。
2. 業界未経験からのスタート
興味深いのは、Cohen氏とElan氏が旅行業界についてほぼ何も知らない状態から事業を始めたという点だ。航空会社やホテルチェーンとの初期の打ち合わせで「GDS(Global Distribution System)を経由して接続するのか」と問われ、GDSが何かすら知らなかったというエピソードを明かしている。
それでもCohen氏は、「ユーザー、つまり旅行者こそが最も重要であり、その体験に異常なほど集中する必要がある」という一点だけは創業当初から確信していたと述べる。知識の不足を補ったのは、失敗を恐れず素早く学習し改善するという企業文化だったという。
3. 既存システムへの挑戦 ― SAPやWorkdayとの違い
Navanは、SAPやWorkdayといった巨大企業がひしめく市場に挑んでいる。Cohen氏はこれを「競争」ではなく「不合理への反発」と位置づける。
「システムやサービスが質の低いものを見ると、本当に腹が立つ。それが私を変革へと強く動かす」と語り、既存の出張・経費管理システムは、1990年代の「すべてを承認プロセスで縛る」という前提のまま設計が止まっていると指摘する。さらに、旅行代理店業界に根付く「変更ごとに課金し、手数料を隠す」というビジネスモデルにも疑問を呈し、Navanは、予約時に一度だけ料金を取り、何度でも無料で問い合わせ対応する方式を採用しているとした。
4. AIエージェント「Ava」と業務効率化
Navanは、2016年という早い段階で機械学習を出張予約に導入し、その後IBM Watsonベースのチャットボットを経て、現在は、生成AIを活用したAIエージェント「Ava」を展開している。Cohen氏によれば、出張者が現地で困った際のサポート対応のうち55%はAvaが処理し、解決できない場合は人間のオペレーターへスムーズに引き継がれるという。
また、経費精算についても、レシートを動画で撮影するだけで内容を自動認識し、項目別に仕訳まで行うAIエージェントを最近リリースしたと紹介。手入力で金額が合わず苦労していたという司会者の体験談に対し、Cohen氏は「写真をアップロードするだけで完了する」とその効率性を説明した。
5. IPOと株価、そして「SaaSではない」という主張
Navanは、2025年10月に上場したが、Cohen氏はロードショーの最終局面でAIへの関心が急速に高まったタイミングと重なったと振り返る。株価は一時8ドル程度まで下落したが、取材時点では19ドル前後まで回復しているという。
Cohen氏が強調するのは、Navanは、従来型のSaaS企業ではなく、予約ごとに手数料を得る「使用量ベース」のビジネスモデルだという点だ。IPO直後、市場全体でSaaS企業の株価が一斉に売られた局面があったが、Navan自身は、SaaSモデルではなかったため、その文脈を投資家に再説明する必要があったと述べている。これは旅行代理店が人間のエージェントによる予約業務で収益を得る構造と本質的に近く、AIエージェントによる予約代行とも整合的なモデルだという主張だ。
6. 新製品「Navan Edge」と今後の展望
Cohen氏は、直近でリリースした新製品「Navan Edge」にも言及した。これは企業の出張管理ポリシーに縛られず個人で出張を手配するビジネスパーソン(特にセールス担当者など)を対象にしたサービスで、ロイヤルティプログラムの会員番号やホテルでの好みなどを自動的に把握し、対話形式で最適な手配を提示する仕組みだという。
将来的には「ロンドンに行きたい」と伝えるだけで日程・フライト・ホテル・現地でのアクティビティまで自動的に提案できる状態を目指しており、その機能の一部は既に実用化されているとCohen氏は説明した。
7. AI時代の働き方と企業経営への考察
AIの進化が雇用や働き方に与える影響について問われたCohen氏は、楽観的な立場を取る。「多くの企業はより大きく、より効率的になり、結果として雇用を増やすことになるだろう」と述べ、人々の労働時間が減る一方で、自由時間の増加が旅行需要や対面でのコミュニケーション需要を高めると予測している。
また、AIエージェントの普及により、企業は人間の従業員と同様にAIエージェントを管理するための新たな業務プロセス(規制対応・コスト管理など)が必要になると指摘し、これは既存のSaaS企業にとって自己変革の機会にもなり得ると述べた。

