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Sequoia CapitalのDavid Cahn氏、AI累計投資額「3兆ドル」を試算 ― ChatGPT登場以来の回収必要額

生成AIへの投資額が天文学的な規模に膨らむ中、「この投資は本当に回収できるのか」という問いが、テック業界とウォール街の双方で最大の関心事になっている。Sequoia Capitalのパートナーであり、2024年に「AIの2000億ドル問題」という論考で早くからこの議論に数字を持ち込んだDavid Cahn氏が、ポッドキャスト「Big Technology」に出演し、AI投資の回収可能性と、主要テック企業がそれぞれ繰り広げる"戦略ゲーム"について語った。


1. AI投資はどこまで膨らんだのか ― 2000億ドルから3兆ドルへ


1-1. わずか2年で「桁が変わった」投資規模

Cahn氏は、2024年、「AIの2000億ドル問題」と題した論考で初めて注目を集めた。GPU1ドルの支出に対し、データセンター運用のエネルギーコストとしてさらに1ドルが必要になるという前提のもと、NVIDIAが、年間500億ドルのGPU収益を上げれば、それに伴う累積データセンター投資額は、およそ1000億ドルに達し、投資家が50%のマージンを求めるとすれば、その年のGPU設備投資を回収するには、生涯収益として2000億ドルが必要になる、という試算だった。

Cahn氏は、この数字がその後急速に膨らんだ経緯を振り返る。「2023年の設備投資に対応する数字が2000億ドル、2024年には6000億ドル」だったとし、2025年には、8500億ドル(前年比で伸びは鈍化)、そして、2026年には約1兆5000億ドルへと倍増したと説明した。これらの数字は累積で積み上がっていくものであるため、「ChatGPT登場以来、すでに支払うべき金額は合計でおよそ3兆ドルに達している」とし、2027年分を加えればさらに膨らむとの見方を示している。

1-2. TAM(実現可能な市場規模)をどう捉えるか

番組ホストのアレックス・カンツロヴィッツ氏が、「クラウドソフトウェア業界の規模と比較してほしい」と問いかけると、Cahn氏は、「クラウドインフラが約5000億ドル、SaaSアプリケーションが約5000億ドルで、合わせて約1兆ドル」の市場規模だと説明した上で、「AIが本当に狙っているTAM(獲得可能な市場規模)は、ソフトウェア収益ではなく、人間の労働そのものだ」と述べた。「サービス業の売上のうち10%が自動化され、そのすべての価値をAIラボが獲得できれば投資は回収できる」という試算がよく引き合いに出されるが、Cahn氏は、これについて「大きな前提を置いている」と冷静な見方を示している。

その上で、同氏は、「長期的には人間の認知労働の99%がAIによって行われるようになると考えており、その意味では、長期的にROIの問題は存在しない」としつつ、「金融市場には、常に"タイミングのズレ"という緊張関係がある。長期はすぐには訪れないが、企業は今この瞬間に投資をしている」と指摘した。

2. タイミングのミスマッチというリスク


2-1. Anthropicの急成長は「これ以上ないほど衝撃的」

Cahn氏は、AI投資が実際に回収可能かどうかについて「実現可能性は十分にあり、着実な進展も見られる」と述べる。「この1年でAnthropicに起きたことは、企業を研究してきた人間からすれば衝撃的というほかない。史上最も成長の速い企業だ」と評した。

同氏が、最初に「6000億ドル問題」を発表した当時、OpenAIの収益は、120億ドル程度だったとし、「今日では、OpenAIとAnthropicを合わせて1000億ドルを超えている」と振り返る。「今もAI業界の収益の大部分をこの2社が牽引している状況であり、まだ道のりは長いが、これは着実な進歩だ」と述べた。

2-2. ダリオ・アモデイ氏の「10倍成長」宣言が的中

番組ホストは、AnthropicのCEOであるダリオ・アモデイ氏が、「2024年の10億ドルから2025年には100億ドルへ」という成長を明言していたことに触れ、当時は「クレイジーに聞こえた」と振り返る。これに対し、Cahn氏は、「Claude CodeとClaude Cowork(旧Cowork)の登場によって、Anthropicは、そこそこのサイズのAPIビジネスから、強力なプロダクトビジネスへと変貌した」と評価した。

一方で、同氏は、コスト側も収益側と同じペースで拡大している点を指摘する。「分子(収益)と分母(コスト)の両方が動いており、片方で進歩しても、埋めるべき穴がまた大きくなる」とし、2026年には、「AIコーディングの拡大を背景に、ハイパースケーラーが軒並み設備投資を倍増させた」と説明した。「2025年1月には、MicrosoftとAmazonが、設備投資を抑制していたが、株式市場から"AIに強気ではない"と評価され株価が罰せられ、結局ゲームに戻ってこざるを得なくなった。今や誰もがゲームに参加しているだけでなく、全員が猛烈に加速している」と述べている。

3. 「AGI以外に正当化する道はない」


3-1. ウォール街の見方とラボ経営陣の発言のズレ

Cahn氏は、「今提案されている今後10年分の投資を正当化できるのは、AGI以外にあり得ない」という自身の過去の主張について、「今もそう信じている」と明言した。10ギガワット、30ギガワット、100ギガワットといった規模の設備投資について「その金額を回収する唯一の方法はAGIしかない」との考えを示す。

同氏は、金融市場が、「市場が今月10%下落すればパニックになり、10%上昇すればまた大騒ぎする」という短期的なボラティリティに気を取られがちだと指摘し、「実際には、道は二つに分かれつつある。一つは、AGIを実現し、これらの数字以上を回収できるという道。もう一つは、タイミングを見誤り、コーディングの次の"新しいアプリケーション"が現れず、大きな清算が訪れるという道だ」と述べた。「市場は、AGIの実現確率と、調整が起きる確率の両方を過小評価し、現状維持バイアスを過大評価している」との見方を示している。

Cahn氏は、Sundar Pichai氏、Satya Nadella氏、Sam Altman氏、Elon Musk氏、ダリオ・アモデイ氏といった経営者たちが「自分たちはAGIを追い求めている」と明確に語ってきたことを挙げ、「これについて議論の余地はない」と述べた。一方で、金融市場は、こうした発言を無視しがちだとし、「AGIを前提にGoogle株を保有するのは、脳にとって理解しづらいことだからだ」と分析している。

3-2. なぜAGIの実現時期は「遅い」と語られるのか

番組ホストは、市場や投資は、AGIが近い将来に実現するかのように動いている一方、AIラボのリーダーたちの発言は、むしろ慎重、あるいは時間軸を後ろ倒しにする傾向があると指摘した。ダリオ・アモデイ氏は、今年〜来年に実現する可能性を語る一方、Sam Altman氏は、「緩やかな特異点」という表現を使い、イリヤ・サツケバー氏は、事前学習の終焉を語り、ヤン・ルカン氏は、LLMがAGIへの道ではないと主張している。

これに対し、Cahn氏は、「これは2025年に自分が最もこだわっていたテーマだ」と述べ、自身がトランスフォーマー論文発表の1年後からAIに投資してきた経緯を紹介した。「イリヤやサム、グレッグといった人たちが、"AGIは10年先だ"と語り始めたのを見て、10年AIを追ってきた自分としては、それは非常に理にかなっていると感じた」という。同氏は、2024〜2025年にかけて「サーバー・鋼鉄・電力」というレポートを執筆し、データセンターの建設に実際にどれだけの時間がかかるかを深掘りした経験に触れ、「データセンターを建設すると発表してから実際に完成するまで2年かかる。地域住民の反発などを考えれば、もっと長くなる可能性もある」と説明した。「エクセルのスプレッドシートやチャート上では、指数関数的な成長を簡単に描けるが、物理世界での指数関数的な成長は非常に困難だ」と付け加えている。

4. 「AIバブル」論はなぜこれほど混乱を招くのか


Cahn氏は、AIバブルをめぐる議論が感情的に振れやすい理由について、「誰もが自分の"持ち高"を語っているに過ぎないからだ」と指摘する。空売りをしている投資家はバブルだと主張し、ロングポジションを持つ投資家はそうではないと主張するという構図だ。「"バブル"という言葉自体に強い感情的な荷物が伴っており、みんなその言葉を聞いた瞬間に思考を止めてしまう」と述べた。

同氏は、Sierraのカスタマーサービス、Harveyの法律分野、Juiceboxの採用分野といった具体的なユースケースを挙げ、「実際にこれらの技術を試してみれば、認知労働が置き換わっていく未来が見える」と述べる一方、「バブルかどうかという二元論的な議論は非常に近視眼的になりがちだ」と述べた。「自分の仕事の8割は、企業の取締役会でこのAIサイクルをどう乗り切るか、どうすればこのサイクルの勝者側に回れるかを考えることに費やされている」とし、「バブルかどうかという議論は、実務上はそれほど重要ではない」との立場を示した。

5. 各社の"AI戦略ゲーム" ― Sequoiaパートナーによる採点


番組では、番組ホストが各社の戦略を一言でまとめ、Cahn氏がそれに反応する形式で議論が展開された。

5-1. Anthropic ― 「エンタープライズ支配」ではなく「人材の独占」

番組ホストが、「Anthropicの戦略は、エンタープライズとコードの支配だ」と提示すると、Cahn氏は、「そうは思わない」と即座に反論した。「彼らの戦略は、世界のAI人材を独占し、勝つことだ」と述べ、「Anthropicは"自分たちが何を信じているか"が非常に明確であり、それが優秀な人材の採用を可能にし、その人材がさらに複利的に積み上がっていく」と説明する。「talent(人材)こそが今の希少資源であり、この希少資源を独占することが勝利につながる」との見方だ。

同氏は、Metaによる大規模な引き抜き攻勢の際、Anthropicが、競合他社に比べてはるかに少ない人数しか失わなかった点にも言及した。その上で、「Anthropicの戦略は、AGIの実現をどこまでも深く信じるという点で非常に一貫している。プロダクトを持つことは良いことであり、投資を惹きつけるための収益も必要だが、最終的にはすべてがAGIに向けられている」と分析している。この戦略の弱点については、「AGIがコモディティ化する可能性そのものが、この戦略の弱点になり得る」と述べつつ、「自分は、グランドマスターではないので、良し悪しを断定はしない」と付け加えた。

5-2. OpenAI ― 「誰もがAGIを過小評価している」という賭け

番組ホストが、「OpenAIの戦略は、最も賢いAIを作り、あとは考える」と提示すると、Cahn氏は再び反論する。「OpenAIの戦略は、誰もがAGIを過小評価しており、自分たちが最も積極的にリスクを取り、他社よりも少ないリスクしか取らない、そして、最終的に自分たちが正しかったと証明されて勝つというものだ」と説明した。同氏は、OpenAIが「この分野を発明した」という優位性と、卓越した人材を有していることを強みとして挙げ、「Metaが、人材獲得でOpenAIに対抗しようとして今のところ失敗していること自体が、OpenAIに残る人材の質の高さを物語っている」と述べている。

この戦略の弱点については、「最も積極的に、最も速く突き進むからこそ、技術の実現タイミングと事業のタイムラインがズレるリスクに最もさらされやすい」と指摘した。

5-3. Google ― TPUという強力な資産、しかし一貫性を欠く

番組ホストが、「検索を"ぎりぎり変えない"戦略で顧客をつなぎとめつつ、良いモデルとクラウドサービスも作ろうとしている」と提示すると、Cahn氏は、「Googleは難しい」と応じた。「単一の人物が、単一のビジョンで動かしているようには見えない」ことが理由だという。

同氏は、Googleが持つ2つの大きな強み、すなわち検索事業から生まれるキャッシュマシンと、独自開発してきたTPUチップを挙げ、「TPUを持っていることがどれほどの優位性か、いくら強調してもし過ぎることはない」と述べた。「もし自分がGoogleを経営するなら、TPUに全面的に賭ける」としつつ、実際には、同社がTPUを自社向けに囲い込む一方で、AGI追求という「OpenAI的な戦略」により近づいているように見え、「そのやり方でうまくいくのかは分からない」と率直な戸惑いを示している。

なお、垂直統合について、同氏は、「ここ2年の証拠を見る限り、データセンターとモデルを両方持つことがモデルの優位性につながっているようには見えない」との仮説を示した。「これは、モデルを作るチームとデータセンターを作るチームが実質的には話をしていないほど巨大な組織になっているからかもしれない」とし、Appleを引き合いに「垂直統合をしない戦略」の一例として挙げている。

5-4. Meta ― 「傭兵軍」で"AGI"を買えるか

番組ホストが「良い消費者向けAIアプリを誰かが作るまで様子見して、それをコピーして配信する」と提示すると、Cahn氏は、「自分の見方はもっとシンプルだ」とし、「人材を買う。傭兵軍だ」と述べた。「潤沢な資金を持つ企業の"資源の呪い"というべき状況が、逆に足かせになっている可能性もある」としつつ、「Metaが獲得した人材は、非常に優秀で、チームの質も高いと個人的には考えている」と評価している。

一方で、「数万人規模の組織の中に、明らかに重要な仕事に取り組む50人ほどの"象牙の塔"チームが存在するという、組織的な機能不全が2026年に浮上している問題だ」とも指摘し、「かつては世界で最も働きたい会社だったMetaが、今はそう見なされていない」という「有機的な人材の流入」の問題にも言及した。

5-5. Microsoft・Amazon・Apple・Nvidia ― それぞれの立ち位置

Microsoftについては、「OpenAIとAnthropicのモデルをコモディティ化させ、既存のエンタープライズ関係から収益を得る」という見立てにCahn氏はおおむね同意しつつ、「サティア・ナデラ氏は、OpenAIの株式の多くを保有している点であまり評価されていない。彼の取引巧者ぶりは並外れている」と述べた。「OpenAIとラボが勝ってフロンティアモデルがコモディティ化しなければ、Microsoftは、その一部を保有しているので恩恵を受ける。逆にコモディティ化すれば、流通網の強さで勝つ」という"どちらに転んでも勝てる"構造を評価している。

Amazonについては、「あまり多くをしない、コンピュートを売って利益を出す」という見立てにCahn氏は最も同意を示した。「内部にAGIラボを持っているが、優先度が高いようには見えない」とし、「データセンター建設については世界最高の実力を持つが、AI時代においてそれがどこまで差別化要因になるかはまだ分からない」との見方を示している。

Appleについては、「"何もしない"戦略」だとしつつ、「コモディティ化が進めば、Appleが結果的に賢く見える可能性もある」と評価し、Nvidiaについては、「推論がコモディティ化しないよう祈っている」としながらも、Jensen Huang氏が、30年間一貫して「エコシステム重視」の姿勢を貫いてきた点を高く評価した。「Jensen氏は、みんなが勝つことを望んでいる。実際、テーブルの上にかなりの利益を残しているが、それは彼が本気でこの産業全体がうまくいくことを願っているからだ」と述べている。

5-6. SpaceX ― 「人類の進歩」という使命駆動の戦略

SpaceXについては、当初は、自社モデルでAGIを追求していたが、Grokとの連携やニューラルクラウド(neocloud)事業へと軸足を移した経緯に触れ、Cahn氏は、「イーロン・マスク氏は、根本的にお金に動機づけられているのではなく、使命に動機づけられている」と評した。「彼は文明を前進させることに本気で関心があり、それによって結果的にお金を稼ぐことになる」との見方だ。

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