100社超の決算から景気後退リスクを読む——Steve Eismanの視点で投資判断をアップデートする
「リセッション(景気後退)は近いのか?」——この問いは、関税政策やイラン戦争の影響が広がる2025〜2026年の投資家にとって、最大の関心事の一つだ。映画『マネー・ショート』のモデルとしても知られるSteve Eismanが、自身のポッドキャスト「The Real Eisman Playbook」(2026年4月24日収録)で、100社超の四半期決算を横断的に分析し、景気の「体温」を測った。
結論から言えば、「決算は概ね良好で、リセッションが迫っていることを示すデータはなかった」というのがEismanの見立てだ。しかし、セクターごとに見ると明暗がはっきりと分かれている。本記事では、彼の分析を産業・ソフトウェア・保険・住宅建設・プライベートクレジットといったセクター別に整理し、投資家が押さえておくべきポイントを解説する。
1. マクロ環境——イラン戦争と原油価格の影
1-1. 戦争の行方は依然不透明
Eismanは、まず、イラン戦争の状況に触れた。バンス副大統領がパキスタンへの交渉渡航を予定していたが延期され、イラン国内の各派が矛盾する声明を出し続けている状況だ。トランプ大統領はイラン側に提案をまとめる時間を与えると発表した。
「市場は戦争がすぐ終わるという前提で概ね上昇を続けている。果たしてどうなるか」 とEismanは慎重な姿勢を見せている。
1-2. 原油高が企業業績に波及
戦争による原油価格の上昇は、すでに具体的な企業業績に影響を与えている。United Airlinesは、2026年の利益見通しを1株当たり7〜11ドルに下方修正した(従来予想は12〜14ドル)。American Airlinesも同様に2026年ガイダンスを引き下げた。
2. プライベートクレジット——Blackstoneの不穏なシグナル
2-1. BCRED(Blackstone旗艦ファンド)のパフォーマンス低迷
業界最大のプライベートクレジットファンドであるBlackstoneのBCRED(運用資産810億ドル)に関して、やや懸念を感じさせるデータが出た。
4月1日時点の新規発行による流入額は約2.3億ドルで、3月とほぼ横ばい。2025年の月平均10億ドルと比較すると大幅に減少している。3月のパフォーマンスはフラット(2月はマイナス40bps)で、特定のプライベートローンの評価損とスプレッド拡大がポートフォリオ利回りを完全に相殺した。非計上貸出(Non-accruals)は公正価値の1.4%に増加している。
2-2. Blackstone本体の決算——好悪混在
Blackstone本体は、木曜に決算を発表。分配可能利益(Distributable Earnings)は25%増の17.6億ドル(1株当たり1.36ドル)で、コンセンサスの1.34ドルを小幅に上回った。総収益も10%増の36.2億ドル、運用資産は1.3兆ドル(前年比12%増)と堅調だ。
しかし、クレジットおよび不動産ファンドのリターンが軒並み低調だった。具体的には、オポチュニスティック不動産が+90bps、コアプラス不動産が+80bps、リキッドクレジットが-1.3%、プライベートクレジットが+60bps、PEセカンダリーが+70bpsと、いずれも物足りない水準だった。Eismanは「少なくとも木曜日は投資家がこの弱いパフォーマンス指標に注目するだろう」と指摘した。
3. FICO——独占崩壊の始まり
Eismanが特に注目するニュースとして取り上げたのが、FICO(Fair Isaac)に関する動きだ。FICOは米国の消費者ローン業界の「背骨」とも言える存在で、消費者がローンを申請する際、貸し手はFICOスコアを参照してローンの可否を決定する。この独占的地位が数十年にわたって続いてきた。
しかし、先週、ファニーメイ・フレディマックの規制当局であるFHFAが、GSE(政府支援企業)が承認済みの貸し手からVantageScoreのローンを即時受け入れ開始すると発表した。FICOクラシックがGSE住宅ローンの世界で唯一の承認スコアだった時代が事実上終わることになる。
Eismanは、「FICOの強気派は価格設定グリッドがFICOに有利になると主張していたが、彼らは間違っていた」と述べた。FICO株は年初来で40%以上下落しており、Eisman自身も数カ月前からFICOをショート(空売り)していることを開示している。
4. 健康保険——ターンアラウンドの兆し
4-1. UnitedHealth Group(UNH)
数カ月にわたって、高い医療コストとOptum部門の問題に苦しんできたUNHだが、今四半期は改善の兆しを見せた。EPSは7.23ドル(予想6.57ドル)と好調なビートを記録。ただし前年同期比ではフラットだ。
ビートの主因は、医療損害率(MLR)の改善だ。UNHの伝統的な健康保険部門は「ショートテール・ビジネス」であり、比較的迅速に価格改定が可能であることが奏功した形だ。
Eismanは、「投資家はターンアラウンドストーリーを好むが、StarBucksやNikeでは期待が裏切られ続けている」と、過度な楽観には釘を刺している。
4-2. ElevanceとMolina
Elevanceは5%のEPSビートを達成したが、その要因の多くは非経常的な投資収益だった。2026年通期のコンセンサスは依然としてEPS15%減の見通しだ。
Medicaid(低所得者向け医療保険)中心のMolinaは、EPSが2.35ドル(予想1.90ドル)と堅調なビートを達成。MLRが80bps改善したことが寄与した。しかし、Medicaid加入者数は引き続き減少しており(Q1: 449.8万人→Q4: 456.8万人)、残存する加入者はより医療ニーズの高い層で構成されるため、将来のMLR悪化リスクがある。2026年のEPS予想は5ドルで、前年比54%減だ。Eismanは、「投資家は2027年のターンアラウンドに賭けているが、私はまだ確信が持てない」と述べた。
5. 産業セクター——GEとBoeingの明暗
5-1. GE Aerospace——受注+87%の衝撃
GE Aerospace(旧GE)は、商用航空向けジェットエンジンの製造が主力だ。EPSは1.86ドル(前年1.49ドル、25%成長)でビート。売上も29%増と好調だった。最も注目すべきは、総受注が230億ドルで前年比87%増という数字だ。
戦争が旅行関連企業への懸念を生んでいるが、航空会社は新型機の発注を引き揚げてはいない。
5-2. GE Vernova——AI時代の電力インフラの本命
Eismanが自身で保有を開示しているGE Vernovaは、ガスタービン、電化機器、風力タービンの3事業を持つ。Eismanによれば、これは最も優れたAI関連ストーリーの一つだ。
2020年以前、米国の電力生産はほぼ横ばいだった。しかし、再工業化とAIデータセンターの建設により、現在は年率約3%で成長している。Eismanは「巨大な米国の電力ベースに対する3%は、信じてほしいが、途方もなく大きな数字」と強調した。
そして、ガスタービンを製造できるのは世界でGE Vernova、Siemens、三菱の3社のみだ。これがGEVの投資テーマの核心である。
決算は、EPSが3.30ドル(前年1.78ドル、85%成長)でビート。受注は183億ドルで前年比71%増。ガイダンスも引き上げた。
唯一の懸念は、2026年のPERが約80倍という高いバリュエーションだ。ただし、受注から売上計上までガスタービンは数年かかるロングテール・ビジネスであり、受注の強さを踏まえた2028年のPERは36倍と、より合理的な水準になるとEismanは指摘している。
5-3. Boeing——回復基調
長年問題を抱えてきたBoeingだが、方向性は改善しつつある。EPSは1株当たり20セントの損失(前年は49セントの損失)。キャッシュアウトフローは予想を下回る14.5億ドルにとどまり、商用機の引き渡しは143機で2019年以来最多だった。
5-4. Tesla——「2つの別会社」
Eismanは、テスラを「おかしな株」と表現した。EPSは41セント(予想34セント、前年27セント)でビートしたが、売上は予想を下回った。
「空売り筋は自動車事業の不振を指摘し、強気派は自動運転とロボットの将来を見ている。まるで全く別の会社について話しているようだ」 とEismanは述べた。2026年のPERは200倍超。決算後、Muskが今年の自動運転・ロボット向けCAPEXを250億ドル超に引き上げると発表し、株価は時間外で数%下落した。
6. ソフトウェア——脆い回復ナラティブ
6-1. ServiceNow——22%増収でも株価-13%
ソフトウェアセクターの回復に冷水を浴びせたのがServiceNowの決算だ。EPSは97セント(20%成長)でビート、売上は37.7億ドル(予想37.4億ドル)で22%成長と、数字自体は好調だった。
しかし、決算説明会でサブスクリプション収益について「中東の紛争による大型オンプレミス案件の遅延で約75bpsの逆風があった」と開示。通常なら22%の増収があればこの程度の遅延は問題にならないが、ソフトウェアの回復ナラティブが極めて脆弱な現在、「ソフトウェアに"まあいいか"は存在しない」とEismanは指摘した。株価は水曜の時間外で13%下落した。
6-2. IBM——インラインでは足りない
IBMもEPS1.91ドル、売上159億ドルと予想を上回ったが、ソフトウェア売上70.5億ドル(11%増)は予想通りにとどまった。「このご時世、インラインでは投資家は満足しない」とEismanは述べ、IBMも時間外で7%下落した。
6-3. Eismanの警告
「ServiceNowとIBMへの反応は、ポジティブなソフトウェアのナラティブを構築することがいかに危ういかを示している。底値拾いを考えている人には、非常に慎重に進めることを勧める」
7. 住宅建設——金利の壁、だが最悪は回避
7-1. セクター全体の環境
年初には10年債利回りが4%を下回り、住宅建設セクターに希望が生まれた。しかし、戦争に伴うインフレ圧力で10年債利回りは、最大4.4%まで上昇し、重要な春の販売シーズンに打撃を与えた。
7-2. 各社の決算
DR Horton(DHI): EPSは2.24ドル(前年2.58ドル、13%減)で予想通り。引き渡しは若干ガイダンスを下回ったが、粗利益率が補った。2026年通期ガイダンス(前年比約10%減)を維持。
Meritage Homes: EPSは82セント(前年比51%減)と厳しいが、受注は前年比わずか5%減にとどまった。フリーキャッシュフローは予想以上に好調で、有形簿価を下回る株価水準を活かし、発行済株式の3%を自社株買いした。Eismanは1月にMeritageを推奨しており、「有形簿価75ドルを下回る株価は依然として魅力的」としている。
PulteGroup(PHM): EPSは1.79ドル(前年比30%減)だが、受注は前年比3%増と、セクター内では相対的に健闘した。
8. 視聴者Q&A——政府債務危機と、AI時代のソフトウェアの未来
8-1. 「米国の政府債務危機は来るのか?」
元財務長官ハンク・ポールソンが「国債市場の崩壊に備えた計画が必要」と警告したことについて、Eismanは冷静な見解を示した。
まず、ポールソンの予測能力について、2007年8月1日に「サブプライム問題の市場への影響は概ね封じ込められている」と発言したことを引き合いに出した。
その上で、2つの論点を提示した。
① 日本の先例: 日本の債務対GDP比率は、240%で、米国の125%のほぼ2倍だが、債券市場は十分に機能している。
② 代替手段の不在: グローバル金融システムは米国債で機能している。銀行間の翌日物レポ市場は短期国債のみを使用し、大口機関が資金を置く場合も長期国債を購入する。「国債に代わる大規模で流動性のある代替手段が登場するまで、私は赤字をそれほど心配しない」 とEismanは述べた。
8-2. 「AI時代にソフトウェア企業は生き残れるか?」
元Googleプロダクトマネージャーのリスナーからの分析をEismanが紹介し、コメントを加えた。主な論点は以下の通り:
B2Cソフトウェア: AI開発の低コスト化により「1人ビジネス」が増えるが、上場企業規模にはスケールしにくい。ユーザー獲得がボトルネックとなり、メガキャップが最も恩恵を受ける
B2Bソフトウェアの内製化: 過大評価されている。構築は容易でも保守(脆弱性対応、規制対応、ユーザーサポート)は困難。CIOがコア業務システムをバイブコーディングで構築するリスクは取らない
競争環境: 開発コストの低下は新規参入者だけでなく既存企業にも恩恵。最大のコストはR&Dではなく、営業・マーケティングであり、AIコーディングはこのコストを削減しない
エージェント型AI: 評価・チューニング・テストが困難で、出力が非決定的(同じ入力で異なる結果)。金融システムなど重要なワークフローでの利用は限定的
Eismanの結論は明確だ。「大手は生き残る。しかし、シート数の成長は鈍化し、何十年も享受してきた値上げはずっと難しくなる。ソフトウェアの長期強気論——シート増×価格上昇——の多くは消えるか、疑問視される」
SBC(株式報酬)については、リスナーと見解が分かれた。Eismanは、「株式で人に報酬を支払い、その費用を利益報告時に計上しないという考えは、私にはばかげている。どの企業もSBCを税控除している——つまり実質的な費用として扱っている」と主張した。

