今週の注目ニュース:イラン核合意、SpaceX、住宅建設株とプライベートクレジット市場
AI業界を取り巻く環境は、ここ数カ月で大きく変化しています。今週は、トランプ大統領によるイラン核合意の発表で市場が急騰した一方、Anthropicが米政府から事実上のアクセス制限を受けるという大きなニュースが飛び込んできました。さらに、SpaceXの上場、FoxによるRoku買収、Fiserveの経営混乱など、市場を動かす出来事が相次いでいます。
特に注目すべきは、AI業界に対する強気論と弱気論の対立が、ここ数カ月で一段と鮮明になってきている点です。資本支出の急増、競争優位性の欠如、価格競争の兆し、電力制約といった懸念材料が次々と浮上しており、投資家としてはこれまで以上に冷静な視点が求められる局面に入っています。
本稿では、今週起きた主要な出来事を整理しながら、AI業界の現状と今後の論点について解説していきます。
1. イラン核合意とその実像
6月15日、トランプ大統領はイランとの間で合意に達し、金曜日に署名されると発表しました。これを受けて先物は急騰し、月曜の市場は強いラリーを見せ、原油価格は5%下落、米10年債利回りも4.5%を割り込みました。
しかし、この合意は条約でも平和協定でもなく、今後60日間で広範な合意の条件を協議するための覚書(MOU)にすぎません。ウラン核燃料の保有問題など難しい論点はすべて今後の交渉に委ねられています。唯一の具体的な成果とされるのが、60日間ホルムズ海峡が開放されるという点です。
同じ週、ケビン・ウォルシュ氏が初めて主宰したFOMC会合では、金利は変更されず、利下げは行わないことが明示されました。一方で、利上げの可能性が示唆され、市場はこれを好感しませんでした。
2. SpaceX上場、初値から急伸
先週金曜日、SpaceXが新規上場を果たしました。初日の上昇率は19%とそれほど驚くものではありませんでしたが、月曜にさらに20%、火曜には5%上昇し、市場価値は2.5兆ドルに達しました。これは過去12カ月の売上高の100倍超という評価です。秋にはAnthropicやOpenAIのIPOも予定されているとされています。
3. 住宅建設株とプライベートクレジット市場の動き
住宅建設株は、バークシャー・ハサウェイによるM&Aと10年債利回りの低下を背景に上昇しています。例として取り上げられたメリテージ(Meritage)は、1月の60ドル台から戦争と金利上昇で62ドルまで下落した後、現在74ドルまで回復し、有形簿価の1.0倍で取引されています。最近のM&A取引は1.25〜1.3倍の水準で行われており、なお割安感があるとの見方です。
プライベートクレジット市場では、ブラックロックがHPSコーポレート・レンディング・ファンドからの解約申請を5%に制限しました。投資家側は13%の解約を希望していましたが、これは第1四半期の9.3%を上回る水準です。
4. Anthropicが直面した「政府による事実上のシャットダウン」
最も注目すべき出来事は、Anthropicに関する週末のニュースです。米政府は輸出規制指令を出し、Anthropicの最新かつ最も高度なモデルである「Fable 5」と「Mythos 5」へのアクセスを、外国籍ユーザーだけでなくAnthropicの従業員も含めて事実上停止しました。
背景として、これらのモデルにはハッキングなどの悪用を防ぐための安全制限が組み込まれていますが、それを回避する「ジェイルブレイク」手法の存在が米政府に伝わったとされています。情報源についてはAmazon側からの通報があったとの見方が紹介されており、OpenAIへの出資関係が背景にあるのではないかとも指摘されています。
これまでトランプ政権はAI分野に対して規制を緩やかにする姿勢を取ってきましたが、今回の対応は非常に強硬であり、Anthropicの今後の事業展開にとって打撃になる可能性があります。商務長官による発表は唐突だったとも評されています。
5. AIをめぐる強気・弱気論の整理
AI業界全体については、強気材料と弱気材料の両方が存在します。
強気材料として、AI関連の資本支出(capex)が弱まる兆しはなく、むしろ拡大しています。Nvidiaの2026年第1四半期の売上成長率は、前年比85%と、数四半期前の65%から加速しています。
一方で、弱気材料としていくつかの論点が指摘されています。
5-1. 資本集約度の急上昇
Googleは、2026年に180億〜190億ドル規模のAI資本支出を計画しており、これは自己のキャッシュフローだけでは負担しきれない水準です。同社が増資を行うのは2005年以来初めてで、規模は当初の80億ドルから85億ドルに上方修正されました。MetaやMicrosoftも類似の資金調達を検討しているとされ、Oracleも資金調達計画を200億ドル増額しています。これまで非資本集約型のソフトウェア企業であったはずの大手テック企業が、急速に資本集約型のハードウェア企業へと変質しているという指摘です。
5-2. 競争優位(モート)の欠如
昨年、ハイパースケーラー各社のAI資本支出は合計4,000億ドルでしたが、今年はほぼ1兆ドルに達する見通しです。それにもかかわらず、GeminiやAnthropic、OpenAIの優劣は週単位で入れ替わっており、明確な差別化が生まれていないという指摘があります。
5-3. 価格競争の兆し
OpenAIがトークン課金の引き下げを検討しているとの報道もあり、巨額投資にもかかわらず価格競争が始まっている点が懸念材料とされています。
5-4. トークン課金への移行と反発
これまでサブスクリプション型だった料金体系から、今年に入り、AnthropicやOpenAIはトークン使用量に基づく課金へ移行しました。Microsoftも6月1日からGitHub Copilotで同様の方式に切り替えています。Uberは年間AI予算をわずか4カ月で使い切ったとされ、利用者の間でコスト意識が高まりつつあるとの見方が示されています。
5-5. 投資対効果(ROI)と電力制約
巨額投資に対するROIの明確な証左はまだ乏しく、また、データセンターの電力・水資源需要の増大に対する地域社会の反発も見られます。データセンター建設の進捗は、強気派が期待するペースよりも遅いとの印象が語られています。
これらを踏まえると、ハイパースケーラー自体への投資よりも、電力関連、半導体、AristaやCiscoのようなテック機器企業への投資により注目すべきとの考え方が示されています。航空会社とその部品供給企業(例:TransDigm)との対比が引用され、ハイパースケーラーが「航空会社化」し、その供給企業が「TransDigm化」する可能性があるという見立てです。
6. Fiserveの経営混乱とFox・Rokuの大型買収
決済企業Fiserveでは、就任からまだ1年に満たない新CEOマイク・ライオンズ氏が、Truist銀行のCEOに転出することが発表され、株価は11%急落しました。決済業界は競争が激しく、確固たる優位性を持つのはVisaとMastercardのみとの見方が示されています。
一方、Foxはストリーミング企業Rokuを220億ドルで買収すると発表しましたが、市場の反応は冷ややかで、Foxの株価は15%下落しました。理由は、Foxの2026年予想PERが10倍であるのに対し、Rokuの買収評価は2026年PERで57倍に達するためです。
7. 視聴者からの質問への回答
インフレ・リセッションへの備えについては、債券・現金・ユーティリティ株のいずれも有効な避難先とは言い難く、伝統的なエネルギーやヘルスケアセクターへの注目が示されています。ストリーミングサービスの「依存性」をめぐる訴訟リスクについては、SNS企業のアルゴリズムを巡る訴訟と異なる構造であるとの整理がなされています。欧州株式への投資については、テクノロジー比率の低さ(欧州指数で18%、米国S&P500で38%超)を理由に慎重な見方が示されています。

