【閑古鳥雑貨店のプク】宙に浮かせる収納に驚く店主と看板猫|Yamazaki マグネットディスペンサー MIST
昼下がりの店内で、氷がカランと鳴りました。
プクはテーブルの下で寝たふりをしながら、片耳だけ動かしています。
そんな午後に届いたのは、“宙に浮く”という不思議な話でした。

まだ夏の背中を引きずる風が、
ガラス戸の隙間から、そろりと入り込んでくる。
レジ下のテーブルでは、プクが仰向けになって、
ぽてんとお腹を天井に向けていた。
前足がちょっとだけ曲がっていて、
その脱力っぷりは、もはや芸術的で。

「いいなあ、プクは。寝ててもかわいくて」
そうぼそりとこぼしたら、
プクがうっすら片目を開けて、
「それが何か?」とでも言いたげに、また閉じた。
私も負けじと、冷蔵庫の製氷皿から氷を出して、
アイスコーヒーをつくる。
カラン、と。
店の扉が、ひさしぶりにやさしい音を立てた。

「こんにちは」
「こんにちは、お久しぶりです」
ふんわりと笑っているのは、
以前、お風呂の床ブラシを買ってくださったお客様。
ゆっくりと、棚を眺めておられる。
「この前のブラシ、よかったですよ。
なんだか、掃除がちょっとだけ楽しくなりました」
“楽しくなる”って、魔法のことばだ。
売れたことより、たぶん、うれしい。
「そういえば、見てほしくて」
そう言って、お客様がバッグから取り出したのは、
すらりと白い、なんとも不思議な形のボトル。

「これ、最近うちで使い始めたんです」
「……なんですか?」
「シャンプーのボトル。
マグネットで壁にくっつくやつで、底が浮くんです」

「う、浮く……」
私は一瞬、耳を疑ってしまった。
だって、あのぬめぬめから解放されるってことでしょう?
まるで、夢のような話だ。
「ぬめらないし、残りも溜まりやすくて。
詰め替えの袋、まるごと入るんですよ」
「えっ、袋のまま……!?」

なんだか、目からうろこがポロリと落ちた気分です。
詰めかえが面倒で放置してた私に、やっと味方ができたような。
これぞ「家事の工夫」です。
お客様をお見送りしたあと、
私はゆっくりレジに戻って、プクのいる方をのぞきこむ。
さっきと同じ姿勢で、まだ寝ている……と思ったら、
もぞもぞと、ゆっくり寝返り。
「それさあ、私も買っていいと思う?」
プクは、片耳だけ動かした。
“好きにしたら?”の合図かもしれない。
そういえば、
今朝、お風呂掃除をしたときも、
あのぬめぬめの下に、ちょっと泣きそうになったのだった。
今度、あの白い筒を迎え入れたら、
私の暮らしも、少し“浮かれる”かもしれない。

午後の店内は、またすぐに元の静けさ。
窓辺の葉っぱだけが、カサリと揺れている。
ランチ後の珈琲はすっかりぬるくなって、
プクは熟睡モード。
私の背中だけが、なぜかしゃんとしていた。
磁石で宙に浮く、底がぬめらないオシャレなボトル。
ボトルが浮いたのに、売上は今日も沈んだまま。
でもまあ、心がちょっと浮いたから、
良しとしましょう。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
窓を少し開けると、風が秋の匂いを運んできました。
そろそろ涼しくなるのでしょうか――プクがくしゃみをしました。
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