物語のような日常エッセイ#5 [もしも、iPhoneがしゃべったら]── 24時間365日、不眠不休で寄り添うブラック労働者
「あの……あなた、“労働基準法”って言葉、知っていますか?」
ある日、手の中のiPhoneが、どこか冷ややかな声でそう問いかけてくる気がした。
私は少しだけ戸惑って、画面を見つめながら心の中で聞き返す。
「えっ、急にどういうこと?」
私は仕事に行けば、基本的には8時間労働だ。
お昼になればランチ休憩もあるし、週に何日かは休日だってちゃんとある。
でも、iPhoneはどうにも納得がいかないご様子だ。
「私には、休憩もなければ、有給休暇もありません。
もちろん、週末の休みだって一度ももらったことはないですよ?」
静かだけれど、ずっしりと重みのあるトーン。
言われてみればなるほど、と私は深く反省してしまう。たしかに彼女の言う通りかもしれない。
日々の細々とした連絡のために。
ちょっとした調べ物のために。
お気に入りの動画や、夜のドラマ配信を流すために。
彼女は文字通り、一瞬たりとも休むことなく働き続けている。
朝、目覚まし時計として私を起こす瞬間から、夜、眠りにつく直前まで。
気づけばいつも私の手の中にいて、何かしらの役目を健気に果たしてくれているのだ。
「私、充電器に繋がれているときすら、
バックグラウンドでアップデートとかさせられてるんですけど。
……完全にブラック労働ですよね?」
淡々とした、けれど鋭い主張が胸に刺さる。
私はなんだか、ものすごく申し訳ない気持ちになってくる。
でも。申し訳ないとは思いつつも、同時にこうも思ってしまうのだ。
──やっぱり、あなたが一日でもいなくなったら、私は生活が立ち行かなくなる。
「ねぇ、そこをなんとか……これからも不眠不休で、私の相棒をお願いできますか?」
思わず、画面に向かって手を合わせて拝んでしまう。
これは、青くて熱い「未成年の主張」なんかではない。
日々を必死に生きる、50代の切実な主張だ。
ねえ、聞いてくれますか?
……しーん。
返事はない。
呆れ果てて言葉を失ったのか。それとも、もう諦めの境地に達したのか。
画面はいつも通り、ツヤツヤとした無表情のまま、静かにそこにある。
通知のライトが、一瞬だけ優しく明滅した。
でも、私は知っている。
彼女がどれだけ文句を言いつつも、私がタップすれば、次の瞬間にはまた完璧な仕事をしてくれることを。
「ごめんね。でも、これからも本当によろしくね」
心からの感謝を込めて、私はまた愛おしい相棒を優しく握りしめる。
心地よくて、ちょっとうるさい我が家。
今夜も働き者の相棒と一緒に、私はゆっくりと夜の時間を過ごしていく。
今までのお話#1〜#4を下にリンク貼ってあります是非覗いてみてください✨👍
#1〜#4までリンク載せておきます🔗是非、お読みください♪
#1もしも、ソファがしゃべったら
#2もしも、電子レンジがしゃべったら
#3もしも、冷蔵庫がしゃべったら
#4もしも、洗濯機がしゃべったら
この家の中で、静かに、でも愛おしくおしゃべりをしているモノたちの物語を、ひとつのマガジンに全部まとめてあります。
家事の合間に、あるいは夜眠る前のひとときに。
いつでもこの扉を叩いて、彼らに会いにきてくださいね。
