エウレカ 私は見つけた 第1話
あらすじ
ギリシャのサントリーニ島に住む画家のロドリゴは、5年前までロバタクシーの仕事をしていた。しかし、彼はロバも自分も歳をとってきたので、将来に不安を抱えていた。
そんなある日、ふとした出来事をきっかけに彼は悲しさとやるせない気持ちが抑えられなくなり、身近な人に八つ当たりをしてしまう。そういう自分に嫌気がさして、思わず口走った言葉は「ここでは違うどこか別のところへ」
そして目覚めると、彼の願い通り見も知らない土地にいた。そこで出会った人々や静かな環境によって、彼は島の暮らしがとても幸せだったことに気づく。だが、そこにもどる方法がわからないのだ。
1 カナダからの便り
「ロドリゴさん、変わりない?久しぶり。今日タクシー組合にあなた宛の葉書がカナダから届いたので、渡しに来たよ」
相変わらずアントニスは、快活で気取りがない男だ。庭をずんずん横切り、花壇に面したロドリゴのアトリエの窓から、ひょっこり顔をのぞかせた。
「俺に手紙なんて、一体誰からだろう」ロドリゴはしばらく考えたが、カナダに知り合いもいないので、全く思いつかなかった。
「カナダからだと英語だろう。もらったって、俺には意味がわからない。これは困ったなぁ。誰かに頼まないといけない」
すると、アントニスは、絵はがきをふりふり、まるでロドリゴの戸惑いを見透かしたように
「大丈夫。これギリシャ語で書いてあるから、今は翻訳できるものがいっぱいあるので、それを使ったのだと思う。ロドリゴさんの返事も、ぼくが代わりに英語にするから安心して。それじゃ、はい」
渡された葉書には、紅葉の美しい山々の写真が使われていた。サントリーニ島とは全く違う、赤の世界だ。
「親愛なるロドリゴ様、私たち夫婦をスケッチしていただいたときのお名前を頼りに、ロバタクシー組合の住所にお便りをしました。あなたのお手元に届きますようにと、願いを込めて書いています。妻はあなたの言葉通り、元気を取り戻しました。来年の春、もう一度サントリーニ島を訪ねたいと計画しています。 その折に、あなたとお会いできると嬉しいのですが…
お返事お待ちしてます」
あの時の奥さん、元気になられたんだなぁ。それはほんとによかった…。
ということは、あの時俺が思わず口にした願いが、現実になったということになる。
俺も5年前、あの2人と出会ったとき、今のような心穏やかな生活を送るようになるとは、全く想像できなかった。これまで一度も絵の手ほどきを受けたことのないその絵が「誰にも真似できない独特な表現」と評価されるようになるとは…。
アントニスが今、描きかけの絵に目を留めて
「大きい絵だなぁ。海はフィラから見る光景だけど、白く大きな鳥の羽根が、
透きとおっていて、とても美しい。何とも言えない不思議で繊細な絵だ」
ロドリゴはロサンゼルスのレストランから受注を受けて、この絵を今、描いている。まさしくこのモチーフは、ロドリゴがこの手紙のご夫婦と会ったときの心象風景を表現したものだった。だから、ちょうど絵を描いているときに連絡をもらったことが、彼にとっては単なる偶然だとは思えなかった。
