【世代論】世界は6枚重ねのパンケーキ。

人は誰もどこかのパンケーキ世界のなかに住んでいて、他のパンケーキの世界にはなかなか想像が及ばない。


駅そばの移動パン屋のエプロンが似合う清楚で快活な若い女店員は、訊けば(意外にも!)日本のギャングスタ・ラップが大好きで、千葉雄喜の大ファンだった。ぼくは彼女に千葉雄喜を教えられた。他方、ぼくは若かった頃はロックに傾倒し、シド・バレットとブライアン・イーノがぼくの神だったけれど、最近はもっぱらジャズ・ファンで聴いている音楽の大半はジャズだ。したがってヒップ・ホップには門外漢で、せいぜいRUN DMCがエアロスミスと共演したことを懐かしくおもいだし、またカニエ・ウェストの波乱万丈な人生と高い音楽性に惚れこんだ時期もあるものの、しかし近年ではせいぜいブルーノ・マーズが好きというていどだ。しょせんぼくにとってヒップ・ホップは「噂の隣町」にすぎない。すなわち、ぼくと彼女のあいだには、世代という名の深くて暗い河が流れている。しかもむかしは世代を二十年単位としてとらえる人が多かったけれど、しかしいまはとてもじゃないけどそんな悠長なことは言っていられない、十年まえが大昔である。



しかし、見方を変えるならば、もしも千葉雄喜ファンの彼女が20年まえの若い女の子だったならば椎名林檎に、半世紀まえの若い女の子だったならセックス・ピストルズにぞっこん夢中だったろう。すなわち、6枚重ねのパンケーキ世界は6つの平行世界でもあるのだ。



余談ながら、いまの若い女たちのなかに千葉雄喜さんのチーム・トモダチは多そうだ。むかしもいまも女たちは悪そうな男が好きな人が多い。『宝塚』の男装の麗人なんて、必ず悪い男だもの。ぼくは彼女たちを広末涼子の一族と呼ぶ。(女たちが自由を激しく希求するとき、ともすれば悪に傾斜してゆきがちなのはなぜだろう?)なお、ほく自身は千葉雄喜さんのセンスあふれるワードのセンスに惚れるけど、でもカツアゲされそうでおっかない。もっとも、おっかないのはカニエ・ウェストとて同様だけれど。そしてまた考えてみれば、ぼくにとってJ-POP界のスターは椎名林檎さんが最後なのだった。



ぼくはきょうスーパーマーケットで(レジの列を譲り合ったことをきっかけに)ある高齢女性と立ち話しをした。「小花模様のブラウスが素敵ですね。『an an』創刊当時をおもいだしますよ。」彼女は微笑んで言った、「そう、あたし結婚式もミニスカであげたんだから。」やはり(おもったとおり)50余年まえの彼女はミニスカ&カラー・タイツを穿いたイケイケのガールだったのだ。ぼくはこの手の高齢女性に嗅覚が働き、立ち話でつかのまたのしむことがよくある。西葛西のお直し屋兼古着屋の古着担当の高齢女性なんて凄いんだから。彼女にとって西葛西の表通りはラン・ウェイである。(いつか彼女の話も書いてみたい。)彼女たちは弘田三枝子、加賀まり子、安井かずみの同世代なのである。目の前の高齢女性の姿に、若い頃の彼女の姿が二重映しになる。



この世界、6枚重ねのパンケーキ構造を横から見れば、量子力学的タイム・マシーンみたいに見える。また、どのパンケーキ世界にも、いくらか自分に似た人が生きている。



梅子です。
あたしも老人少女って
呼ばれています。
梅子はおじいちゃんにも
おばあちゃんにも
好きな人がいます。




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