【写真】現代童話『恩送りのダイナー』の世界を写真で歩く〜No.1〜元町から本牧へ①〜
以前書いた現代童話に、『恩送りのダイナー』という物語がある。
人の流れが変わってしまった旧道沿いに、ぽつんと明かりを灯す店。店の名は、Dolphin Café。店主は、水族館を引退したイルカのイルティだ。
その店は、実在しない。
けれど街を歩いていると、ときどき「ここにあってもおかしくない」と思う場所に出会う。
今回は、元町から山手を抜け、本牧へ向かった。
ガラスに映る街の向こうに、Dolphin Caféの入口を探しながら。

入口は、少しだけ分かりにくい

坂の上から、街へ降りていく。
元町の明るい通りから少し外れると、景色の温度が変わった。観光地として整えられた横浜ではなく、誰かの生活の横を、そっと歩かせてもらっているような道になる。
石のアーチをくぐる

古い石のアーチがあった。
その向こうに特別な場所があるわけではない。けれど、こういう場所に出会うと、少しだけ足取りが変わる。現実の街を歩いているはずなのに、物語のほうへ一歩入ってしまったような気がする。
誰かに電話をかけたくなる場所

電話ボックスが、静かに立っていた。
今では、ほとんど使われることのない場所かもしれない。それでも、そこにあるだけで、誰かが誰かを待っていた時間が残っているように見える。
Dolphin Caféに辿り着ける人は、きっと、こういう場所で一度立ち止まるのだと思う。
木陰の道を抜けて

道は、少しずつ静かになっていった。
光はある。けれど、表通りの明るさとは違う。木の影が地面に落ちて、建物の輪郭が少し曖昧になる。どこかへ向かっているというより、どこかに迷い込んでいくような時間だった。
まだ開いていない店先

小さな灯りのある店先に出会った。
白い壁。赤い窓枠。奥に見える、薄い明かり。そこはDolphin Caféではない。けれど、何かを待っているような気配があった。
店は、ただ商品を売る場所ではないのかもしれない。誰かが来るのを待つ場所でもある。
道の向こうにある店

本牧へ入ると、街の空気がまた変わった。
道の向こうに、古い店が並んでいた。新しい街でも、観光地でもない。暮らしのなかで少しずつ使われ、少しずつ古くなっていった場所。
Dolphin Caféがあるとしたら、こういう通りのどこかかもしれない。
昼の中で眠っている通路

シャッターの閉じた通路があった。
昼なのに、そこだけ時間が浅く眠っているようだった。人の気配は少ない。けれど、完全に終わってしまった場所にも見えない。
ただ、次に誰かが通るまで、灯りを落として待っているように見えた。
その店は、映っていた

ガラスの扉に、向かいの街が映っていた。
営業時間の文字があり、取っ手があり、向こう側には入れそうで入れない空気があった。店はそこにある。けれど、本当にそこにあるのかは分からない。
Dolphin Caféを探していたはずなのに、気づくと、探していたのは店ではなく、入口だったのかもしれない。
街へ戻る

帰り道、街はまた現実の顔に戻っていった。
看板があり、車が通り、建物の影が伸びていく。さっきまで見えていた気配は、もうどこかへ隠れてしまったようだった。
けれど、一度見つけてしまったものは、完全には消えない。
水面に残るもの

最後に、水面の反射を見た。
街の光も、橋の形も、そこでは少しだけ揺れていた。はっきりした輪郭ではなく、消えそうで消えない像として残っている。
Dolphin Caféは、実在しない。
それでも、ガラスに映る街の向こうや、水面に揺れる光のなかに、その入口を見た気がした。
現代童話『恩送りのダイナー』をNoteとTALESで公開しております。
写真とあわせて読んでいただけると、Dolphin Caféが少し違って見えるかもしれません。
⭕️Noteの連載記事
⭕️TALESの連載記事
今回の撮影機材
撮影:SONY α7C / Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS
現像:ART
この写真物語を、
いつか小さなフォトブックや写真展の形にできたらと思っています。
その日へ向けて、少しずつ撮り、書き、残していきます。
では
また!
