【創作大賞2025】ROOK①【エンタメ原作部門】
″ルーク″
魔導障壁は城のように強固で
たった一人でも戦車級の火力を有し
皆を誘導しうる灯台ともなる
我らの呼称、我らが兵科――精霊魔導兵
精霊に愛されし少年少女
穢れなきその身に精霊らは気まぐれに自身の力を加護として与え給ふ
その奇跡の力の偉大なること……
魔導大国アラド帝国においてルークとは戦争の要、主戦力。
機械工業国月白皇国においてルークとは神聖なる、神の御使い。
両国はその価値観の相違から開戦する。
数多の血肉の上に帝国は負けを認め、和平が結ばれた。
一時の平和、しかして他国はこの時を待っていた。
疲弊した皇国を狙うエルマーニュ共和国
月白皇国は防戦のため昨日の敵に助けを求め、アラド帝国は一人の少女を派遣した。
<アラド帝国・ハーピー分隊ミコゼ視点>
大敗
きっとこれでうちの国も負けを認めて下るんだろう。
でもそれは、今ここで最後の戦をしている私達の未来で行われる交渉のもと、私達の血肉の上で結ばれる和平。
せめてこの雛鳥たちだけでもその未来に残してやりたい
ただそれだけ
『広域パルス高魔力波ヒット。6時方向――ネームド!白狐隊です!!』
「ただでは逃してくれないか。規定どおりハーピー01から遅滞戦闘に入る。ハーピー02に指揮権継承」
『隊長殿、相手は白狐隊です!我々も残ります!』
「命令だ。貴官らはこの後の未来を生きる義務がある……雛鳥たちを頼むぞレオ」
『くっ――指揮権継承いたします。指揮権を継承したレオンハルト准尉だ!これよりハーピー分隊は全力で戦線を離脱する!』
それでいい
どうせこのままノコノコお国に戻ったところで私は――
あぁ、神よ
願わくば、我が子らをどうかお守りください
***
<月白皇国・秋津方面軍視点>
「熱源反応あり!12時方向……魔力反応確認できず――いや、精霊反応あり!!照合ハヤブサ!」
「ハヤブサだとっ……単騎か!?」
「ほか反応全て確認できず。単騎です!」
「帝国め、神風でも起こすつもりか……クソっ」
ハヤブサという単語に誰も彼もが反応する。
それだけ我が国には名の知れた敵のルーク
多数の計器によって割り出される帝国のネームドは、たった一人でこの戦域に現れた。
「羽張大佐、自分が上で止めてきます」
「なっ……何言うてんねん!相手はハヤブサやぞ。分かってんのか!」
俺は直属の上官、羽張に上伸した。
これで終わるだろう戦。最後の最後にハヤブサが何してくるか予想もつかん。ハヤブサ1基で戦況がひっくり返ることはないとわかり切っている。それでも奴のハラスメントがうちにどれだけの被害を出すのか分かったもんやない。
「でもこのまま制空取られたら何されるかわかりません。ようやっと終わるのに、終わるはずなのに――アレに煮え湯を飲まされんのはもううんざりです」
「……魔導防御壁は――」
「常時展開し続けます」
「はあ……わかっとるようやな。真白、生き残ることだけを考えろ。深追いは絶対するな」
「心得てます」
俺をまっすぐ見る羽張の目には迷いがある。
それもそうや。俺ら皇国のルークは未だ出撃経験がない。大事に守られ、後方で支援するのみに留まっていた。
「五百蔵中尉」
「はい」
「広域防御陣を展開せぇ。黒鉄と合同や」
「はっ」
***
<アラド帝国・ミコゼ視点>
出てくるか
しかも上がってくるのか
皇国の道徳観は戦争をしているとは思えないほど素晴らしい。
これほどの力
精霊の加護、使わないなどありえない。
子供だろうが、何だろうが、使えるものは使い潰す。
それが我が国アラド帝国。
しかして皇国はそれを忌み嫌う。
精霊に愛されるのは決まって子供。
精霊憑きを使うということは少年兵を認めるということ。
そんなこと、あってはならない――我が子に武器を持たせぬため、罪なき子の未来を守るため。
今、我々は戦争をしているのだと。
皇国の大人はそれはそれは立派なものだ。
私とて我が子に武器など持たせたくない。
もう二度と血と硝煙の匂いを嗅がせたくなどない。
生きるため、殺すための知識なんかじゃなく
演習じゃなく、平穏な日常
学び、遊び、笑いあい
それが許される子供の権利
どうか神様
私の部下をお守りください。
戦争の終わった世界で、彼らに子供の権利をお与えください。
そのためなら私のこの命、惜しくはない。
私が足止めしなければならないほど我らに強く存在を刻んだ白狐隊。
あの皇国が前線に投入するのだから成人しているものだと考えてきた。
通常大人になるにつれて剥がれる精霊の加護を、皇国はどうにかして延長させる術を持っているのだろうと
そう、帝国は試算していた
だが蓋を開けてみれば皇国も帝国も同じ穴のムジナだったわけだ
「エンゲージ!!――推定ホワイトフォックス……子供っ!?」
『会敵!ハヤブサを認』
あの皇国が戦闘に出しても良いと判断したルーク
当然のように無翼飛行
遠くからでも、精密探知せずとも感じる莫大な魔力
追撃されないように嫌がらせ爆撃をするつもりだったがどうやらお見通しのようだった。向こうの指揮官は陣地への損害を許すつもりがないらしい。
私を寄せ付けないように放たれる光の矢
押し込もうと思わなければ躱すことは造作もない。
しかしだ
皇国が出撃を許可するだけあって、白狐の少年は術式で飛翔しながら防御シールドを全方位常時展開した上で攻撃してくる。
精霊を憑依させることしかできない私などとは大違い
きっとこのライフル弾も簡単に防ぐのだろう。
この子を私は落とすべきなのか。
敵軍の陣地を見るに撤退する我が軍への追撃は積極的ではない。
我が軍のHQが認る反応を報告しただけ。
ただの精霊とは思えぬほどの高魔力ゆえ、広域パルスに引っかかった。ただそれだけの可能性すらある。
私が遅滞戦闘としてわざわざ踵を返さなければ彼も上がってくることはなかった。その可能性や否や――
これで終わるはずの戦争
あまり恨みを増やすのは得策ではない。
それも皇国が忌み嫌う少年兵制度に抵触するようなことなど
――きっと何世代にもわたって恨み憎しまれるのだろう。
***
<月白皇国・秋津方面軍視点>
「なんや……なんでなんにもしてこんのやハヤブサ」
「広域防御陣第一画、準備完了しました」
「一時待機。ハヤブサの様子がおかしい」
「りょーかいです」
「真白、聞こえるか」
『通信感度良好。聞こえます』
「ハヤブサがなんにもしてこんのが気にかかる。お前から見てどう思う?」
『弾幕躱しながら、しきりにこっちの陣地確認してるようです。威力偵察なんか、俺は相手にされてない』
「そのままでええ。警戒は解くなよ……この期に及んで偵察やと?なんのためや……いや待て!アレの分隊はどこ行った!?」
『近くにおるような感じではないです。魔力探知外れるのはハヤブサのみだったはず』
「広域パルス三連!」
「広域パルス展開。1stショット、2ndショット、3rdショット共に敵影なし」
「敵影なし!?どないなっとる……五百蔵、黒鉄!広域防御陣に拡張探知術式組み込め。最大画数まで展開準備」
「了解」
「第一画展開」
「第一画展開!」
***
<アラド帝国・ミコゼ視点>
私を陣地へ近づけないよう光の弾幕を張る狐の子は子供のくせにひどく冷静である。
自分の役割を正確に理解している。
厄介なことこの上ない
私を近づかせない、それは自分への接近も許さないということ
ライフル弾を除けば近接攻撃しか持ち得ない私がこれを落とすには弾幕をかい潜る必要がある
突如として敵陣地の地面に魔力光が走った。
緻密な式に沿って走るその光が何であるかなど、ルークであれば誰でも知っている。
「防御陣?勝ってるくせになんで今更……いや、まさか!」
防御陣には種類がある。
物理型と特殊型
銃弾など物理的に弾く必要のある場合には、物質を通さない物理シールド
術式や火炎を防ぐ場合にはエネルギーシールドを選択する。
私のような魔力探知にすらかからない微弱な存在に対してエネルギーシールドを選択するとは思えない。
物理シールド一択
我が国が白狐隊を白狐隊と識別する最たる理由は、莫大な広さの防御陣を自在に展開し、そして長期間維持し続けるその魔力量の多さ。
砲兵支援、絨毯爆撃はもちろん、ルークによる術式攻撃も難なく耐え忍ぶ。
熱線も光線も真空波も何一つ通さない。
強固な護り
それの展開は眼前の少年を介さず行っている。
神に至りかかっているのではと思うほどの魔力を持つ狐憑き。
お前じゃないならあと何人皇国はルークを抱えている?
展開された防御陣に近づきスモークグレネードで確認。
煙を媒介にして煙羅煙羅を憑依召喚
煙の粒子を煙羅煙羅が操り解析をしてもらう。
それに気づいた狐の少年は私を陣から遠ざけるように光線を放ってくる。
あぁ、なんて羨ましい
これだけの術式を放ってなおガス欠しないのか。
あぁ、なんて妬ましい
この防御陣は予想通り物理型で探知術式まで組み込まれてる。
これ以上、陣を拡大させることは許さない。
我が子が未だこの地にいるのだから。
魔力探知に引っかからぬようステルスしながらの撤退は安全とは裏腹に時間がかかりすぎる。
次に陣を拡大されれば撤退中の我が分隊が防御陣内に拘束されてしまうかもしれない。
そして当然友軍識別されていない我らは組み込まれた探知術式で発見されるのだろう。
「やってくれる」
***
<月白皇国・真白視点>
眼前の大鷲は悠々と大空を滑るように飛び、俺の光印も難なく躱しよる。
そんで腹立たしいことに俺のことなんて眼中にない。
ハヤブサと呼称された帝国のルークは、その輝く銀翼で空を飛ぶ。俺とは違う有翼飛行。
人は有翼で飛べる形をしていない。
ルークであれば、誰もが知ってる共通認識
有翼飛行は所詮お飾りの翼なのだ。
当然有翼飛行種が無翼飛行種に勝てはしない。
その認識が覆されたのは5年も前――
ハヤブサを思わす垂直降下で飛行術式を施されたうちの無翼飛行のベテランが何人も屠られた。
ありえへん
俺が術式を付与した飛行隊が次々と落とされていく惨状を指を咥えて見ていることに耐えられなかった。
出撃前に俺の頭を撫でてくれたその大きい手が、また撫でてくれることもないのだと。ありがとうな、偉いなと言うてくれるその手を何度引き止めようと思うたことか。
猫がネズミで遊ぶよう狩り殺す。
蒼天の捕食者
そのよく目立つ銀翼でもって、うちではハヤブサと識別された帝国のルーク
当然その正体は俺と同じ子供であるはずで。
でもその強さから、きっと歳上なんだろうと思ってた。
うちの大将もその認識やったし。
一朝一夕で身につく飛行術でないことは、自分で飛ぶようになってから嫌というほど理解した。
だからこそ、この驚異は長く続かない。
ハヤブサのいる空では制空権を諦めて
加護が剥がれるのを待つことにしたのだ。
一年、二年とハヤブサは悠々と蒼天を支配した。
忌々しくあれど、俺はハヤブサを目指した。
三年経ってもあいつはことあるごとに現れる。
俺の到達高度は6000を超えた。
四年経って、みんな首かしげ始めた。
何故未だに蒼天にのさばるのか。
そして五年目の今、俺はあいつと同じ蒼天にいる。
実際に相対して恐怖した。
こいつは今ようやくルークの適正年齢になっているように見える。待てど暮せど加護が剥がれんのも当たり前や。
撃墜しなければあと数年はのさばるだろう。
あのときのお前はいくつやったんや。
五百蔵と黒鉄が広域防御陣を展開する。
それにハヤブサは反応した。
俺のことなんか目にもくれず防御陣に翼を向けるハヤブサは何か焦っているようにも見えた。
なんの為なのかもわからんスモークグレネードの煙幕は自分を隠すためではない。
『警戒!精霊反応あり、煙羅煙羅』
「は?……ポイントは」
『ハヤブサと被ります……いや、消えた?』
「消えた?……召喚か」
何のための召喚や。
それもすぐに送還したんか?
意味のわからん行動は、しかして危険であることに変わりはせん。
防御陣から離すような軌道を引いて光印を放つ。
なんや
さっきまで散歩のようですらあったのに
顕現する狐の耳がピリピリとした何かを察知する。
防御陣から離れるハヤブサの飛び方がさっきとは変わったように見えるのは気のせいではない。
高度を上げるハヤブサは飛びながら器用に装備をパージしていく。
ゴーグル
バラクラバ
ブーツ
軍服
上を取られてるもんやから俺は落ちてくるもんを避けながら飛ばなあかん。
なんでそんなもん脱ぎ捨てんのか、理由はすぐに判明した。
今までゴーグルで見えなかった目ぇが俺を捉える。
猛禽を思わす鋭いラプターイエロー
ハヤブサに付いてる加護はハルピュイアだと言う。
その力強い銀翼は、ハルピュイアを憑依させることによる形質的特徴の具現化。
そしてハヤブサは今、空中戦に自身の身体を最適化させた。
ハルピュイアの過剰憑依
遠目からでも見える身体を覆う羽毛
凶悪な鉤爪をもった猛禽類の脚部
狩る者の姿――
――獲物は俺
さっきから感じるピリピリはいわゆる殺気というものだろう。
なんや
なんで急に殺る気になった?
防御陣の何が気に入らん?
そもそもこいつはなんで一人でここにおるん。
高度をどんどん上げていくハヤブサの飛行速度はさっきとは比べ物にならん。
必死に上を取り返そうと上昇するも、一向に追いつけん。
なんでや
なんで有翼飛行に負けんねや。
『真白!深追いするな!戻ってこい』
「羽張大佐!しかしこいつなにかしよるつもりや!」
『せやから戻ってこい言うてんねん!お前はハヤブサと違って実戦は初めてなんやぞ!』
「そんなもん――」
誰でも初陣は存在する。
このハヤブサだってそのはずや。
せやから俺だって、初陣だから引けなどと承服できん話に抗議入れようとして、目の前を通過した物体に言葉を失う。
防御陣の遥か真上に到達したハヤブサ
自身のバックパック術式からボタボタと何かを落としよる。
それは戦闘機だった翼や戦車だった代物、鉄骨、石材、着弾前に回収された砲弾――
「――警告!防御陣への物理ダメージ!砲弾認!爆撃注意!」
『なんやと!?』
『なっ……ああぁぁあ!!』
この高度から落とされる重量のある塊たち
位置エネルギー、重力、落下エネルギーありとあらゆるコストのかからんエネルギーを味方につけて防御陣に降り注ぐ。
着弾までに少しでも砕こうと光印を放つも、焦った照準は的からズレて上手く分解させられない。
無線から聞こえる黒鉄の悲鳴に背筋が凍った。
物質を通さん防御陣、落下の衝撃もさることながら、通さんということはそれらを支え続けなアカンということ。
防御陣を維持し続けるのに急激に魔力が吸われたのだろう。
そして、デカイガラクタが乗っとるうちはそれが継続する。
『真白!こっちはエエから自分の身を守れ!伊代、宵、レールガン!』
『任せとき!』
『真白さん、こっちは大丈夫です!』
「――っ待て!撃つな!燃料タンクや!」
いったいなんぼほどそのバックパックに詰め込んどんねん。
そろそろ迎撃が始まるのを見越して今、燃料落としたんやろ。
撃ってもアカン、落としてもアカン燃料タンク
ハヤブサ見習ってバックパック術式で回収すべく高度を落としたんがアカンかった。
分かってたはずや
俺が獲物であることは
俺の意識が燃料タンクに向いたのを見逃してくれるほどハヤブサは甘くはない。
ハヤブサがハヤブサたる所以
俺めがけて垂直降下してくるのに気付いたのは管制官からの警告だった。
『警戒!精霊反応あり――牛鬼!?』
「なっ……ガッ」
気付いたときにはもう目前で
咄嗟に防御壁厚くするけど加速度のついたそれは容易く俺の護りを貫いた。
ハルピュイアの翼は無くなって、群青色の鋭く硬い触手が変わりに生えとったのはどういうことや。
防御壁貫いた青い触手がそのまんま俺を貫いた。
……そう思うほどの衝撃やったけど、実際俺の胴体に風穴の一つも空いてなかった。
なんやギャーギャー無線が言うとるけど、地面に叩きつけられて意識が朦朧とする。
防御陣の中落ちたし追撃はない。
でもなんでや
殺せたはずやのになんで俺は生かされている?
最初俺見て子供や言うたハヤブサの情けなんか。
ふざけんな。お前も十分子供やろ。何が子供じゃボケナスが……!
