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それだけのことだ|鬼死骸食堂

この物語は、実在の土地・史跡を基にした
フィクションであり、神話であり、記録である。
一つの語りとしての記録である。
(鬼死骸村探検隊|実在する旧鬼死骸村を舞台にした物語)


遅い時間に、来る人間がいる。
岩手県、旧・鬼死骸村。
腹が減っていた。それだけのことだ。


遅い時間。

ケンジが、鬼死骸食堂の暖簾をくぐる。

「お、ケンジ。飲んでるのか」

「消防団の飲み会でね……」
すかさず常連の隣に座る。

娘が水を置く。
「はい、水。もう飲まないでしょ」

「あ、すいません」
ケンジ、一気に飲み干す。

「聞いてくださいよ。もう若いのいねぇんですよ」
常連たち、笑う。

「なんでもかんでも、ぜーんぶ俺ですよ」
ロレツが回ってない。
「操法大会だ、防災訓練だ、LINEも俺、書類も俺」

「ケンジ、意外と真面目だからな」

「ぜーんぜん、真面目じゃないっすよ……」
少し笑う。

でも、笑いが切れた瞬間だけ、
空気が落ちる。

後ろの常連が言う。
「まぁ、しょうがねぇな」

ケンジ、少し黙る。

「……火ぃ出たら、結局、俺ら行くしかないですしね」

娘、黙って味噌汁を置く。
「食べてから帰りな」

ケンジ、味噌汁を両手で持つ。
一口飲む。
「……うまい」
誰も聞いていない。
でも、聞こえていた。

常連二人の言い合う声。
厨房の鍋の音。
誰も見ていないテレビの野球。

ケンジ、箸を持つ。
食べながら、少し笑う。
さっきとは、少し違う笑い方。

ただ、腹が減っていた。
ただ、ここに来た。

「ごちそうさまでした」
立ち上がる。

「気をつけてな」
常連の一人が、振り向かずに言う。

「どうも」

暖簾をくぐる。
外の空気が、少し冷たかった。
酔いが、少し醒める。

明日も、たぶん俺が行く。
それだけのことだ。



この物語は、実在する岩手県一関市・旧鬼死骸村を舞台にした、
記録・神話・現代が織りなす物語の一編です。
この村には、フィクションでは作れない地形と歴史があります。
鬼死骸村の全体像は、【鬼死骸村探検隊】(ポータルページ)にて。
地図・動画・神話・怪異記録が重なっています。



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