一番遠い席|鬼死骸食堂
この物語は、実在の土地・史跡を基にした
フィクションであり、神話であり、記録である。
一つの語りとしての記録である。
(鬼死骸村探検隊|実在する旧鬼死骸村を舞台にした物語)
誰にでも、座れない席がある。
岩手県、旧・鬼死骸村。
小さな食堂に、今夜も女が来る。
スーパーは、今日も定時だった。
女が、暖簾をくぐる。
暖簾がカーディガンの肩をなぜる。
「いらっしゃい」
娘の元気な声。
いつもと変わらない。
カウンターの奥の席に座る。
小さな写真からは、一番離れた席。
いつもこの席。
写真の近くには、まだ座れない。
娘は、気がついているだろうか。
「大将、冷酒」
娘の声が鍋に響く。
定食と冷酒が、カウンターに並ぶ。
いつもと変わらない。
「おお、やってる、やってる」
いつものうるさい常連の二人。
相変わらず、声が大きい。
相変わらず、くだらない話。
でも、誰も止めない。
でも、つい耳に入ってしまう。
いつもと変わらない。
テレビの音も、鍋の音も、
常連の笑い声も、
この店では、だいたい全部重なっている。
アパートに帰れば、
聞こえるのは冷蔵庫くらいだった。
静かすぎないのが、ちょうどいい。
つい、鼻で笑ってしまう。
私には、
これくらいが、ちょうどいい。
一瞬、店の中が少しだけ狭くなった気がする。
冷酒を、もう一口飲む。
店の空気が、少しだけ柔らかい。
たぶん、お酒のせいだ。
女は、コップを置く。
立ち上がる。
写真の前を通り過ぎる。
写真の女性が、少し笑って見えた。
暖簾をくぐる。
外の風が、暖簾を揺らしていた。
たぶん、明日もここに来ると思う。
この物語は、実在する岩手県一関市・旧鬼死骸村を舞台にした、
記録・神話・現代が織りなす物語の一編です。
この村には、フィクションでは作れない地形と歴史があります。
鬼死骸村の全体像は、【鬼死骸村探検隊】(ポータルページ)にて。
地図・動画・神話・怪異記録が重なっています。
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