【あがり症|美大受験12】人生は、知力・体力・時の運。うに、最初の美大入試へ向かう|ふるえるままに、すすめ32
あがり症でHSP気質のうにが、美大受験、大学中退、そしてその後も続いていく日々の中で、変わりたくても変われない、どうしようもない自分を抱えたまま世界を泳いでいく『うに』のイラスト付き連載エッセイです。うまくいかない日も多いけど、うにはうにのまま、ふるえるままに進んでいきます。
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冬がやってきました。
十二月に入ると、冬期講習会が始まります。年末ぎりぎりまで描き続けて、年末年始のお休みは、あわせても一週間ほどしかありません。
そして、一月の第一週からは、すぐに入試直前講習会が始まります。
一月半ばには共通テストです。
そこから二月の頭には、私立美大の受験が始まります。そして三月に入ると、今度は国公立大学の受験です。
美大受験生にとって冬は最後の正念場。年が明けるころには、もう本番は、すぐ目の前まで来ているのでした。

「俺ら、二人とも、受かりますように!」
パンパン!

初詣にやってきました。
彼は、うにの親戚の子、ということになっている、ハオユーです。同い年で、彼も受験生でした。うにとハオユーは、本当のところを説明すると、かなり面倒くさい間柄です。
ハオユーは、父が都内で一緒に暮らしている、マレーシア出身の華僑の愛人さんの連れ子。マレーシアで生まれ、エンジニアだった両親について世界を転々とし、途中で実のお父さんが亡くなって、十歳のときにお母さんに連れられて日本へ来ました。その後、ハオユーのお母さんは、うにの父と出会いました。
小学生だったうには、毎週、ハオユーを祖母の書道教室に連れて行くのが仕事でした。一緒に書道をして、祖母の家で夕飯を食べて、夏休みや冬休みも顔を合わせて、なんだかんだと毎年恒例のように、初詣にも行くようになりました。
だから家族でもなく、とはいえ、ただの知人というほど遠くもなく。それなのになんだか長い付き合い。説明するのも面倒。だから「親戚の子」。
外見も、性格も、まったくもって似ていないし。(そもそも人種が違うし)
ハオユーは、来るもの拒まず、去るもの追わず、みたいなタイプ。人なつっこいくせに、妙にあっさり。その場所にいる間は、そこにいる人たちと楽しく過ごす。でも、別れることになったらさらっと、「またな」と言う感じ。小さいころから、いろんな国や家や学校を転々としてきたらしいので、そのせいかもしれません。
そんな彼が、日本に来て感銘を受けた言葉があるそうです。
日本のテレビで『高校生クイズ選手権』という番組を初めて見たとき、アナウンサーが、「知力、体力、時の運!」と連呼しているのを聞いて、
「俺はあの時、雷に打たれたように人生を悟ったね。いや、まじで。人生ってだいたいこの三つじゃん?」っと。


「まじ、それ、人生の真理!」
とアハ体験中の小学生・ハオユー君👆
「知力、体力は鍛えるもの。時の運は、つかむもの!」
以来、これが彼の座右の銘に。
そんなハオユーと、毎年恒例の初詣です。
ハオユーはおみくじの箱に手を伸ばしました。
開いた紙を見て、ハオユーの顔がぱっと明るくなりました。
「大吉! おっしゃ!」

その横で、うには自分のおみくじを開きました。
中吉……。(びっみょ~~)
学業のところには、こう書いてあります。『準備が肝要』

うに「準備……準備……どうしよう、準備不足で、何かやらかすのかも……」
ハオユー「深く考えても、しょーがないって。運だから」
ハオユーは、大吉のおみくじをひらひらさせながら、笑いました。
うにはむくれて、ハオユーを見上げます。
ちっ、毎年毎年大吉をひく大吉男め。
そんな簡単に言わないでほしいわ。美大受験って、そんなにあっけらかんとしたものじゃないんだぞ。まじ、色々あるんだから。予備校の中は、みんなギスギスしていて、試験が近づけば近づくほど、空気はどんどん重くなっていくし。ゆきちゃんも、ふうこも、都内の予備校に行っちゃったし。なつめも、一月からはいなくなるし。うには、ビリビリしている浪人生の先輩たちの中で、ひとりでがんばらなくちゃいけないし。何を頑張ればいいのかだんだんわかんなくなってくるし……
……って、あれ? だったら、都内の予備校に行っても、同じだったんじゃ……。
うには、ちょっといまさらな事実に気づき始めて、呆然としました。
(いつも、大事なことに気がつくのが遅いんだよなあ)
いや、でも、それはもう、いまさらいまさら……。
その横で、ハオユーは相変わらず超呑気です。
「イメージ、イメージ。T大の赤門をくぐる、輝かしい4月の俺! で、G大の門をくぐる、輝かしい、4月のうに! ほら、もう、あと3か月後のことだぜ!」

ハオユーはそう言って、大吉のおみくじを器用に細く折り、枝に結びつけました。
3か月後。あと3か月後には、春が来て、試験も何もかも終わってて、いい結果にしろ、悪い結果にしろ、何らかの結果がでているんだ。
そう思うと、急に心がそわそわしてきます。
後悔のないようにしたい。今すぐ帰って、絵を描きたい。
あるいは学科の勉強の見直しをしたい。
ハオユーは、おみくじに向かって、胸の位置で軽く手を合わせました。
ハオユー「このあとどうする?」
うに「帰る。帰って勉強する」
ハオユー「お。じゃあ、俺もそうするかな~」
うに「自分ちに帰ればいいのに」
ハオユー「ばあちゃんちのほうが集中できるんだよな~」

実家には居づらい者同士
長期休みはほぼ祖母宅
うにはため息をついて、いつも上機嫌そうなハオユーの顔を見上げて思いました。ふつうさ、T大目指すようなタイプって、もっとガリ勉で、人付き合いなんて苦手で、いかにも、本ばっかり読んでそうなタイプなんじゃないの?
なんで、うにのまわりには、こーゆー社交上手の陽キャばっかりいるんだろ……はあ……。

「富士山を見ると落ちるらしい」
受験生のあいだで、まことしやかに言われていた迷信です。

もちろん、迷信だとはわかっていました。でも、見るなと言われると、見ないようにするために、富士山のことを考えてしまいます。
富士山って、たしか、あっちの方角だよね……。
いやいや。うにのばか。意識するなら、もっとデッサンの立体感の出し方とか、丁寧な陰影のつけ方とか、課題文の読み方とか、そういうところでしょうよ。
……と、今なら思うんですけどw
でも当時はきっと、試験本番の日が近づくにつれて、かなりガッチガチに緊張していたのだと思います。
いよいよ来週から、怒涛の美大試験期間が始まる、という頃。
塾では先生たちが、生徒たちに励ましの声をかけてくれていました。
大森先生は、「結果は気にせず、課題を楽しんで描いてきなさい」というようなことを。
野田先生には、「課題を何度も読むんだぞ」と。これはかなりしつこく言われました。
それから、波多野先生には、「会場に入ったら、周りをよく見て、肩、回せよ~」と。
そして、運命の日。
最初の大学の試験日の朝。
うにはすべての荷物をキャリーケースに載せて、電車に乗り、Z大学の試験会場へ向かいました。
席に座ると、うには目をつぶりました。もちろん、富士山を見ないためです。でも本当は、そこまで気にしなくても大丈夫なはずでした。うにの乗っているのは、都会の中を走る普通の電車です。窓の外に見えるのは、だいたいビルとマンションと、線路沿いの看板ばかり。富士山なんて、そう簡単に見えるわけがありません。
そして、頭の中でいつものルーティンを再生しました。
会場に着いたら、まず会場全体をよく見渡す。席に荷物を置く。トイレの場所を確認する。窓の位置を確認する。肩を回す。ぐるぐるぐる。試験が始まったら、課題文を何度も読む。時間配分を忘れずに。できれば最後は5分くらい余裕を見て終わりたい。
そうやって、ひとつずつ確認していました。
よし、この手順で大丈夫。
小さな確信を手に、目を開けると、その瞬間。
向かいの席の窓の外、ビルとビルの間に、ほんの一瞬、見慣れた三角形の青い影が飛び込んできました。

あ~~~~~~~~~
試験初日、良く晴れて、遠くにあるはずの富士山が、やけにくっきりと見えていました。


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※本作は実体験をもとに再構成した創作エッセイです。
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本作は実体験に着想を得たエッセイですが、プライバシー配慮のため登場人物・団体・時系列・場所等に創作・合成・編集を含みます。特定を意図していません。ただし、うにが感じた気持ちと気づきは本物です。

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