【あがり症|美大受験13】うに、本番に弱いタイプ?|美大受験1校目で盛大にやらかした件|ふるえるままに、すすめ33
あがり症でHSP気質のうにが、美大受験、大学中退、そしてその後も続いていく日々の中で、変わりたくても変われない、どうしようもない自分を抱えたまま世界を泳いでいく『うに』のイラスト付き連載エッセイです。うまくいかない日も多いけど、うにはうにのまま、ふるえるままに進んでいきます。
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冬がやってきました。
美大の受験は、長丁場です。
朝9時から、まずは学科試験が始まります。英語、国語、日本史の3科目。それが終わると、お昼ご飯を挟んで、午後2時からは実技試験です。デザイン科の課題は、色彩構成。試験時間は3時間。すべて終わるころには、夕方の5時になっています。
実技試験の会場は、比較的大きな教室でした。横長の会議テーブルが並んでいます。席順は受験番号順に割り振られていて、うにの席は一番前でした。
目の前には、試験監督の先生が座っています。

「みなさんの後方にあるデスクの上に、5台のドライヤーが用意してあります。絵の具を早く乾かしたい人は利用してください」
時間になり、試験監督の合図とともに、試験がスタート。受験生たちが一斉に、課題プリントを読みはじめました。
課題文を読みます。規定サイズの枠を描き、その中にデザインせよ、という指示があります。規定サイズは、230×330ミリ。
うには直定規を取り出し、鉛筆で枠を引きはじめました。手を動かしながらも、頭の中では、課題のことでいっぱいです。この課題文を、どう読むか。どこまで素直に答えて、どこから自分なりの解釈を入れるか。
条件を外してはいけない。でも、ただ条件を満たすだけでも足りない。伝えたいイメージをひとつに定め、かつ『この課題には、これしかない』という表現を。時間は3時間。初動で時間をかけていたら間に合いません。
集中していると、時計の針はびっくりするほど早く進みます。
夢中になって描いていると、ふと、うにの後ろのほうで、何人かの受験生たちが立ち上がり、ドライヤーを使いに行く気配がしてきました。
椅子を引く音。紙を持ち上げる音。ドライヤーの風の音。
腕時計を見ると、あっという間に2時間が経過していました。うには、自分の画面を少し離れて見なおしました。

ほぼ、8割くらい完成に近づいてきています。2時間で描けた量としては申し分ありません。あと1時間もあれば余裕で完成する時間配分です。
今回は、色数を少なくして、コントラストを際立たせることにしました。不用意に色数を増やせば、筆を洗ったり水を取り替えたりする回数が増えますから、それは、そのまま時間のロスになります。だから、あえて色数を絞ったのです。
そろそろ、ハイライトになる明るい色を入れよう。その前に画面全体の絵の具をしっかりと乾かしておきたい。コントラストで見せるデザインなので、線の際が甘くては、提出はできません。
後方を見ると、ドライヤーのテーブルには2~3人待ちの列ができています。今のうちに並んで乾かそう。
そう考えて、自分の絵を持って立ち上がりました。
ドライヤー待ちの列に並びながら、やっぱりほかの受験生がどんな絵を描いているのか気になって、ちらりちらりと見てしまいます。

そして、その瞬間。うには、ぞわっとするような違和感を覚えました。
(え……?)
なんだろう。何かがおかしい。

ほかの受験生たちの絵は、みんな同じ大きさに見えます。
でも、うにの絵だけが、
わずかに小さい気がする。
目が猛スピードで右往左往します。
どの受験生の絵を見ても、同じ大きさです。
でも、うにの絵は、小さい。ほんのわずかに。
横幅だ。おそらく、左右5㎜の誤差。
心臓がどきどきしてきて、全身から冷汗が噴き出してきます。
(まさか、最初に枠を描くとき、定規のメモリをはかり違えた……!?)
頭の中が、一瞬で真っ白になりました。
手が震えてきます。腕時計を見る。残り40分。
ドライヤー待ちは、まだ3人。
あと何分でドライヤーにたどり着ける?
それとも、ドライヤーをあきらめて、今すぐ席に戻り、サイズをどうにかすべき?
サイズだよ。
サイズをどうにかするしかない。そもそも、出題で条件づけられたサイズが違っていたら、その時点で終わりなんだから。
うには、ドライヤーの列から踵を返し、急いで自分の席へ戻りました。
絵を描いている人なら、わかってもらえると思うのですが、絵が8割も完成している段階で、左右5ミリずつを「違和感なく拡張する」というのが、どれほど難しいことか。
うには、ほとんど半泣きになりながら、残りの時間すべてを使って、震える手を必死に抑えつつ、両側を拡張する努力をしました。
でも、描いても描いても、うまくいきません。どう描いても、どうしても、そこだけが変に浮いて見える。いかにも、「左右5ミリを、後から追加しました」という痕跡が、画面に残ってしまうのです。
結局、最後までリカバリーできないまま残り時間が過ぎ、試験監督のおじさんの声が、教室に響き渡りました。
「そこまでです。手を止めてください」
それまで、呼吸をするのも忘れるほど集中していたので、うには一気に肺の奥から深いため息を吐きました。
落ちた。
はっきり、そう思いました。
ふと顔を上げると、目の前に座っていた試験監督のおじさんが、なんとも言えない、いたわるような、慈悲深い表情で、うにを見つめていました。

(また来年、がんばろうね)
そう言っているみたいでした。

荷物をまとめて試験会場を出ると、うには、最寄り駅まで、ほぼ放心状態で歩きました。
予備校の大森先生には、試験が終わったら、来られる人は予備校に来るように、難しい人は、電話で報告するように、と言われていました。
でも、なんて言えばいいんだろう。
サイズを間違えました。
途中で気づいて、直そうとしたけど、直せませんでした。
そんな情けないこと、言えないよ。
駅のベンチに座っていると、野田先生の声が、頭の中でリフレインします。「試験問題は、何回も読み直すんだぞ!」
あれほど、何度も言われていたのに。
どうして、読み返さなかったんだろう。
……ううん。読み返した。読み返したよね。うん。何度も、何度も、読み返した。
テーマについて。課題文の意味をどう解釈するか。どこまで素直に答えて、どこから自分らしさを入れるか。そこばかりを、何度も確認していた。
でも、まさか。サイズを測り間違えるなんて。
なんで、よりによってサイズを。
予備校に1年間通っていて、今まで一度だって、課題の指定サイズを間違えたことなんてないのに。いつもなら、何も考えなくてもできることなのに。
自分では、それほど緊張しているつもりはなかったのに。
手も動いていた。頭も働いていたから、大丈夫だと思ったのに。

でも全然違った。本当は、緊張マックスだったんだ……自分で自分のことが、全く見えなくなっていたんだ……。
うには、美大入試最初の1校目で、盛大にやらかしました。
もしかして、本番に弱いタイプ?
つづく!
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※本作は実体験をもとに再構成した創作エッセイです。
大切なお知らせ
本作は実体験に着想を得たエッセイですが、プライバシー配慮のため登場人物・団体・時系列・場所等に創作・合成・編集を含みます。特定を意図していません。ただし、うにが感じた気持ちと気づきは本物です。

