【あがり症|美大受験9】なつめは「右側にいてほしいな」とさらりと言った|文化祭と蛍石と夕焼け空①|ふるえるままに、すすめ29

あがり症でHSP気質のうにが、美大受験、大学中退、そしてその後も続いていく日々の中で、変わりたくても変われない、どうしようもない自分を抱えたまま世界を泳いでいく『うに』のイラスト付き連載エッセイです。うまくいかない日も多いけど、うにはうにのまま、ふるえるままに進んでいきます。
【はじめてましての方はこちらからどうぞ】
★子供のころのあがり症は(1)こちら
★あがり症を抱えたまま働きだしたストーリーは(4)こちら
★美大受験期・美大中退編は(21)こちら
なつめ「あ、うに! うにも行ける?」
いつものように、学校帰りに美術予備校につくと、なつめたちが、何やら楽しそうに相談していました。

ふうこ「大学の文化祭!」
ゆきちゃん「着いたら連絡すれば、波多野先生の作品展示、案内してくれるって」
文化祭……!え、それは、考えたことなかった。
うに「文化祭って、見に行っていいんだ……!」
なつめ「そりゃそうだよ。大学ってどんなとこか、見学できるじゃん」
たしかに。それは、見に行ってみたいかもです。
ふうこ「あたし、アートフリマ気になる~! どうしよ、お小遣い足りないよ~」
ゆきちゃん「ワークショップも色々あるよ。石から絵の具を作るんだって」
うには、いつものように、石膏像の前にイーゼルを立てながら、ぼそっとつぶやきました。
うに「でも、うにも行っていいのかな」
隣でイーゼルを立てていたなつめが、不思議そうに聞き返してきました。
なつめ「なんで?」

うに「だって……誘われたのは、ゆきちゃんでしょ……?」
なつめ「あ~……そゆこと?」
なつめとうには、ちらっとゆきちゃんを見て、顔を見合わせました。
なつめ「う~ん。ま、それは、考えすぎでしょ!」
うに「……そう?」
なつめとうには、なんとなく沈黙しました。
なつめ「……ってかさ、うにが来なかったら、あたしだっていづらいよ!」
うに「あ、うん💦」
なつめ「ふうこはあのとおり、超マイペースで鈍いし! 来てよ~~」
うに(こくこくとうなづく)
というわけで、4人で波多野先生の大学の文化祭に行くことになったのです。

文化祭の日。
駅前は、もうすでに人でいっぱいでした。
改札から吐き出される人の波。
若い人も、父兄とおもわれる家族連れの人も。
パンフレットを片手に、地図をのぞき込んでいる人たち。
友達同士で笑いながら歩いていく高校生たち。

ふうこは、その様子を見ただけで、目をきらきらさせました。
ふうこ「すごいね、この人たち、みんな文化祭に行くんだ~! わくわくしてきた!」
なつめ「人出やばいよね」
そう言いながら、なつめは隣を歩くゆきちゃんをちらっと見ました。
なつめ「ていうか、ゆきちゃん。そのワンピース、すっごいかわいい」
ゆきちゃん「えっ! えっ、えへへ、ありがと~~~!変じゃないかな、浮いてない?」
ゆきちゃんは、ぱっと顔を赤くして、胸元のあたりを両手でおさえました。
淡い色のワンピースを着たゆきちゃんはとっても女の子らしくて、ちょっとそわそわしていました。

ふうこ「何言ってんの、ゆきちゃん。大丈夫よ、美大の学祭よ、変な格好している人ばっかりだから!」
なつめ「それ、意味違うでしょwww」
ゆきちゃん「ねえ、どうする? 先に作品展示見に行くなら、波多野先生にLINEしたほうがいいかな……」
ふうこ「え~、あたし、午前中はアートフリマ見たいな! だって、素敵なものからどんどん売り切れちゃうでしょ?」
なつめ「あ~、それは確かに」
ゆきちゃん「そ、そっかあ……じゃあ、午後に行きますって、念のため波多野先生に連絡を……」
ゆきちゃんはスマホをポチポチと押しています。
うには、人の流れの中を、三人の後について、きょろきょろとしながら歩いていました。
手作りの看板。カラフルな旗。見たこともないアーティスティックな法被を着た大学生たち。謎の読めない文字で書かれたポスター。
大きな段ボールをいくつもを抱えて、人の間を走りぬける忙しそうな学生たち。
呼び込みの声。話し声、笑い声。
どこを見ても、人、人、人。
うには、あるお店の前で、ぴたりと立ち止まりました。
大き目の宝箱の中に、半透明の緑色の石が積まれています。
薄い紫。淡い緑。水色と白が、霧みたいに混ざったもの。
角度を変えると、内側からほのかに光って見えるもの。
何の石だろう。綺麗だな。

うには、その石の山を見つめました。

そのころ、数メートル先では。
ゆきちゃん「あれ? うにちゃん?」
ゆきちゃんが、ぱっと振り返りました。
ゆきちゃん「うにちゃん! うにちゃんがいない!」
ふうこ「ええっ」ふうこも慌てて周りを見回しました。
ふうこ「うに、ちっさいからなあ! うにーーー!」
なつめ「声でかいってw」
なつめは、少し呆れたように言いながらも、すぐにうにを見つけました。
なつめ「あ、あそこにいる」
ゆきちゃん「いた!」
ふうこ「うにーーー! 置いてくよーーー!」
うに「えっ、あっ、ごめん……!」
うにの手の中には、小さな石がひとつ乗っていました。
なつめ「さっそく迷子になってんじゃんw」
うに「うう、ごめん……」
ゆきちゃん「何、何? きれいだね、その石」
うに「……緑と紫が混ざってて、きれいなの……」
なつめ「え、何? 声ちっさw」
なつめはそう言いながらも、ちゃんと聞こえるように、うにのほうへ少し身をかがめて、石をのぞき込みました。

淡い紫と水色の境目が、秋の朝の空みたいに、にじんでいます。
小さいのに、角度を変えるたび、色の奥に別の色が見える気がしました。
ふと露店の上に出ている看板を見上げました。
そこには、手書きの文字でこう書かれていました。
フローライト手磨きワークショップ
所用時間1時間
ゆきちゃん「ちょっと長いよねえ」
ゆきちゃんは、スマホをちらっと見ました。
波多野先生からの連絡はまだないようです。
なつめ「じゃあ、ふたりはアートマーケット色々見てくればいいじゃん」
ゆきちゃん「え?」
なつめ「あたし、うにとここで石磨いてるからさ。うに、もう石から動かなさそうだし」
うに「そ、そんなことは……(〃▽〃)」
ふうこ「いいよ! そうしよ! あたしも見たいものいっぱいあるし!」
ゆきちゃん「ええ? 本当に?」
なつめ「終わったら連絡する。作品展示、午後でもいいでしょ」
ゆきちゃん「う~ん、じゃあ、あとで合流しよっか」
ふうこ「うに、石、ぴかぴかにしたらあとでみせてね~!」
というわけで。ふうことゆきちゃんは、アートマーケットの人混みの中へ。
なつめとうには、露店の横にある小さなテーブルに案内されました。

テーブルの上には、水の入ったスポイトボトルと、紙やすりと、まだごつごつの原石のままの蛍石がいくつも並んでいました。
大学生の先輩が、にこにこしながら、空いている椅子を指さしました。「さ、ここに座ってね」
うにが椅子に腰を下ろそうとした時、
なつめ「ごめん、あたし、こっち側でいい?」
と言って、うにの左側の椅子に座りました。

大学の先輩「まず、磨きたい石を選んでくださいね~! コツは、石の中にヒビができるだけ少ないものを選ぶことです~!」
なつめ「え~、迷う!」
なつめは、あれでもない、これでもないと、指先で石を転がしています。
うには、さっきから手のひらに乗せていた石を、もう一度そっと見ました。
なつめは、そんなうにの横顔をちらっと見て、それから石の山に目を戻しました。
なつめ「うには、もう選ばなくていいの?」
うに「うん。これがきれいだなって」
なつめ「え? 何?」
うにの声が聞こえにくいみたいです。
周囲のざわめきのせい?
うにの声が小さすぎたのかも。
なつめが、もう一度聞き返しました。
うに「これが、きれいだな、って!」
うには、自分なりに声を大きくして答えました。
なつめ「は~。相変わらず、なんつーか、迷いがないねえ、うには」
うに「えええ」
なつめは、本当によく人をほめます。
うにのことも、よくほめてくれます。
でも、うにはそのたびに、なんだか背中のあたりがもぞもぞしました。
うになんかと一緒にいて、つまらなくないのかな。
本当は、気を遣ってくれているだけなのかもしれない。
何か、うにもお返ししなくちゃ……。
うに「あ、この紫のも、ヒビが少なそうだよ」
うには、石の山の端にあった、小さな紫色の蛍石を指さしました。
なつめ「どれどれ?」
なつめがそれをつまみ上げて、光にかざします。
なつめ「あ、たしかに。きれいかも」
うに「うん。緑色が真ん中に入っていて、ボーダーみたい。これ一個しか、ボーダーみたいなのないかも」
なつめ「おおお~、じゃあ、あたしこれにする」
うに「え、いいの?」
なつめ「うにが選んでくれたやつがいいよ」
うに「ええええ」

また、背中のあたりがもぞもぞ。
そういうセリフを、さらりと言えちゃうんだよなあ、
なつめって。天然のタラシかな。
そりゃあ、だれからも慕われるよなあ。

うに・なつめ「ふおおおおおお~~!」
ふたりで、磨きあがった石を、そろって太陽にかざしました。

さっきまで曇っていた蛍石は、水で濡れたみたいにつやつやしていて、光を通すと、紫とグリーンが透明でとってもきれいです。
なつめの石は、真ん中に入った緑の帯が、光に透けると、ほんとうに小さな地層みたいに見えます。
大学生の先輩「めっちゃきれいにできたね~~~!! じゃあ最後に、この中から好きなお守り袋選んでいいよ!」
先輩が、にこにこしながらトレイを取り出しました。
うにとなつめは、わくわくしながらそれをのぞき込みました。
そして、同時に固まりました。
トレイの中には、おどろおどろしいデザインのお守り袋が、ぎっしり詰まっていたのです。
紫の布に、赤い刺繍。
黒地に金色の目玉模様。
なぜか骸骨みたいな顔がついているもの。
古代文字なのか、誰かの落書きなのか、判断に迷う記号がびっしり縫われているもの。どちらかというと、これは。お守り袋というより。呪い袋に近いのでは……。
うに・なつめ「…………」
大学生の先輩「全部手作りだよ~! かわいいでしょ?」

かわいい…?!
美大生の言う「かわいい」の定義、広すぎない?
なつめが、横目でうにを見ました。
なつめ「よし、どれが一番、受かりそうかで決めよう」
うに「え、それ、選考基準?」
思わず、うには吹き出してしまいました。
大学生の先輩「え~、なになに。君たち受験生?!」
なつめ「あ、はい。そうなんです」
大学生の先輩「ひゃ~~~! そうなんだ! わあ、受かったら、うちのサークルにぜひぜひ! めっちゃ楽しいでしょ、石磨き!」
なつめ「はい、めっちゃ楽しかったです」
うに「楽しかったです……!」
大学生の先輩「じゃあ、先輩が、ふたりに合格するように念をこめて、選んであげよう!こう見えて、あたし、『見える人』なのよ✨」
なつめ「え!あ、はい。ありがたく……」
うに「見える人…」
先輩は、急に真剣な顔になりました。
さっきまでの、ゆるふわな空気が嘘みたいに、トレイの中のお守り袋を一つひとつ見つめはじめます。
大学生の先輩「うーん……こっちじゃないな。これは……う~ん」
うにとなつめは、なぜか息をひそめて、その様子を見守りました。
大学生の先輩「いや、これとこれだな」
なつめ「え、選択理由は」
大学生の先輩「去年、首席で合格した人が書いたやつ!」
なつめ「まじですか!」
大学生の先輩「多分!」
なつめ「多分!www」
先輩は、ふたつのお守り袋を選びました。
ひとつは、濃い青色の布に、銀色の糸で小さな星のような模様が縫われたもの。
もうひとつは、渋い紫の布に、緑色の糸で、古代文字のような模様が入ったもの。
大学生の先輩「ほらちょっと、ラピュタっぽいでしょ?」
たしかに!首席先輩、ありがたや……!
大学生の先輩「ま、今日だけは楽しんでいってよ!」
なつめ「はい!」
うに「ありがとうございます……!」
うには、青い袋に、磨いた蛍石をころんと入れて、ポケットにしまいました。

なつめ「う~ん、通じないや」

なつめが、スマホを右耳から離しました。
なつめ「ふうこたち、電波が届きにくいところにいるのかも」
うに「とりあえず、展示棟まで歩いて行ってみる……?
波多野先生、デザイン学科だよね」
なつめ「ごめん、もう一回言って」
なつめが、うにの左側にひょいと回ってきました。
うに「え?」
なつめ「あ、言ってなかったっけ。あたし、左耳ちょっと聞こえにくいんだよね」

うに「そうなの?」
なつめ「うん。こーゆー野外だと、特にね。だから、右側にいてくれるとありがたい」
うに「あ、うん。わかった」
うには、さっきより少しだけ、なつめの右側を意識して歩きました。
うに「えっと……展示棟まで歩いて行ってみない? 波多野先生、デザイン学科だよね」
なつめ「あ~、そうかも」
なつめは、パンフレットの地図を広げました。
なつめ「えーと……現在地がここで、デザイン学科の展示棟が……どこ?」
うに「えっと……たぶん、この四角いやつ……?」
なつめ「四角いやつ、多くない?」
ふたりはしばらく、地図と目の前の校舎を見比べました。
なつめ「ま、歩けばなんとかなるでしょ! 途中なんか食べよ~。ちょっと小腹空いちゃった」
うに「うんうん」
ふたりは、人の流れにまぎれながら、展示棟らしき方向へ歩き出しました。
不思議な音楽が流れています。
そして、甘い匂い漂うクレープ屋さん。
なつめ「うに、クレープ、好き?」
うに「うん、大好き!」
ふたりは展示棟へ向かう途中で、あっさりクレープ屋さんの列に並びました。
看板には、いちごチョコ、生クリームバナナ、カスタードアップル、ツナマヨチーズなど、甘いものからしょっぱいものまで、魅惑の文字が並んでいて、甘い匂いがふわっと流れてきます。
うには、パンフレットを片手に、もう一度地図を見ました。
展示棟は、たぶん、この先を右…かなあ?
いや、そもそもこの地図、今どっちを向いているんだろう。
地図をぐるぐる回します。
大学の展示を見に来たのに、果たして行きつけるんでしょうか。
ゆきちゃんたちと合流した方が良いかもなあ。
その時、後ろから、聞き覚えのある声がしました。
「おお~、なつめとうにじゃん!」
うには、ぱっと振り返りました。
なつめは、一瞬だけ反対側を振り返って、それからうにをみて、「あ、そっちか」と言うように、くるりと向きを変えました。
そこに立っていたのは、紙コップのコーヒーを片手に持った、波多野先生でした。波多野先生の隣には、優しそうな雰囲気の、茶色いショートヘアの女性が微笑んでいました。


本編続きはこちら

~今までの物語が読みたい!~
各種マガジンのお知らせ
『続きが更新されたらお知らせが欲しい』というありがた過ぎるみなさまへ。お好みのマガジンをフォローして頂きますと、通知が届きます♪
▼【あがり症|美大中退編】連載中|ふるえるままに、すすめ
▼【あがり症|美大受験編】完結|ふるえるままに、すすめ
▼【仕事編】連載中|ふるえるままに、すすめ
▼【総合】連載中|ふるえるままに、すすめ
▼【閑話休題】随時更新|ふるえるままに、すすめ
▼【うにのLINEスタンプ】随時更新
※本作は実体験をもとに再構成した創作エッセイです。
大切なお知らせ
本作は実体験に着想を得たエッセイですが、プライバシー配慮のため登場人物・団体・時系列・場所等に創作・合成・編集を含みます。特定を意図していません。ただし、うにが感じた気持ちと気づきは本物です。

