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【あがり症|美大受験9】なつめは「右側にいてほしいな」とさらりと言った|文化祭と蛍石と夕焼け空①|ふるえるままに、すすめ29



あがり症でHSP気質のうにが、美大受験、大学中退、そしてその後も続いていく日々の中で、変わりたくても変われない、どうしようもない自分を抱えたまま世界を泳いでいく『うに』のイラスト付き連載エッセイです。うまくいかない日も多いけど、うにはうにのまま、ふるえるままに進んでいきます。

【はじめてましての方はこちらからどうぞ】

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なつめ「あ、うに! うにも行ける?」

いつものように、学校帰りに美術予備校につくと、なつめたちが、何やら楽しそうに相談していました。

ふうこ「大学の文化祭!」

ゆきちゃん「着いたら連絡すれば、波多野先生の作品展示、案内してくれるって」

文化祭……!え、それは、考えたことなかった。
うに「文化祭って、見に行っていいんだ……!」

なつめ「そりゃそうだよ。大学ってどんなとこか、見学できるじゃん」

たしかに。それは、見に行ってみたいかもです。

ふうこ「あたし、アートフリマ気になる~! どうしよ、お小遣い足りないよ~」
ゆきちゃん「ワークショップも色々あるよ。石から絵の具を作るんだって」

うには、いつものように、石膏像の前にイーゼルを立てながら、ぼそっとつぶやきました。
うに「でも、うにも行っていいのかな」

隣でイーゼルを立てていたなつめが、不思議そうに聞き返してきました。
なつめ「なんで?」

うに「だって……誘われたのは、ゆきちゃんでしょ……?」
なつめ「あ~……そゆこと?」

なつめとうには、ちらっとゆきちゃんを見て、顔を見合わせました。
なつめ「う~ん。ま、それは、考えすぎでしょ!」

うに「……そう?」

なつめとうには、なんとなく沈黙しました。

なつめ「……ってかさ、うにが来なかったら、あたしだっていづらいよ!」

うに「あ、うん💦」

なつめ「ふうこはあのとおり、超マイペースで鈍いし! 来てよ~~」

うに(こくこくとうなづく)

というわけで、4人で波多野先生の大学の文化祭に行くことになったのです。


文化祭の日。
駅前は、もうすでに人でいっぱいでした。

改札から吐き出される人の波。
若い人も、父兄とおもわれる家族連れの人も。
パンフレットを片手に、地図をのぞき込んでいる人たち。
友達同士で笑いながら歩いていく高校生たち。

ふうこは、その様子を見ただけで、目をきらきらさせました。

ふうこ「すごいね、この人たち、みんな文化祭に行くんだ~! わくわくしてきた!」

なつめ「人出やばいよね」

そう言いながら、なつめは隣を歩くゆきちゃんをちらっと見ました。

なつめ「ていうか、ゆきちゃん。そのワンピース、すっごいかわいい」

ゆきちゃん「えっ! えっ、えへへ、ありがと~~~!変じゃないかな、浮いてない?」
ゆきちゃんは、ぱっと顔を赤くして、胸元のあたりを両手でおさえました。

淡い色のワンピースを着たゆきちゃんはとっても女の子らしくて、ちょっとそわそわしていました。

ふうこ「何言ってんの、ゆきちゃん。大丈夫よ、美大の学祭よ、変な格好している人ばっかりだから!」

なつめ「それ、意味違うでしょwww」

ゆきちゃん「ねえ、どうする? 先に作品展示見に行くなら、波多野先生にLINEしたほうがいいかな……」

ふうこ「え~、あたし、午前中はアートフリマ見たいな! だって、素敵なものからどんどん売り切れちゃうでしょ?」

なつめ「あ~、それは確かに」

ゆきちゃん「そ、そっかあ……じゃあ、午後に行きますって、念のため波多野先生に連絡を……」

ゆきちゃんはスマホをポチポチと押しています。

うには、人の流れの中を、三人の後について、きょろきょろとしながら歩いていました。

手作りの看板。カラフルな旗。見たこともないアーティスティックな法被を着た大学生たち。謎の読めない文字で書かれたポスター。
大きな段ボールをいくつもを抱えて、人の間を走りぬける忙しそうな学生たち。
呼び込みの声。話し声、笑い声。
どこを見ても、人、人、人。

うには、あるお店の前で、ぴたりと立ち止まりました。
大き目の宝箱の中に、半透明の緑色の石が積まれています。

薄い紫。淡い緑。水色と白が、霧みたいに混ざったもの。
角度を変えると、内側からほのかに光って見えるもの。
何の石だろう。綺麗だな。


うには、その石の山を見つめました。



そのころ、数メートル先では。

ゆきちゃん「あれ? うにちゃん?」
ゆきちゃんが、ぱっと振り返りました。

ゆきちゃん「うにちゃん! うにちゃんがいない!」

ふうこ「ええっ」ふうこも慌てて周りを見回しました。

ふうこ「うに、ちっさいからなあ! うにーーー!」

なつめ「声でかいってw」

なつめは、少し呆れたように言いながらも、すぐにうにを見つけました。

なつめ「あ、あそこにいる」

ゆきちゃん「いた!」

ふうこ「うにーーー! 置いてくよーーー!」

うに「えっ、あっ、ごめん……!」

うにの手の中には、小さな石がひとつ乗っていました。

なつめ「さっそく迷子になってんじゃんw」

うに「うう、ごめん……」

ゆきちゃん「何、何? きれいだね、その石」

うに「……緑と紫が混ざってて、きれいなの……」

なつめ「え、何? 声ちっさw」

なつめはそう言いながらも、ちゃんと聞こえるように、うにのほうへ少し身をかがめて、石をのぞき込みました。


淡い紫と水色の境目が、秋の朝の空みたいに、にじんでいます。
小さいのに、角度を変えるたび、色の奥に別の色が見える気がしました。

ふと露店の上に出ている看板を見上げました。

そこには、手書きの文字でこう書かれていました。

フローライト手磨きワークショップ
所用時間1時間

ゆきちゃん「ちょっと長いよねえ」

ゆきちゃんは、スマホをちらっと見ました。
波多野先生からの連絡はまだないようです。

なつめ「じゃあ、ふたりはアートマーケット色々見てくればいいじゃん」

ゆきちゃん「え?」

なつめ「あたし、うにとここで石磨いてるからさ。うに、もう石から動かなさそうだし」

うに「そ、そんなことは……(〃▽〃)」

ふうこ「いいよ! そうしよ! あたしも見たいものいっぱいあるし!」

ゆきちゃん「ええ? 本当に?」

なつめ「終わったら連絡する。作品展示、午後でもいいでしょ」

ゆきちゃん「う~ん、じゃあ、あとで合流しよっか」

ふうこ「うに、石、ぴかぴかにしたらあとでみせてね~!」

というわけで。ふうことゆきちゃんは、アートマーケットの人混みの中へ。
なつめとうには、露店の横にある小さなテーブルに案内されました。


テーブルの上には、水の入ったスポイトボトルと、紙やすりと、まだごつごつの原石のままの蛍石がいくつも並んでいました。
大学生の先輩が、にこにこしながら、空いている椅子を指さしました。「さ、ここに座ってね」

うにが椅子に腰を下ろそうとした時、
なつめ「ごめん、あたし、こっち側でいい?」
と言って、うにの左側の椅子に座りました。

大学の先輩「まず、磨きたい石を選んでくださいね~! コツは、石の中にヒビができるだけ少ないものを選ぶことです~!」

なつめ「え~、迷う!」
なつめは、あれでもない、これでもないと、指先で石を転がしています。


うには、さっきから手のひらに乗せていた石を、もう一度そっと見ました。
なつめは、そんなうにの横顔をちらっと見て、それから石の山に目を戻しました。

なつめ「うには、もう選ばなくていいの?」

うに「うん。これがきれいだなって」

なつめ「え? 何?」

うにの声が聞こえにくいみたいです。
周囲のざわめきのせい?
うにの声が小さすぎたのかも。
なつめが、もう一度聞き返しました。

うに「これが、きれいだな、って!」
うには、自分なりに声を大きくして答えました。

なつめ「は~。相変わらず、なんつーか、迷いがないねえ、うには」

うに「えええ」

なつめは、本当によく人をほめます。
うにのことも、よくほめてくれます。

でも、うにはそのたびに、なんだか背中のあたりがもぞもぞしました。

うになんかと一緒にいて、つまらなくないのかな。
本当は、気を遣ってくれているだけなのかもしれない。
何か、うにもお返ししなくちゃ……。

うに「あ、この紫のも、ヒビが少なそうだよ」

うには、石の山の端にあった、小さな紫色の蛍石を指さしました。

なつめ「どれどれ?」

なつめがそれをつまみ上げて、光にかざします。

なつめ「あ、たしかに。きれいかも」

うに「うん。緑色が真ん中に入っていて、ボーダーみたい。これ一個しか、ボーダーみたいなのないかも」

なつめ「おおお~、じゃあ、あたしこれにする」

うに「え、いいの?」

なつめ「うにが選んでくれたやつがいいよ」

うに「ええええ」

また、背中のあたりがもぞもぞ。
そういうセリフを、さらりと言えちゃうんだよなあ、
なつめって。天然のタラシかな。
そりゃあ、だれからも慕われるよなあ。



うに・なつめ「ふおおおおおお~~!」

ふたりで、磨きあがった石を、そろって太陽にかざしました。


さっきまで曇っていた蛍石は、水で濡れたみたいにつやつやしていて、光を通すと、紫とグリーンが透明でとってもきれいです。

なつめの石は、真ん中に入った緑の帯が、光に透けると、ほんとうに小さな地層みたいに見えます。

大学生の先輩「めっちゃきれいにできたね~~~!! じゃあ最後に、この中から好きなお守り袋選んでいいよ!」
先輩が、にこにこしながらトレイを取り出しました。

うにとなつめは、わくわくしながらそれをのぞき込みました。

そして、同時に固まりました。

トレイの中には、おどろおどろしいデザインのお守り袋が、ぎっしり詰まっていたのです。

紫の布に、赤い刺繍。
黒地に金色の目玉模様。
なぜか骸骨みたいな顔がついているもの。
古代文字なのか、誰かの落書きなのか、判断に迷う記号がびっしり縫われているもの。どちらかというと、これは。お守り袋というより。呪い袋に近いのでは……。

うに・なつめ「…………」

大学生の先輩「全部手作りだよ~! かわいいでしょ?」

かわいい…?! 
美大生の言う「かわいい」の定義、広すぎない?

なつめが、横目でうにを見ました。
なつめ「よし、どれが一番、受かりそうかで決めよう」

うに「え、それ、選考基準?」
思わず、うには吹き出してしまいました。

大学生の先輩「え~、なになに。君たち受験生?!」

なつめ「あ、はい。そうなんです」

大学生の先輩「ひゃ~~~! そうなんだ! わあ、受かったら、うちのサークルにぜひぜひ! めっちゃ楽しいでしょ、石磨き!」

なつめ「はい、めっちゃ楽しかったです」

うに「楽しかったです……!」

大学生の先輩「じゃあ、先輩が、ふたりに合格するように念をこめて、選んであげよう!こう見えて、あたし、『見える人』なのよ✨」

なつめ「え!あ、はい。ありがたく……」

うに「見える人…」

先輩は、急に真剣な顔になりました。

さっきまでの、ゆるふわな空気が嘘みたいに、トレイの中のお守り袋を一つひとつ見つめはじめます。

大学生の先輩「うーん……こっちじゃないな。これは……う~ん」

うにとなつめは、なぜか息をひそめて、その様子を見守りました。

大学生の先輩「いや、これとこれだな」

なつめ「え、選択理由は」

大学生の先輩「去年、首席で合格した人が書いたやつ!」

なつめ「まじですか!」

大学生の先輩「多分!」

なつめ「多分!www」

先輩は、ふたつのお守り袋を選びました。

ひとつは、濃い青色の布に、銀色の糸で小さな星のような模様が縫われたもの。
もうひとつは、渋い紫の布に、緑色の糸で、古代文字のような模様が入ったもの。

大学生の先輩「ほらちょっと、ラピュタっぽいでしょ?」

たしかに!首席先輩、ありがたや……!

大学生の先輩「ま、今日だけは楽しんでいってよ!」

なつめ「はい!」

うに「ありがとうございます……!」

うには、青い袋に、磨いた蛍石をころんと入れて、ポケットにしまいました。

なつめ「う~ん、通じないや」

なつめが、スマホを右耳から離しました。

なつめ「ふうこたち、電波が届きにくいところにいるのかも」

うに「とりあえず、展示棟まで歩いて行ってみる……?
 波多野先生、デザイン学科だよね」

なつめ「ごめん、もう一回言って」

なつめが、うにの左側にひょいと回ってきました。

うに「え?」

なつめ「あ、言ってなかったっけ。あたし、左耳ちょっと聞こえにくいんだよね」

うに「そうなの?」

なつめ「うん。こーゆー野外だと、特にね。だから、右側にいてくれるとありがたい」

うに「あ、うん。わかった」

うには、さっきより少しだけ、なつめの右側を意識して歩きました。

うに「えっと……展示棟まで歩いて行ってみない? 波多野先生、デザイン学科だよね」

なつめ「あ~、そうかも」

なつめは、パンフレットの地図を広げました。

なつめ「えーと……現在地がここで、デザイン学科の展示棟が……どこ?」

うに「えっと……たぶん、この四角いやつ……?」

なつめ「四角いやつ、多くない?」

ふたりはしばらく、地図と目の前の校舎を見比べました。

なつめ「ま、歩けばなんとかなるでしょ! 途中なんか食べよ~。ちょっと小腹空いちゃった」

うに「うんうん」

ふたりは、人の流れにまぎれながら、展示棟らしき方向へ歩き出しました。

不思議な音楽が流れています。
そして、甘い匂い漂うクレープ屋さん。

なつめ「うに、クレープ、好き?」

うに「うん、大好き!」

ふたりは展示棟へ向かう途中で、あっさりクレープ屋さんの列に並びました。

看板には、いちごチョコ、生クリームバナナ、カスタードアップル、ツナマヨチーズなど、甘いものからしょっぱいものまで、魅惑の文字が並んでいて、甘い匂いがふわっと流れてきます。

うには、パンフレットを片手に、もう一度地図を見ました。

展示棟は、たぶん、この先を右…かなあ?
いや、そもそもこの地図、今どっちを向いているんだろう。
地図をぐるぐる回します。
大学の展示を見に来たのに、果たして行きつけるんでしょうか。
ゆきちゃんたちと合流した方が良いかもなあ。

その時、後ろから、聞き覚えのある声がしました。

「おお~、なつめとうにじゃん!」

うには、ぱっと振り返りました。

なつめは、一瞬だけ反対側を振り返って、それからうにをみて、「あ、そっちか」と言うように、くるりと向きを変えました。

そこに立っていたのは、紙コップのコーヒーを片手に持った、波多野先生でした。波多野先生の隣には、優しそうな雰囲気の、茶色いショートヘアの女性が微笑んでいました。



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※本作は実体験をもとに再構成した創作エッセイです。

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本作は実体験に着想を得たエッセイですが、プライバシー配慮のため登場人物・団体・時系列・場所等に創作・合成・編集を含みます。特定を意図していません。ただし、うにが感じた気持ちと気づきは本物です。

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