選挙制度試案④-公職選挙法改定暫定試案-
衆議院議員選挙、参議院議員選挙、公職選挙法に関する選挙制度試案に関する考察です。今回は公職選挙法に関する考察になりますが、選挙制度の試案にあたっての私のスタンスがありますので、そちらにまず御目通しください。
現行公職選挙法について
選挙制度の是非については、選出方法に関係があるためにある種のポピュラリティがあるためかメディアなどでも取り上げられやすい傾向にはある。だが、選挙活動のあり方を規定する公職選挙法については、前回の東京都知事選挙での選挙ポスターの悪用問題(※1)など、選挙活動において明らかに当該目的から外れるといった目立つ問題が起きたときや、選挙における買収問題などのほかはあまり注目を集めることはない。
だが、本来選挙制度という選出方法のあり方を議論するにあたっては、当然選挙活動のあり方を同時並行的に議論することなくして、民意が適正に議会に反映されることはないと考える。選挙活動を規定する現行選挙制度はべからず集ともいうくらい規制が強く、選挙のプロ、専門家でなければ公職選挙法に違反する行為をする可能性が付きまとう。例えば、年賀状については、「答礼のための自筆によるもの」以外は禁止されており、(※2)公職選挙法上次のように規定されている。
第百四十七条の二 公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)は、当該選挙区(選挙区がないときは選挙の行われる区域)内にある者に対し、答礼のための自筆によるものを除き、年賀状、寒中見舞状、暑中見舞状その他これらに類するあいさつ状(電報その他これに類するものを含む。)を出してはならない。
つまり、政治家は返礼を除き、年賀状を選挙区の人たちに自ら送ることは許されていないのである。ただ、選挙が近づくと政治家の後援会から講演会の案内状が来るなど形を変えた抜け道はあり、公平性、公正性を期すべくダイレクトメールによる選挙活動を防止する目的で制定された法規制は意味をなしていない状況にある。
また、繰り返しになるが、戸別訪問禁止も選挙目的でなければ、選挙期間外は本人が訪問することは可能なほか、選挙期間中も親族の個別訪問は規制されていないので、地縁による投票行動が強い地域では意味をなさない規定となっている。こうした状況を踏まえ、現行公職選挙法において改めるべき点について暫定試案として以下の制度改定をここに記したい。なお、当該制度改定は国政選挙のみならず、特記がない場合には地方選挙においても適用されるべきであると考えるものである。
公職選挙制度暫定試案
戸別訪問の解禁
候補者による戸別訪問禁止は廃止するべきと考える。戸別訪問禁止は買収防止を目的として制定された規定であるが、前述通り、選挙期間外の選挙目的ではない政治家による個別訪問が禁止されていないほか、親族による個別訪問は規制されていないため実質的な買収規制の効果をなしているか疑わしい規定と考えるからである。
むしろ、選挙期間中の戸別訪問の解禁は、政治家と有権者との距離感を縮め、政策面に関する対話、相互理解を深める上でも望ましい。また、選挙期間中に起きやすい候補者に対する虚偽を含んだ誹謗、中傷を候補者が説明を通して直接有権者に否定するという効果も得られ、選挙の公正性を担保するという点でもメリットがあると考える。
立候補の際の有権者による署名要件の新設
選挙において売名目的などを規制するため、現行では供託金制度が設けられているが、供託金を選挙活動を通じた売名目的として、広告費の感覚で用いられている状況にあることは先に触れた東京都知事選挙でのポスター悪用からも伺える。このため、売名行為による立候補の濫用を規制するために供託金制度を廃止し、当該立候補選挙区有権者の一定の署名を要件とするように法律を変えるべきであると考える。
有権者から一定の署名を要件とすることによって、町村議会においてなり手がいないなどで起きる無投票当選の問題について、一定程度の民主的要素を確立するという点においても意味を発揮するものと考える。必要な有権者の署名要件については、衆議院、参議院、については前々回、前回の記事で触れたところであるが、都道府県議会、政令指定都市議会、自治体の長についてはこれらに準じて、当該選挙区有権者の2パーセント以上を要件とすることが適正と考える。政令指定都市以外の市区町村議会については、有権者の数に応じて有権者の比率を2パーセントよりも少なめにするなど柔軟な対応はあっていいと考える。
投票用紙の自書式から記号式への変更
この規定は厳密には公職選挙施行規則第5条であり、(※3)また、地方選挙における投票に用いる用紙や方法(電子媒体など)は自治体ごとに規定するものであるが、国政選挙においては自書式以外行われていない。1994年のいわゆる政治改革四法においては自書式を改め、候補者をあらかじめ記載した投票用紙にチェックを入れる記号式になったのだが、自社さ政権の際に自書式に戻したという経緯がある。(※4)
候補者が多くなると職員の手間がかかることや、(※5)知っている名前を書きやすいため現職に有利と考える思惑から、自書式が行われる傾向にある。だが、開票について即日開票を改め翌日開票にすること、候補者の濫立は有権者署名要件とすることで売名目的の立候補を防げることで職員の手間を減らすことはできると考える。有権者の利便性を図る上でも記号式、場合によっては電子投票による投票を確立することが必要であると考える。
三親等以内候補者の同一選挙区同一選挙の立候補規制
日本の選挙の実態は後援会を中心としており、後援会の都合上世襲による立候補が起きやすい傾向にある。(※6)だが、後援会の都合によって立候補が決まること自体が人材の多様性を阻害する要因となっており、闊達な議論を起こしにくい風土を助長している。
そこで、筆者としては政治家が引退、任期途中で亡くなるなどが起きた場合には、そこから5年間は当該政治家の三親等以内の者については同一選挙区からの同一選挙の立候補を禁止する規定を設けるべきであると考える。三親等以内の者が政治家になること自体を規制するべきではないと考えるが、選挙の公正性を担保するということからすれば、三親等以内の者は別の選挙区からの立候補によって政治家を目指すべきであろう。本当に有能な人材と有権者が判断をすれば、どの選挙区でも当選をするだけの能力が求められるべきであるという判断からである。
迅速かつ適正な公職選挙法の改正を
以上、公職選挙法の改正についての暫定試案について検討をした。なお、買収供与との関係で飲食物の提供をどこまで許容するか(※7)、また選挙運動におけるアルバイト規制の問題(※8)、選挙期間の日程の短さといった選挙運動の公平性の問題のほか、受刑者への選挙権(※9)、障害者の選挙権行使の保障(※10)、外国人参政権、政治参加(※11)といった選挙権を行使するための制度的保障も今後の検討課題であると考える。
なお、筆者は、選挙活動については、暴力性(誹謗・中傷を含む)、地縁による馴れ合いなど公正性の担保を妨げる状況だけを規制すべきであり、原則自由であるべきと考えている。その意味では「べからず集」とも言われる現行の公職選挙法については、1990年代の政治改革の際に、選挙制度以上にも議論されるべきであったと言える。
現在、改めて政治とカネの問題が浮上している。政治とカネの問題を議論するにあたっては、現行公職選挙法の問題についても、東京都知事選挙でのポスター規制だけでなく、抜本的に法それ自体のあり方についても議論がなされるべきである。

私、宴は終わったがは、皆様の叱咤激励なくしてコラム・エッセーはないと考えています。どうかよろしくご支援のほどお願い申し上げます。
脚注
(※1)
(※2)
(※3)
(※4)
(※5) 2025年3月23日 東京新聞 1P
(※6)
(※7) (※2) 前掲
(※8)
(※9)
(※10) ネットで検索しただけでも未だ障害者の選挙権、被選挙権を行使するための十分な制度的保障が確立されている状況にあるとは言えないことがわかる。
(※11)
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