見出し画像

「製薬者から、突然がん患者になった日」—社長である前に、一人の人間として―棚瀬連載第10回

藤沢薬品¹現アステラス製薬が開発した免疫抑制剤
FK506(タクロリムス)²《連載第2回(note記事)》から
誕生したアトピー性皮膚炎薬、|プロトピック軟膏³《連載第3回》

日本での開発に携わった棚瀬は、
グローバルプロジェクトマネジャーとして、
FK506外用剤(後のプロトピック軟膏)
|米国・欧州での展開に従事しました《連載第57回(note記事)》。

その後会社を離れ、
バイオベンチャーの社長に就任した私の元に
衝撃的なニュースが届きます。

前回までの連載はこちらから


それまでの私は、
医師と議論し、治験を動かし、
新薬を「患者さんに届ける側」の人間でした。

まさか自分が、
「病気を告知される側」になるとは、
その時まで一度も考えたことがありませんでした。

2020年4月、突然の診断

ホジキンリンパ腫PET CT画像

2020年4月。
私はホジキンリンパ腫、ステージ4と診断されました。

青天の霹靂、
という言葉がよく使われますが、
正直に言えば、
頭が真っ白になったわけではありません。

不思議なほど、私は冷静でした。

なぜならその時、
私はバイオベンチャー企業の代表取締役社長として、
上場準備のまっただ中にいたからです。


辞めるべきか、続けるべきか

診断を受けた直後、
私の頭に浮かんだのは、
「自分はどうなるのか」ではありませんでした。

「この状況で、社長を続けていいのか」

それだけでした。

会社は、
社員の人生を背負い、
投資家の期待を背負い、
社会に対して責任を持つ存在
です。

そのトップが、
半年以上に及ぶ抗がん剤治療を受ける。

簡単な話ではありません。


治療と仕事、両立という選択

医師からは、
完全寛解の可能性は約60%だと説明されました。

61歳。決して低くない確率です。

私は治療を受けながら、
社長としての職責を果たす道を選びました。

逃げなかった、
というより、
逃げられなかった、
というのが正しいかもしれません。


抗がん剤治療の現実

診断の1か月後には、
抗がん剤治療が始まりました。

1回の治療で、4種類の抗がん剤を約5時間かけて体に入れる。
それを2週間ごとに、半年間。

副作用は想像以上でした。

全身の毛が抜け、
味覚が消え、
手足のしびれと倦怠感が続く。

2回目の治療後には、
白血球数が500未満、好中球は70まで低下しました。

ウイルスなどに感染すれば、
命に関わる数値です。


コロナ禍という、もう一つの不安

その頃、
世の中は新型コロナウイルスの感染拡大で、
不安に包まれていました。

3月には志村けんさん、
4月には岡江久美子さんが亡くなり、
社会全体が張りつめていました。

私は東京に単身赴任中で、
家族とは会えない日々が続きます。

それでも、
「みんながマスクをしている今なら、自分も感染リスクを抑えられる」

そんな、
今思えば少し楽観的な気持ちもありました。


仕事が、心を支えてくれた

体はつらかった。
正直、何度も弱音を吐きそうになりました。

それでも、
PCを開き、
会議に出て、
判断を下す。

仕事をしている時間だけは
自分が「患者」ではなく、「社長」でいられる。

それが私の心を保ってくれました。


限界と、入院

治療開始から半年が過ぎた頃、
ついに副作用が限界に達しました。

2020年10月、
私は東京・三井記念病院に入院します。

61歳にして、初めての入院生活でした。


医療従事者への、深い感謝

そこで私が目にしたのは、
医師、看護師、薬剤師、
栄養士、リハビリ担当の方々の、
献身的な姿でした。

誰一人、
怒った顔を見せることはありませんでした。
どれだけ忙しくても、
どれだけ疲れていても、
患者に寄り添い続ける。

私は、
「医療を支えているのは、人だ」
という当たり前の事実を、
身をもって知ることになります。

そして彼らは、
患者である私に、確かな笑顔を与えてくれました。


次回へ

この入院生活の中で、
私は多くのものを失い、
同時に、多くのものを受け取りました。

次回は、
退院後のリハビリ、
そして医療従事者の皆さんへの感謝、

さらに——
私の人生を大きく変える”出会い”について、
書いてみたいと思います。


執筆者:棚瀬 敦

藤沢薬品工業株式会社(現アステラス製薬)にてセファロスポリン、タクロリムスの臨床開発、
タクロリムス外用剤のグローバルプロジェクトリーダー、アストラゼネカ株式会社では
プロダクト開発リーダー部の部長として、オラパリブ、エソメプラゾールなど様々な治療薬の
開発リーダーを兼務しながらすべての国内開発品目の責任を負う。欧米赴任歴6年間。
その後大手CROsのVP/執行役員、マルホ株式会社の執行役員兼欧米子会社取締役を歴任。
2018年から3年間、株式会社レナサイエンス代表取締役社長を務め、ATインターナショナルを
設立(xCAREに吸収合併)。現在は弊社取締役COOの他、複数のバイオベンチャー企業顧問、
監査役、アカデミアアドバイザー等を併任。

【これまでの連載はこちらから】


【xCAREとは】

xCAREは医薬品・医療機器業界に特化した専門家プラットフォームです
私たちは、医療業界に必要なプロダクトを1日も早く人々へ届けるため、医薬品・医療器業界で働く方々を中心とした、人財プラットフォームを構築しています。
海外300名、国内500名近くの医療業界の専門家(エキスパート)が登録されていて、エキスパートの方々と共に、既に100社を超える企業を支援させていただいております。
私の役目は、社員やエキスパートが、毎日楽しく、高いモチベーションで社会に貢献していただける世界を作ることだと思っています。
これからもどんどんエキスパート数を増やしていき、お客様がより使いやすいプラットフォームを目指していきます。

「医薬品・医療機器の研究開発を行っている企業様へ」

「医薬品・医療機器業界で働く方へ」