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なぜ、みんなが羨む海外駐在を、5年半で自ら手放したのか?|ベルギー駐在から学んだキャリアの本質

海外駐在? もし選ばれたら、ぜひ ”自信を持って” 断ってもいいんですよ。

これが私の経験をもとにした結論です。

そんな私は、社会人になりたての頃、絶対に海外で働きたいと思っていました。日系の大手空調メーカーに入社後、念願かなって、新卒3年半で海外駐在に抜擢されました。結果、ベルギーで5年半、州・中東・アフリカを担当する人事マネージャーとして働きました。

ボロボロになったパスポートを持って、キャリーケースを引く。世界を飛び回る。そんな憧れの姿は、確かに現実に存在しました。私も、欧州全域、ドバイ、サウジアラビアなど、飛び回っていましたから。

「海外駐在、羨ましいです」

海外駐在中も、帰国してからも、何度もそう言われてきました。このnoteでは、 そんな私があえて「もう海外には行かない」と決めた理由について書いています。

海外駐在を目指している方、すでに海外で働いていてこの先のキャリアに悩んでいる方に読んでいただきたい内容です。


1. 「海外駐在、羨ましいです」と言われるたびに感じること

駐在員は、生活面でも恵まれていましたし、お金も貯まりました。休日にはヨーロッパ各国を旅行できましたし、何より、海外子会社という環境でマネジメントとして采配を振るう経験ができたことは、大きなやりがいでした。

「海外駐在、羨ましいです」と言われるたびに、正直、その気持ちはよくわかります。お金は貯まりますし、国によっては生活も楽しい。マネジメントの経験も積める。そのまま海外駐在を続ける選択肢や、一度帰国してから、また海外に戻るという選択肢は、悪くないように見えます。

でも、いま自分は、あえて「もう海外には行かない」と決めています。

2. 一度だけ、本気で迷った異動の話

正直に言うと、一度だけ、本気で迷ったことがあります。ベルギー駐在中、中東欧にある工場への横異動の話をいただいたのです。欧州はいるだけで楽しいですし、欧州の東側の国で働くことで、視野もさらに広がるかもしれない。心は揺れました。

他方で、同じ時期に、日系他社で知り合った同じ職種の知人たちが、次々と帰国して、外資などに華々しい転職や昇進を遂げていく姿も見ていました。正直、「自分もああなりたい」と、焦りに近い感情を持ったこともあります。

東欧への異動は、同じ事業部内での横異動である以上、「本当に自分にとってプラスになるのか」を、一度立ち止まって考えました。結果、やはり、ベストではないと考えたのです。役割の質が上がるわけではなく、場所が変わるだけの異動だったからです。以前、「23歳で残り9、40歳で残り5」というキャリアブロックの記事で、自分のキャリアの運転席に会社を座らせるな、という話を書きましたが、この時の判断は、まさにその実践でした。

3. 「海外駐在=選ばれし者」、でもその先にあるもの

日本企業で働いていると、「海外駐在=選ばれし者」というイメージを持ちます。これは、ある意味で正しいです。海外駐在にはコストがかかります。だからこそ、機会が与えられるのは、一部の人だけです。

  • すでに国内でパフォーマンスを出していて海外でも活躍できそうな人

  • 若手だが、ポテンシャルが高そうであり、これから爆伸びしそうな人

このへんが選ばれやすいです。以前、優秀な人材の特徴という記事で、成長への「渇望」や、自らしんどいゾーンに踏み込めるかという基準を紹介しましたが、同じ傾向がある人は、海外駐在に選ばれやすいと感じています。

しかし、選ばれること自体は、ゴールではありません。自分とほぼ同じ時期に欧州に駐在し、10年以上経った今も海外にいる人たちがいます。多くはキャリアアップというよりも、平行異動のままの継続です。もちろん、海外拠点をぐるぐる回りながら、そのままエグゼクティブ(本社の役員クラス)になっていく人もいます。でも、確率的に見れば、選抜された海外駐在員の中の、さらに限られた人だけ。ほんの一握りです。多くのケースは横異動でグルグル回り続けるのです。

4. 駐在が長引くほど大きくなる、子どもの教育への影響

海外で働き続けると、キャリア以外にも、大きな影響が出ます。代表的なものが、子どもの教育です。自分自身、上の子を現地校に通わせていましたが、日本語の習得にビハインドが出ました。うちの場合、2歳から6歳末まででしたが、思っているよりも、影響が出ていて、帰国してから苦労しています。

漢字・ひらがな・カタカナを使いこなし、ハイコンテクストな文脈 (言葉にされていない文脈や空気を読む必要がある) で言葉を扱う力は、駐在が長期化するほど、育ちにくくなります。同じように長く駐在していた元同僚からも、同じ悩みを何度も聞いてきました。海外にルーツを持つ子どもの日本語教育支援は、公立学校でも年々ニーズが増えている分野で、対応する教員・支援員の育成が追いついていないという指摘もあります。駐在期間中の教育設計は、キャリア設計と同じくらい、早めに考えておくべきテーマだと感じています。

5. 現地の人材が育たないという構造の問題

もうひとつ、駐在中に強く感じたことがあります。日本企業は、いまだに日本人を海外に派遣するスタイルが中心です。しかし、これでは、現地の幹部人材が育ちにくいのです。自分を含め、日本人が海外に長くいすぎることは、多様な人材の登用にとって、むしろ障害になっているのではないか。そう感じるようになりました。

ベルギーのオフィスには、ベルギー人はもちろん、欧州の他国や中東出身のメンバーもいました。優秀な彼らと働きながら、「なぜ、ここは日本人でなければならないんだろう」と、何度も自問しました。実際、ジェトロが2025年8〜9月に海外82カ国・地域の日系企業7,485社を対象に行った調査でも、コスト削減や現地スタッフの活用による事業運営の効率化を目的に、現地採用への切り替え(ローカル化)を進める動きが広がっている一方、製造業を中心に技術指導や品質管理のために駐在員に依存し続けている実態も報告されています。

この点、グローバルの大手外資系企業は、はるかに先を進んでいます。以前、外資勤務と日系企業勤務で感じたグローバル人材のレベル感の差という記事にも書きましたが、日本人であることが何のアドバンテージでもない、本当の意味でダイバーシティが進んだ組織で働いてみたい、という思いが芽生えたのも、この頃です。

本当に重宝されるのは、「海外に行っている人」ではありません。海外の事情を理解しながら、本社・本部の立場で、グローバルレベルで指揮を振るえる人材なのです。現地に張り付いているだけでは、その景色には辿り着けませんし、現地の人材の成長機会も奪ってしまいます。

6. 現地にいなくても指揮が執れる時代になった

海外はもういいかな・・・と感じた理由がもう一つあります。コロナ禍をきっかけに、海外との仕事は、日本にいてもできるようになったということです。オンラインでのコミュニケーションが当たり前になり、「現地にいなければダメ」「行かなければダメ」という時代ではなくなっています。

今、必要とされているのは、日本にいながら、世界各国の拠点をつないでマネジメントができる人材です。現地にいることの価値は、以前より相対的に下がっている。だからこそ、無理に海外へ「戻る」必要はないと感じています。

7. 「責任と影響範囲」という自分なりのキャリア軸

東欧への異動を見送ったときも、いまも、自分の中の判断軸は同じです。海外に行くこと自体は、目的ではありません。それは、キャリアゴールに向かうための手段のひとつでしかない。もう一度海外に行くという選択肢自体、悪くはないと思っています。ただし、それが「目指すキャリアゴールに必要なピースかどうか」を、自分できちんとデザインできているかどうかが分かれ目です。

1回目は若手マネージャーとして経験を積むために行った。もし2回目行くなら、今度は大きめの子会社の経営層として行く。そうやって、駐在のたびに役割の質を引き上げ、次のピースへつなげていく設計ができていれば、何度海外に行っても構わないはずです。

自分がキャリアで大事にしているのは、「どこにいるか」ではなく、「どれだけの責任と影響範囲を持てるか」です。新卒3年半で駐在に抜擢されたときの自分は、「海外に行くこと」自体をゴールにしていました。でも今は、そのピースを次にどうつなげるかを考える方が、はるかに大事だと思っています。だから、海外で得た経験と視点を、もう一度海外に「戻る」のではなく、本社に「持ち帰る」ほうを選びました。

8. 本部を目指すことだけが正解ではない

念のため、誤解のないように書いておきます。本部に戻って、昇進していくことだけがすべてというわけではありません。

自分は、あくまで現場のほうがいい。海外のほうが働きがいがある。手当もつくし、それも悪くない。そう思うのも、もちろんアリです。そういうキャリアの選択肢も、間違いなく存在します。もし帯同するご家族、あるいは日本に残すご家族が、その選択に理解を示してくれるなら、それもまた、立派な「アリ」だと思います。

大事なのは、「海外に行くこと」自体を無意識に目的化していないか、一度立ち止まって考えることだと思っています。

9. まとめ:海外に行くことより、大事なこと

今回のポイントを整理すると、

  • 海外駐在は「選ばれし者」の証である一方、選ばれること自体はゴールではない

  • 中東欧への横異動を見送ったのは、「役割の質が上がるかどうか」で判断したから

  • 駐在が長引くほど、子どもの日本語習得など、キャリア以外への影響も大きくなる

  • 日本人が海外に長くいすぎることは、現地人材の成長機会を奪う構造的な問題にもつながる

  • コロナ禍以降、現地にいなくても世界をマネジメントできる時代になった

  • 大事なのは「どこにいるか」ではなく「どれだけの責任と影響範囲を持てるか」

たしかに、悪くない経験でした。あの中東欧への異動を受けていたら、また違う景色が見えていたかもしれません。でも、それをゴールにしてしまうと、たらい回しにされ、塩漬けにされるリスクにも、現地の人材の芽を摘んでしまうリスクにも、気づけません。

海外に「行くこと」ではなく、そこで得たものを、次にどうつなげ、どれだけ広い範囲に責任を持てるか。それが、自分にとってのキャリアの本質だと思っています。

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