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#12 税務はOKなのに社会保険でNG?評価が逆転するケースを解説

― 借上社宅で見落とされる“判断基準のズレ” ―


※本記事は借上社宅制度シリーズの一部です。

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【ご留意事項】
本記事は、借上社宅制度に関する一般的な情報提供および制度理解を目的として作成しています。記載内容は、一般的な制度上の考え方や実務上の整理を説明するものであり、特定の状況に対する税務・法務・労務上の判断、助言または保証を行うものではありません。

実際の運用にあたっては、会社ごとの制度設計・契約内容・運用実態等によって取扱いが異なる場合があります。個別案件については、必ず税理士、社会保険労務士、弁護士、または管轄の行政機関等へご確認・ご相談ください。

また、制度改正や行政解釈等により、将来的に取扱いが変更される可能性があります。最新情報については、国税庁・厚生労働省等の公表情報をご確認ください。
内容の正確性には十分配慮しておりますが、本記事に基づいて生じたいかなる損害等についても責任を負いかねます。



1.■ はじめに

借上社宅制度について考えるとき、
「一定の従業員負担を設定しておけば、給与課税されない」
という税務上の取扱いをイメージする方は多いかもしれません。
 
しかし、借上社宅には税務だけでなく、
社会保険上の現物給与という別の考え方があります。
 
そのため、実務では、税務上は給与課税されない
 
一方で、
社会保険上は住宅の一部が現物給与として報酬に含まれる
というケースが生じることがあります。
 
一見すると、
「税務ではOKなのに、なぜ社会保険ではNGなのか?」
と感じるかもしれません。
 
ただし、ここでいう「NG」とは、制度違反という意味ではありません。
 
税務上は給与課税が生じない一方、
社会保険では現物給与として評価されることがある

という、制度上の取扱いの違いを意味しています。
 
なぜ、このような違いが生じるのでしょうか。
 
今回は、借上社宅を理解するうえで重要な、
「所得税」と「社会保険」の評価基準の違いについて整理します。


2.■ 税務と社会保険では判断基準が異なる

最初に押さえておきたいのが、
所得税と社会保険では、住宅を評価するためのルールが同じではない
ということです。
 
大きく整理すると、
所得税
→ 税務上の「賃貸料相当額」を基準に確認
 
社会保険
→ 社会保険上の「住宅の現物給与価額」を基準に確認
という違いがあります。
 
つまり、同じ住宅、同じ家賃、同じ従業員負担額であっても、
それぞれ別の「ものさし」で評価されるということです。

そのため、
「所得税で給与課税されないから、社会保険でも現物給与にならない」
とは限りません。
 
借上社宅を正しく理解するには、税務と社会保険を分けて考える必要があります。
 
 
[参考]同じ借上社宅でも、所得税と社会保険でなぜ評価方法が異なるのか
               は、こちらの記事で基本から整理しています。
【Q&A|現物給与評価は所得税と社会保険で違うのですか?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方


3.■ 税務では「賃貸料相当額」が基準になる

会社が使用人へ社宅や寮などを貸与する場合、
所得税では賃貸料相当額という基準が使われます。
 
ここで重要なのは、
実際に会社が貸主へ支払っている家賃を、そのまま基準にするわけではない
ということです。
 
一般的な使用人社宅の場合、賃貸料相当額は、
 ・建物の固定資産税の課税標準額
 ・土地の固定資産税の課税標準額
 ・住宅の床面積
などをもとに、税務上定められた方法によって計算されます。
 
そして、使用人から受け取っている家賃が、
賃貸料相当額の50%以上
であれば、
原則として会社負担部分が給与として課税されない取扱いとなります。
 
反対に、従業員負担額が賃貸料相当額の50%未満となる場合には、
税務上の給与課税について別途確認が必要になります。
 
ここでのポイントは、
「会社が実際の家賃の何%を負担しているか」で判断する制度ではない
ということです。
 
例えば、
 「実際の家賃の30%を本人負担にしているから大丈夫」
 「半分を会社が負担しているから問題ない」
といった考え方だけでは、税務上の取扱いを判断することはできません。
 
実際の家賃ではなく、
税務上計算した賃貸料相当額と従業員負担額との関係を確認すること

が基本になります。
 
 
[参考]税務上の「賃貸料相当額」がどのような金額なのか、計算の考え方
               や50%基準を詳しく確認したい方はこちらをご覧ください。
【第13回|借上社宅の賃貸料相当額とは?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方


4.■ 社会保険では「住宅の現物給与価額」が基準になる

一方、社会保険では考え方が異なります。

健康保険・厚生年金保険では、
現金で支給される給与だけではなく、住宅や食事など、
金銭以外の形で受ける一定の利益も「現物給与」として報酬に含まれる
場合があります。

 
借上社宅も、その一つです。
住宅については、
厚生労働大臣が定める住宅の現物給与価額を基準として評価します。
 
そして、
住宅の現物給与価額から
従業員が負担している社宅使用料等
を反映し、社会保険上の現物給与額を確認していきます。
 
例えば、
 ・住宅の現物給与価額:40,000円
 ・従業員負担額:25,000円
であれば、基本的には、
40,000円-25,000円=15,000円
という差額を、社会保険上の現物給与として整理することになります。
 
一方、
 ・住宅の現物給与価額:40,000円
 ・従業員負担額:40,000円以上
であれば、
住宅について社会保険上の現物給与として加算する額は生じない、
という構造になります。
 
つまり社会保険でも、
会社が実際に支払っている家賃そのものではなく、
制度上定められた評価額を使う

という点が重要です。
 
 
[参考]社会保険で住宅をどのように金額評価するのか、
            「住宅の現物給与価額」の基本はこちらの記事で整理しています。
【Q&A|住宅の現物給与価額とは何ですか?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方


5.■ なぜ「税務はOK・社会保険では現物給与」が起きるのか

ここまで整理すると、理由は比較的シンプルです。
 
所得税では、
賃貸料相当額
を基準に従業員負担額を確認します。
 
一方、社会保険では、
住宅の現物給与価額
を基準に従業員負担額を確認します。
 
この2つは、計算方法も制度目的も異なる別の評価額です。
 
したがって、
税務上求められる水準の従業員負担をしていても、
社会保険上の住宅の現物給与価額に対しては、その負担額が足りない
というケースが生じることがあります。
 
これが、
 「税務上は給与課税なし」
 「社会保険上は現物給与あり」

という、いわゆる「評価の逆転」が起きる基本的な理由です。
 
重要なのは、
どちらかの計算が間違っているわけではない
ということです。
 
それぞれが、それぞれの制度上の基準に基づいて評価しているため、異なる結果になることがあります。


6.■ 具体例で考える「評価の逆転」

簡略化した例で考えてみます。
 
ある借上社宅について、
・実際の家賃:120,000円
・従業員負担額:30,000円
だったとします。
 
さらに、仮に、
・税務上の賃貸料相当額:40,000円
・社会保険上の住宅の現物給与価額:50,000円
だったとします。
 
税務上の確認
賃貸料相当額が40,000円であれば、その50%は20,000円です。
従業員は30,000円を負担していますので、
30,000円 > 20,000円
となります。
 
したがって、一般的な使用人社宅の取扱いを前提とすれば、
税務上は一定の要件を満たしていると整理できるケースが考えられます。
 
社会保険上の確認
一方、
住宅の現物給与価額が50,000円で、従業員負担額が30,000円であれば、
50,000円-30,000円=20,000円
となります。
 
この場合、社会保険では
20,000円が住宅の現物給与として報酬に含まれる可能性があります。
 
同じ住宅・同じ従業員負担額でも、
税務では給与課税なし
社会保険では現物給与20,000円
という結果になるわけです。
 
※上記は制度構造を説明するために単純化した例です。
実際の取扱いは個別の条件等によって異なる場合があります。

[参考]「住宅の現物給与価額」と、従業員負担を反映した後の「現物給与額」  
    は別の金額です。両者の違いはこちらで整理しています。
【Q&A|住宅現物給与価額と現物給与額は何が違いますか?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方


7.■ 広い住宅では違いが表れやすくなる

この「評価の逆転」を考えるうえで、
今後特に意識したいのが住宅の広さです。

2026年10月1日から、
社会保険における住宅の現物給与価額の算出方法が変更されます。
 
従来は、
居住面積1畳当たりの価額
を基準としていましたが、改正後は、
住宅の総面積1㎡当たりの価額
を使って算出する方式へ変更されます。
 
このため、改正後は住宅の総面積が現物給与価額を算定するうえで、
より直接的に関係する仕組み
となります。
 
例えば、
 ・単身向けの比較的小さな住宅
 ・ファミリー向けの広い住宅
では、同じ従業員負担ルールを採用していても、
社会保険上の現物給与額に違いが生じる可能性があります。
 
一方、所得税では、
固定資産税の課税標準額や床面積などを用いて賃貸料相当額を算定します。
 
したがって、
「広い住宅だから、税務と社会保険の両方が同じ割合で上がる」
という関係にはなりません。
 
ここにも、両制度の評価基準の違いがあります。


8.■ 地方の住宅でも「家賃が安い=社会保険も低い」とは限らない

借上社宅では、
「地方は家賃が安いから、会社負担も社会保険への影響も小さい」
と考えられることがあります。
 
しかし、必ずしもそうとは限りません。
社会保険では、実際の家賃そのものを住宅の現物給与価額として使うわけではないためです。
 
例えば、同じ家賃10万円でも、
都市部では比較的小さな住宅になる一方、
地方ではより広い住宅を借りられることがあります。
 
2026年10月以降は総面積を用いて住宅の現物給与価額を計算するため、
市場家賃が安いことと、社会保険上の住宅の評価額が同じ割合で低くなる
ことは必ずしも一致しません。

 
もちろん、社会保険の現物給与価額には都道府県ごとの価額も関係します。
 
そのため、
 「地方だから有利」
 「都市部だから不利」

と一律に判断するのではなく、
適用する都道府県の価額・住宅の総面積・従業員負担額を実際に確認する
ことが重要です。


9.■ 「会社負担を増やせば有利」とは限らない

借上社宅では、会社負担を大きくすれば、
その分だけ従業員の住居費負担を小さくできます。
 
そのため、
「会社負担を増やせば増やすほど有利」
と思われることもあります。
 
しかし、社会保険まで含めて考える場合には注意が必要です。
社会保険上の住宅の現物給与価額は、会社と従業員が自由に決める金額ではありません。
 
その一方で、
従業員負担額は、会社の社宅制度によって設定されることが一般的です。
 
そのため、従業員負担額を下げていくと、
住宅の現物給与価額 > 従業員負担額
となり、その差額が社会保険上の報酬として扱われる可能性があります。
 
つまり重要なのは、
「会社が家賃の何%を負担しているか」だけではありません。
 
税務では、
賃貸料相当額との関係
 
社会保険では、
住宅の現物給与価額との関係
を、それぞれ確認する必要があります。
 
 
[参考]従業員負担額を決める基本的な考え方については、
               こちらの記事で詳しく整理しています。
【Q&A:社宅の家賃は何%負担(社宅使用料)なら妥当ですか?】
⚖ 税務・社会保険を詳しく知りたい方


10.■ 2026年10月改正で確認したいポイント

2026年10月1日から、住宅の現物給与価額の算出方法が変更されます。
 
この改正によって確認したいのは、
「税務上の取扱いが変わるか」だけではありません。
 
今回の改正は社会保険上の住宅の現物給与評価に関するものであるため、
税務上の賃貸料相当額の考え方とは別に確認する必要があります。
 
そのため、
これまで、
税務上の基準を満たしている

社会保険上の現物給与もほとんど発生していない

という会社であっても、
改正後の住宅の現物給与価額を再計算すると、
社会保険上の現物給与額だけが変化する
可能性があります。
 
特に、
 ・比較的広い住宅
 ・ファミリー向け住宅
 ・従業員負担額を低く設定している住宅
などについては、改正後の評価額を確認しておくことが重要です。
 
 
[参考]2026年10月改正で住宅の現物給与評価が具体的にどう変わるのか、改正前後の違いはこちらの記事で整理しています。
【2026年10月改正|借上社宅の現物給与(社会保険)が変わる?】
📅 制度改正
 

ただし、
現物給与額が増えたからといって、
必ず直ちに社会保険料が上がるとは限りません。

 
実際の社会保険料への影響は、現金給与等と合算した報酬や標準報酬月額、資格取得時決定・定時決定・随時改定等との関係も含めて確認する必要があります。


11.■ 実務では何を確認すればよいのか

借上社宅制度を運用する際には、
「税務上問題がないか」だけで確認を終わらせない
ことが重要です。
 
一般的には、次のように分けて確認すると整理しやすくなります。
実際の家賃を確認する

従業員負担額を確認する

税務上の賃貸料相当額を確認する

税務上の取扱いを確認する

社会保険上の住宅の現物給与価額を確認する

従業員負担額を反映し、現物給与額を確認する

必要に応じて標準報酬月額等への影響を確認する
 
このように、
税務と社会保険を別々に計算したうえで、最後に制度全体として確認する
という流れが重要になります。
 
また、会社としては、
 ・社宅使用料の設定方法
 ・家賃上限
 ・対象となる住宅
 ・住宅の広さ
 ・勤務地や都道府県
 ・給与システムへの反映方法
なども含めて整理しておくと、制度を安定して運用しやすくなります。
 
 
[参考]税務・社会保険だけでなく、社宅使用料や対象者、運用ルールまで
              含めた制度設計の考え方はこちらの記事で整理しています。
【第3回|借上社宅に社宅規程は必要?】
🛠 制度設計を学びたい方


12. ■ よくある誤解

「税務上非課税なら、社会保険でも対象にならない」
所得税と社会保険では評価基準が異なるため、税務上給与課税されない場合でも、社会保険上は現物給与が発生することがあります。


「家賃の50%を本人が負担していれば大丈夫」
一般的な使用人社宅の所得税上の50%基準は、実際の家賃の50%ではなく、税務上計算する賃貸料相当額の50%です。
 
また、社会保険では別の評価基準を使用します。


「地方は家賃が安いから、社会保険の評価額も必ず低い」
実際の家賃と住宅の現物給与価額は別のものです。
 
特に2026年10月以降は総面積を用いるため、住宅の広さや都道府県ごとの価額を確認する必要があります。


「現物給与が発生したら、必ず社会保険料が上がる」
現物給与は社会保険上の報酬に含めて整理しますが、
社会保険料への影響は標準報酬月額等との関係によって異なります。
 
現物給与の発生と、実際の保険料変更は分けて考えることが重要です。


13. ■ まとめ

借上社宅制度で、
「税務上は給与課税されないのに、社会保険では現物給与が発生する」
というケースが生じる最大の理由は、
所得税と社会保険では、住宅を評価する「ものさし」が異なるからです。
 
所得税では、
賃貸料相当額を基準として確認します。
 
一方、社会保険では、
住宅の現物給与価額を基準として確認します。
 
そのため、同じ住宅・同じ従業員負担額であっても、
税務上の結論と社会保険上の結論が一致するとは限りません。
 
また、2026年10月1日からは、社会保険上の住宅の現物給与価額について、
居住面積1畳当たりの価額から、総面積1㎡当たりの価額を用いる方式へ変更
されます。
 
これまで現物給与の影響が小さかった住宅についても、
改正後の評価額を改めて確認することが重要になります。
 
借上社宅制度を考える際には、
 ・実際の家賃
 ・従業員負担額
 ・税務上の賃貸料相当額
 ・社会保険上の住宅の現物給与価額
を混同せず、それぞれ別の金額として整理することが大切です。
 
そして、
「税務上問題がないから制度設計は完了」と考えるのではなく、
税務・社会保険・従業員負担・社宅規程を含めて、
制度全体として確認する
ことが、
借上社宅制度を安定して運用するうえで重要なポイントになります。
 
借上社宅は、
会社と従業員の双方にメリットをもたらす可能性がある制度です。
 
一方で、制度ごとに異なる評価基準を理解せずに運用すると、
想定していなかった給与課税や現物給与が生じる可能性もあります。
 
「税務」と「社会保険」は同じ住宅を別々の基準で見ている。
この点を押さえておくことが、借上社宅制度を理解するうえで重要です。


次回予告
次回は
「借上社宅の賃貸料相当額とは?」
について整理していきます。


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借上社宅制度について、
 「基礎から順番に学びたい」
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【借上社宅制度研究の羅針盤|総合案内】

制度の基本から、教科書・実務Q&A・税務・社会保険・制度改正・
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■ 本シリーズについて
借上社宅制度は、税務・社会保険・規程設計など、
複数の論点が関係する制度です。
そのため、同じように見えるケースでも、
前提条件や制度設計によって整理の方向性が変わることがあります。

本シリーズでは、
制度理解や実務整理の参考となるよう、
全体像をできるだけ分かりやすく整理して発信しています。

現在は情報発信を中心としていますが、
今後は制度運用に関する実務上のコミュニケーションの場も
広げていければと考えています。

なお、記事テーマに関するご質問やご感想があれば、
コメント等でお寄せいただけますと、
今後の発信の参考にさせていただきます。


著者
Yoshihiko Tagawa|借上社宅制度の研究家

借上社宅制度について、制度運用や社宅管理の観点から
情報整理・発信を行っています。

毎月3000戸超の社宅運営に携わる中で、
借上社宅制度の運用面・管理面に関する情報整理を行ってきました。

本noteでは、借上社宅制度に関する一般的な仕組みや運用上の考え方を
情報整理を目的としてまとめています。
借上社宅制度にはメリットがある一方で、
運用方法や会社ごとの事情によって、税務・労務上の取り扱いが異なる場合があります。

中小企業の制度理解や運用整理に役立つ視点で発信しています。

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