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見学のつもりが見学された話 〜村長「その時計、くれ」〜

前回の記事はケニヤでのエピソードでしたので、続けてケニヤのお話です。


腕を持ち上げられた。

マサイ族の村を訪れた時のことだ。
案内してくれたガイドさんが「あの方が村長です」と教えてくれた、その矢先だった。
見学に行ったつもりが、あっという間に村人たちにぐるりと取り囲まれていた。
見ているのか見られているのか、途中でよく分からなくなった。


年配の村長が私に近づいてきて、そっと私の腕を取った。
見ているのは、腕時計だった。

「いい時計だな」

雑貨屋で買った、安い時計だった。かわいらしいデザインだったので珍しかったのかもしれない。
それでも悪い気はしなくて、「ありがとう」と返した。
すると村長は、こう続けた。

「くれ」

一瞬、頭の中が真っ白になった。
村長の威厳はどこへ、と思わず突っ込みたくなったけれど、もちろん時計は渡さなかった。
その代わり、日本から持ってきたボールペンや飴を差し出した。
今回の旅行では、何かを教えてもらったり、写真を撮らせてもらったりするたび、手をさっと差し出してくる人には、お礼として小さなものを渡すようにしていた。
お金ではなく、モノで。

中でも喜ばれたのは、折り紙だった。
その場で鶴を折って渡すと、みんな目を輝かせた。
たかが紙一枚が、こんなに喜んでもらえるのかと、こちらが驚いたくらいだ。

それ以来、海外に行く時は必ず飴と折り紙を持っていく。
国が変わっても、言葉が通じなくても、この二つはいつも大歓迎され、目の前の人の笑顔が見られる。



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