銀河フェニックス物語<出会い編> 第三十一話(15) 恋の嫉妬と仕事の妬み
・第一話のスタート版
・第三十話 まとめ読み版① ② (11)(12)(13)(14)
* *
十五階の部屋に再び沈黙がおとずれた。
ティリーは犯人のワトキンスの隣で小さくため息をついた。
フイールが、盗まれた情報で作られていたとは知らなかった。コッペリ社のバッハさんと若い男性社員はうつむいている。
ワトキンスさんは、わたしに銃を向けながら説明を始めた。
「わしは、XKZの発見当初から十年に渡り研究していたんだ。その性質が、速乾洗剤に使えることをわしが見つけ、ハルタナ社で研究を重ねてきた。だが、わしの部下だったロットリンダが、その情報をもってコッペリ社に引き抜かれたんだ」
「そうだったんですか」
イケメンすぎる研究者の、さわやかな笑顔が頭に浮かんだ。

人は見かけによらないものだ。
ロットリンダ研究員は誠実そうな人に見えた。
うちの課の契約を、スルリと横取りしたサブリナの面影と重なった。
「そして、コッペリ社は、わしより先にXKZを使った洗剤の特許を申請した。産業スパイの裏切りにあわなければ、高速速乾洗剤は本当はハルタナ社から売り出せたんだ」
「それは違います」
バッハさんが口を挟んだ。

「何が違うんだ? コッペリ社はXKZについて研究をしたこともなければ、着想すらしていなかった。ロットリンダが転職してから開発を始めたんだ。間違っているか?」
ワトキンスさんがすごい剣幕で怒鳴った。怖い。
「い、いえ、その通りです」
バッハさんが下を向いた。
「わしが研究にかけた十年の時間も、会社の資金も、すべてコッペリ社のフイールにかっさらわれた。汚い産業スパイのせいで、研究所にわしの居場所はなくなり、わしはハルタナ社を辞めざるを得なくなった」
若いロットリンダ研究員は、時代の寵児ともてはやされていた。
頭が良くて、格好良くて、フイールが売れて、商品番付で一位を取って、お金も名声も得た。
その裏で、ワトキンスさんは泣いていたのだ。
癇癪持ちのさえないおじさんにしか見えないけれど、ずっと頑張ってきたに違いない。
ぼんやりと考える。新型船七隻の販売で、サブリナは部内表彰をうけるんだろうな。

わたしはここで死ぬかもしれないのに。
どこにでも要領がいい人はいる。卑怯な人がおいしい思いをする。世の中は理不尽だ。
「お辛いですね」
自然に言葉が出ていた。
「わかるか」
「はい」
情報を盗んだロットリンダ研究員も、それで大儲けしたコッペリ社もひどい。ワトキンスさんに同情する。
「わしはその事実を、もっと多くの人に知ってもらいたいんだ」
「お気持ちはわかります。でも、このやり方はよくないと思います」

「うるさい!」
怒鳴られてわたしは肩をすくめた。
* *
おいおい、ティリーさん。頼むから犯人を刺激しねぇでくれ。
俺の心臓に悪い。
これだから真面目なアンタレス人には参るぜ。

コッペリ社の地下一階警備室で、現場の音声を盗聴していたレイターにアーサーから連絡が入った。
「レイター、七階へ行け」
「七階? 立てこもりの十五階じゃねぇのかよ」
「今、リアルタイム動画を送る」
アーサーから送られてきた映像を携帯通信機で再生する。
午前中に俺が張り付けた、集積カメラの映像だ。
コッペリ社の防犯システムとは別だから、きちんと機能していた。
さすが俺の仕事だ。綺麗に撮れてる。
全員退避したはずの本社内を、男が二人うろついていた。
七階にある耐火ロッカーを開けようとしている。フイールの開発資料が入ったロッカーだ。 (16)へ続く
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」
レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」
ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」
レイター「なんか、すげぇな……」