#創作大賞、読むぞ 宣言⑥『この席使用中です』花丸恵さん
花さん、大きく踏み込んだなと思いました。思い切って飛んだ先には肥沃な未来が開けていました。新境地なのではないでしょうか。
『この席使用中です 大事な小箱』 花丸恵さん
○いけ好かない登場人物
私は登場人物に腹を立てることはあまりないのですが、この作品の有祐には「うーん」と思いました。セリフも行動も「なんだこいつは」という感じです。
結婚したパートナーにも出会った頃から「どこかおかしな男」とか「子どもみたい」だと言われます。しかもこれはごく控えめな評価です。
考えてみたらそんなに腹が立ったら普通、読むのをやめるのですが、なぜか有祐の存在が気になりました。
その時点で作者の術中にはまっていたのかもしれません。
視点が章ごとに変わるこの小説、気づいてみたら私は有祐が視点人物になる
第三章「大事な小箱」を探して読んでいました。
有祐に長い言い訳をされているようでした。それなのに、まあ許してやるか、という心持ちになってくるのが作者の筆力のなせる技です。
しかしそこで思わぬ展開が待っています。
作者が用意した、あるエピソードが大きく印象を変えるのです。小説の盤面をひっくり返したと言っても良いです。
辛い過去です。
でも作者はそれが書きたかったのでしょう。書かなければならなかったのだと思います。
ストーリー上は、そこまでしなくとも、きつめのトラブルや思い出したくない程度の過去で良かったはずです。
作者はそれでは満足しなかったのでしょう。あえて厳しい設定を選んだ。
そこに小説を書く者の覚悟を感じました。
○多視点の人物の書き分けが見事
視点を持つ人物を複数にするのは難しいです。小説の世界を様々な角度から見ることができる代わりに、視点人物が薄っぺらになりがちです。
特に自分とは逆の性別や、異なる境遇の人物の個性を描くのは力量がいります。
視点人物を書き分けるには豊富な経験、強い観察力が必要なのです。
ヘアサロンのスタッフルームで、合間に啜るカップ麺と、一人になった部屋で啜るカップ麺とでは、やはり迫力が違う。
この迫力は、四方の壁がじりじり迫ってくるような《独り身》の圧迫感だ。カップのふちに口をつけ、わかりやすく出汁のきいたつゆを飲み込んだとき、有佑はこれまでにない、喉に引っかかるような重みを感じた。
これは「大事な小箱」の最初に描かれた有祐の心理描写です。実に上手いと思いました。人物の輪郭をくっきりと際立たせつつ、生活感をしっかり描写しています。こういうシーンがあるから先を読みたくなったのだと思います。
まだこの小説は未完です。
きっとこの小説は多くの方のレビューを集めるだろうと思います。
私もどこに連れて行かれるのか楽しみにしています。
○今週、気になった作品
妄想シティ 甘野充さん
アドリブ・ホテル 藤谷とうさん
奧深き和菓子の世界へようこそ 秋田柴子さん
以上、【#創作大賞、読むぞ 宣言】 6週目でした。また来週末に。
