フランス語検定1級に合格したのに、胸に残ったのは葛藤だった
フランス語検定(仏検)1級に、合格しました。
でも、合格の喜びよりも先に浮かんだのは、面接でのやりとりと、その後に残った葛藤でした。あの日から、私はずっと同じ問いを考え続けています。
2025年の目標は「フランス語検定1級に挑戦する」
2025年の目標として、私は「仏検1級に挑戦する」を掲げました。
私は、大学でフランス語を学び、フランスに短期留学をしたこともあります。仏検準1級までは、持っています。
でも、卒業後はフランス語を一切使わなくなり、ブランクが約25年。「今年こそはフランス語をやり直したい」という目標は、ここ5年くらいずっと(もっとかも)新年に立てては、いつしかフェードアウト・・・を繰り返していました。
だから今回は、「まずは準1級からやり直す」とか、「今年は準備して来年に挑戦すればいい」といった逃げ道は作らず、「1級を受ける」と宣言しました。やるしかない状況を、自分で作ったのです。
フランス語学習をやり直す
とは言え、準1級までしか合格したことがないのに、しかも25年ものブランクがあるのに、今年いきなり1級に合格できるなんて思っていません。
なので、試験対策はほぼ何もせず、ひたすら基礎を毎日続けました。
・簡単なフランス語教材を、丸暗記するほど聞く
・NetflixやYoutubeは、極力フランス語で見る
・会話レッスンで場数を踏む
・フランス語に触れる時間は、毎日3時間を目指す
という、いたって普通のフランス語学習をしてきました。いつも私が英語学習者の方に言っていることを、フランス語で実践しただけです。

会話レッスンは、Lingodaの「Super Sprint」という2ヶ月のコースを受講しました。
今年5月はフランス旅行に1ヶ月行き、「思う存分、フランス語を実践するぞー」と意気込んだものの、現地の人が全然フランス語で話してくれないという悲しい現実も、目の当たりにしました(苦笑)
仏検1級1次試験の結果
フランス旅行から帰国して数日後に受けた1次試験の結果は、予想に反して合格でした。

合格基準点は82点(満点150点)で、たった54%正解すれば合格ということになります。それでも、合格率は10.4%。合格基準点も合格率も、予想以上に低い試験なのだなと思いました。
2次試験対策はどうする?
フランス語検定1級の2次試験は、与えられたトピックから1つを選び、それについてのスピーチと質疑応答をします。英検1級と似たような感じです。
トピックの選択肢は2つなのですが、仏検の場合、例年では1つは一般的な話題、もう1つは時事問題のようです。たとえば
A. 今年のフランス大統領選についてどう思いますか?
B. 日本の学校の規則は厳しすぎると思いますか?
みたいな感じです。正直、フランス国内のニュースはほとんど追いかけていないので、時事問題は最初から捨てて、一般的な方を選ぼうと決めていました。
オーバーツーリズム、AIと教育、AIと雇用、そういった最近話題のテーマを中心に、ChatGPTを活用して何となく意見が言えるように準備をしました。この時期は仕事が忙しく、対策と言える勉強時間は、通算でわずか2時間ほどだったと思います。
仏検1級2次試験本番(7/20)

2次試験は、7月20日。参議院選挙の日でした。会場で受付を済ませると、控室に案内されました。開始時間が近づくと、係の方が呼びに来て、試験室の前の廊下の椅子に座らされました。
そして、試験開始から3分前になると、トピックカードを渡されました。
A. 広島被団協のノーベル平和賞受賞は、いいことだと思いますか?
B. 地球温暖化を止めるために、何ができると思いますか?
あれ、準備してたテーマと全然違う・・・
「時事問題はパス」と決めてたし、Bだな。
いやでも、「地球温暖化を止めるために」って、気持ちが全然乗らないテーマなんだけど・・・
じゃあ、Aの「広島の被団協がノーベル平和賞を受賞したのはいいことだと思いますか?」か?
広島出身の私には、こっちの方が話せそうかもしれない。でも、このトピックを語るのに必要な「軍隊」「核兵器」「抑止」という基礎的なキーワードが、フランス語ではパッと出てこないことに気づきました。
じゃあ、やっぱり地球温暖化か。地球温暖化というテーマなら、おそらく話題に出すべきなのは「再生可能エネルギー」だろうなと思いました。
ですが、たとえば、太陽光パネルが本当に地球温暖化防止になっているのか、私にはよくわかりません。むしろ、森林伐採が進み、環境が破壊され、あの大量の太陽光パネルのせいでもっと暑くなってる説すらあるんじゃ?と、素人ながら思っているくらいです。金儲け優先で、温暖化防止になってないんじゃないの?という思いがあるのを、否定できません。
私は環境の専門家ではないし、これは語学の試験なので、私の考えが正しいかどうかは重要ではありません。でも、「地球温暖化を止めるために何ができるか」という、そもそもの前提に疑問が残る問いを目の前にして、論理的にスピーチを組み立てられる自信がありませんでした。
わずかな時間で、私の視線は、トピックが書かれた紙の上下を行ったり来たりしました。
・・・決めた。「広島の被団協がノーベル平和賞を受賞したのはいいことだと思いますか?」にしよう。でも、私の意見は、面接官にはきっと受けが悪いだろうな。
そう思いながら、私は、残り少ない時間でポイントやキーワードを急いで紙にメモしました。
スピーチ
あっという間に、準備時間の3分が過ぎました。係官の方が「時間です」と言い、試験室に案内されました。挨拶をして部屋に入ると、フランス人女性と日本人男性が並んで座っていました。
面接のはじめは、自己紹介や交通手段などフリーカンバセーションがあるものと思い込んでいたのですが(英検1級ではあった)、名前を確認されたら、すぐに「どちらのトピックを選びましたか?」と本題に入り、面食らいました。
「広島の被団協がノーベル平和賞を受賞したのはいいことだと思うか、を選びました」
「では、3分でスピーチをしてください。どうぞ」
「この賞を被団協が獲得したのは良いことだと思います。この賞で、核兵器の被害を世界の人に広めることができます。広島や長崎で何が起こったのか、どれほど被害が大きかったのか、世界で知る人が増えるのは、とても良いことです。
ですが、私はこの賞が、日本の核兵器保有の議論をより遠ざけることになるかもしれないことを心配しています。
もしも日本が他国に攻撃されたら、アメリカは日本を守ってくれるのでしょうか。日本は、軍備に関して長くアメリカに依存してきました。もう戦後80年ですし、私たちも、新しい体制を築くことを考えるときに来ていると思います。
今日は選挙の日ですが、そのような主張をしている政党が注目を浴びています。ノーベル平和賞受賞は良いことだと私は信じていますが、一方で『日本は核兵器を持つべきではない』という意見に私は完全には賛同できません。
ですから、この受賞が、別の政治的な思惑に利用されないようにしないといけないと思います」
・・・といったことを述べました。もちろん、こんなにスラスラと話せたわけではなく、たどたどしく、詰まりながらなので、言いたいことがどれほど伝わったかわかりませんが。
質疑応答
続いて、質疑応答です。フランス人の女性面接官から質問がありました。
「でも、日本には軍隊はありませんよね。核保有も、難しいのでは?」
「はい。なので、憲法を変えるべきです」
私の答えを聞いて、フランス人の女性面接官はギョッとした顔をしたように見えました。
あ、いや、さすがに日本の核保有が非現実的なのは私も知っています。私が本当に言いたかったことは「憲法改正と核保有の議論をするべきかもしれません」くらいの控え目な意見です。
英語なら、仮定法とかを使って現実味がない話としてやんわりと言うべきところを、フランス語の能力不足のせいで、リアルなこととして直接的に言ってしまいました。
なので、慌てて「誰だって戦争は望まないし、憲法改正や核保有の議論も、目的はもちろん平和のためです」と補足しました。
他にもいくつか質問があり、あまり覚えていないのですが、あっという間に時間になり終了となりました。
もっと無難な意見を言えばよかった
部屋を出て、歩きながら、あ〜、ダメだったなと思いました。言いたいことの半分も言えなかったし、文法間違いも単語間違いもたくさんしました。でもそれより、「思っていることを正直に言うべきじゃなかった」という後悔が最初にありました。
これは語学の試験なので、「世界平和の実現のために、唯一の被爆国である日本は、核の恐ろしさを伝え続ける責任があります。世界の核が廃絶されるように、日本はリーダーシップを取っていかなければなりません」とか、無難な意見を言った方が良かったんじゃないかと思いました。
でも、3分という限られた時間で、しかも「地球温暖化」のテーマも全く自分にしっくり来ず、自分の本心とは違う「いい子ちゃん」の答えをまとめることが、不器用な私にはできなかったのです。
私は、日本の核保有に賛成の立場ではありません。「『平和のために核を持つ』なんて、そんなバカな話があるものか」と、もちろん思っています。
私はこれまでずっと、日本の核保有には反対でした。でも、それは「よく考えた結果の反対」ではなく、条件反射的な、「ダメに決まってるじゃない」という意見でした。
広島出身で、子どもの頃から「核廃絶」をずっと刷り込まれた人間として、その議論すらできない、疑問すら持ってはいけない、そういう思い込みにとらわれていたように思います。でも今、それが、変わりつつあります。
核問題が重くのしかかる
この面接の後、試験の合否はほとんど気にしていませんでした。ですが、日本の核保有という重いテーマが頭から離れず、自分の中で整理がつきませんでした。
私は広島出身だからこそ、本当に『日本は核兵器を絶対に持たない』でいいのだろうか、将来、二度と被爆国にならないために、考えないといけないんじゃないのか、という疑問があります。
でも、だからと言って「核を使われないために核を持つ」ということが、本当に正しいのか。「日本側からは決して使わない」という固い決意で核を保有したとして、それが本当に守られる保証がどこにあるのか。日本が核を持つ(あるいはシェアする)ことで、より戦争が近づいてしまうのではないか。
私の思考は、ずっと同じところでグルグルしています。
そうこうしているうちに、何の偶然なのか、某有名ネット番組から「原爆は必要だったのか」というテーマでアメリカ人の夫に出演依頼がきました。
この記事を読んで、ご連絡くださったそうです。↓
夫に出演依頼を伝えたところ、「原爆は必要だったのか」について自分の中では今も答えが出ていないし、原爆について話すことは簡単ではないので、辞退しようということになりました。私としては、正直なところ、辞退してくれてほっとした気持ちがありました。
私は、毎年8月には原爆記念日に寄せてメルマガを送るようにしていたのですが、今年は、それも書けませんでした。語学試験の面接とはいえ「核の保有も議論するべき」と言ってしまった私が、原爆について語る資格がないように思えたからです。
結果
数週間後、結果が届きました。フランス語検定1級、合格。

2次試験の得点は、合格点が30点(50点満点)のところ、私の得点は34点でした。仏検ではスピーチが何点、発音が何点、といった細かい内訳は公表されませんが、語学スキルの最低限の評価はしてもらえたのだと思います。
合格はしましたが、全く満足はしていません。合格以上に、この試験で得たものは「答えのない問いと向き合い続ける姿勢」でした。
語学学習がくれるもの
自分の意見を述べるという形式の面接で、私は「模範的で安全な意見」を選びませんでした。
リベラルな学術界にいる試験官の先生方とは意見が違うだろうとわかっていたけれど、たどたどしいフランス語でも、自分の中の問題意識をそのまま面接でぶつけました。それで良かったと、今は思っています。
面接が終わっても、そのテーマは頭から離れず、今も答えのないまま考え続けています。何が正しいのかはわからない。でも、もしかしたら、あの日以来、私は少しだけ成長したかもしれません。
合格証書はもちろん嬉しいけれど、それ以上に、この試験は私にとって大きなきっかけをくれました。
語学は、テストの結果だけで見るものではありません。語学学習は、予想外の方法で自分の内面を大きく揺らし、より良い答えを求めて葛藤し考え続ける力を与えてくれます。今回、仏検1級受験を通じて、それを強く感じました。
私はこれからも、日本人の英語力向上を目指して教える立場の私自身が勉強を続け、指導の引き出しを増やしていきます。そして、外国語学習を通じて教養を磨き、物事を深く考え、自分と異なる意見にも耳を傾けられるよう、引き続き、頑張っていきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
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