消防協議という“異世界”に初めて連れて行かれた建築士の話
建築小譚No.3

争う気はないのであしからず、、、💦
なぜ建築士は消火器を隠したがるのか
この問いには意匠(建築デザイン職能)とその他の職能との仁義なき戦いの記録があります。
前回までの記事は下記↓↓
建築士と聞くとみなさんは
単に建物の図面を描く仕事だと
思うかもしれません。
でも実際に働いてみると、消火器ひとつにも建築設備担当との調整があり、消防との協議があり、法規との格闘があります。
そして気づきました。
建築士の仕事とは、建物をデザインすることだけではなく、様々な正しさをひとつの建物にまとめ上げることなのだと。
今日は、そんな「消防との協議」の話です。
消火器と定められた位置
先日、とある図面の打合せで
消火器の位置が話題になりました。
「??ん?、消火器??
どこにおいてもいいんじゃないの??」
と思うかもしれません。
基本的に消火器は好きな場所に置ける
わけではなく、消防法令や基準によって、どのように設置するかが定められています。
簡単に言うと
火災が起きた時にすぐ見つけられること。
歩行して一定の距離にあること
誰が見ても分かりやすいこと。
そういった条件を満たす必要があります。
つまり設計者がそこは重要な場所だから
「この家具の裏に隠したい」と思っても、
「それでは見つけられない」
と消防に指摘されてしまうことがあります。
設計者:「この扉の中に入れたい」
消防:「緊急時に分かりにくいので却下」
消火器は空間を飾るためのものではありません。
使うためのものです。だからこそ設計者の思い通りにはいきません。
壁をきれいに見せ、空間をすっきり見せたい。
そんな時に現れる真っ赤な消火器。
設計者はつい考えます。
「もう少し目立たなくできないだろうか」
「別の場所に置けないだろうか」
「空間に馴染ませられないだろうか」
一方で消防側には消防側の正義があります。
「見えなければ意味がない」
「すぐ使えなければ意味がない」
消防関連の機器は設計者として、現場を何度もくぐってきてる人であればあるほどデザインにこだわる気持ちが強いので消防との協議は長期化します。。。

建築学生の図面に消火器は出てこない
私自身建築学生の頃、消火器を真剣に考えたことは
ありませんでした。
設計課題では、空間自体のコンセプトやカッコかわいい建物デザインを考えます。
消火器は考えません。少なくとも私はそうでした。
皆さんがどこかに旅行に行ってみたことがある
江戸城やら何やらの城の模型にも消火器なんて置いてなかったのでしょう。
しかし実際の建物には必ずと言っていいほど消火器があります。
当たり前です。
火災が起きた時に必要だからです。
実務に入ると、その当たり前の存在が急に気になり始めます。消火器は思った以上に目立つからです。
実際にあるのを想像してみてください。
例えば、美術館。
静かな空間をつくろうとします。
素材も色も慎重に選びます。視線の先に余計なものが入らないように検討します。
そこに真っ赤な消火器が現れます。
例えばホテル。
上質な空間を目指します。
照明計画も細かく調整します。
家具の配置も何度も検討します。
そこに真っ赤な消火器が現れます。
もちろん消火器が悪いわけではありません。。。。
むしろ必要不可欠な設備です。
ただ、設計者がつくろうとしている空間と、強烈な存在感を持つ消火器がぶつかる瞬間があるのです。
だから意匠設計者は考えます。
「もう少し目立たなくできないだろうか」
そして、この小さな願いから長い調整が始まります。
でも消防は隠させてくれない
設計者が「もう少し奥に置けませんか」と言うと、
消防の建築担当様から
「見つけにくくなります」と返ってきます。
「家具の裏に隠せませんか」と言うと、
「使いづらくなります」と返ってきます。
当然ですね。
消防は意地悪を
しているわけではありません。火災時に人命を守る責任を負っているからです。
この対立においては
誰も間違っていません。
設計者は空間を良くしたい。
消防担当は安全性を確保したい。
どちらも建物のためを思っています。
だから議論になります。
もしどちらかが間違っているなら簡単です。
間違っている方を直せば終わります。
でも建築の協議はそうではありません。
正しい人同士がぶつかります。
これは消火器だけの話ではありません。
施工者には施工者の正義があり。
そして消防には消防の正義があります。
建築士は図面を描くことだけが仕事だと
思われがちですが
実際は
図面を描くことよりも、
様々な正しさを調整することの時間の方が長く
非常に難しいのです。
消火器の位置ひとつにも、
そんな建築の本質が詰まっています。
設計者は、図面を描いているだけではない
良いアイデアを考える。
もちろん今でもそれは大切な仕事です。
図面を描くだけが建築士の仕事ではないことは
重々承知してましたが
想像の範疇を超えて建築デザインは想像以上に「調整」を必要とする仕事でした。
1年目の頃、上司と一緒に消防協議へ
参加したことがあります。
消防協議とは:実際に消防署に行き、消防担当と打ち合わせして物事の決定・意識合わせを行う行為
(質疑の対象物によっては実際の消防士等)
私は消防協議と聞いて、設備の位置を確認するような打合せを想像していました。
ところが実際は違いました。
上司:「今日は3禁止サインの色及び記載文言について伺いたい」
ここで、※今日の建築知識【3禁止サインとは!】

建物入口の見やすいところに貼ったものです。
都内のユニクロの入り口とか見てみてね!
禁煙、火気厳禁、危険物品持ち込み厳禁など建物内の禁止行為をお知らせするために建物の入口の見やすいところに貼るものだよ!
消防:「色を変えられると考えた、その考え方の根拠は何ですか」
言葉を待たず、追撃
消防「何条何項何号を根拠にしていますか」
鬼のマシンガンジャブ
消防「逆になぜ変えられるのかと思ってますか、そうでもして変えたい理由は何ですか、何がしたいのですか?」
私(ひいいいぃ、いいい社会人怖いよ、、、)
そして上司の反撃
上司:「ここに50段階の赤がありますが、どの赤ならよくてどの赤ならだめなのですか?」
【※注意※】
建築士は全員アンミカです。
色彩に長けた、特別な訓練を日夜受けております。
消防:「、、、、いやで、」
言葉を遮る上司
上司:「この地域の同用途の建物の3禁止サインを全て見て回りました。全15件のうちここに色を変えてる物件の写真が数件ありまして」
【※注意※】
建築士は全員名探偵です。
見た目は建築士だけど中身は子どもです。
それはそれは好奇心や興味に任せて様々な物件の写真を日夜それはそれは取りまくっております。
消防:「、、、、、」
どこまでも食らいつく上司
上司:「加えて、タバコのサインを電子タバコのサインに変更できないのか。もしくはNOsmokingに追記としてIncluding e-cigarettesと表記できないか」

消防:「できません。どうしても電子タバコのサインを他の法令または建物与件で張る場合には横に張るなどしてください。」
上司:「どこのなにに記載がありますか。」
おお、カウンターだ、、、、、!
続けざまに上司のターン
上司:「東京消防庁ホームページには※1に多言語野追加表記という記載があり、言語表記の追加が可能であるとも読める。これに関してはいかが」

私:(少し苦しいか???これは、あくまでも記載内容に対しての多言語表記の追加としか読めないのではないか‥???けどまさか、、、)
法令にはどこまで書かれているのか。
その条文をどう読むのか。
実際の運用ではどう考えられているのか。
上司と消防担当者がやり取りするのを
横で聞きながら、上司の証拠集めを含め
建築士とはこんな議論もするのかと驚いたことを覚えています。
もちろん、全ての案件でそこまで
細かな議論になるわけではありません。
特に用途や計画が比較的シンプルな建物では、
スムーズに決まることも多いです。
それでも、空間の質を突き詰めようとすると、
消火器の位置ひとつが気になってきます。
美術館やホテル、商業施設などでは特にそうです。消火器もまた、空間を構成する要素の一つだからです。
同様の設計者と関係各所の議論は
社内や現場監督ももちろんのこと、
「消防」だけでなく、「警視庁」「市町村区役所」「東京であれば都庁」「JR」「ゴミ収集センターのおじさん」など多岐にわたります。
全員が正しいことを言っている。
だから建築は難しい。
そして面白いのだと思います。
今度建物に入ったら、
少しだけ消火器を見てみてください。
その場所は偶然決まったものではなく
数多の関係者の履歴によって成立しているのかもしれません。

(その日の消防からの帰路)
上司:「いやー、、、(泣)結構頑張ったんだけどなぁ、、、だめだったかぁ、、お客さんにちゃんと説明しないとなぁ、、」
私:「毎回あれだけ資料準備してるんですね、、私は議事録書くので精一杯で、、会社戻ったら分からなかったところご教示いただきたいです💦」
私は知っている、
上司はここ何日も今日の協議のために
準備をしていたことを
上司:「もちろん!初めての協議お疲れ様!」
私:「はい!」
私は知っている、
上司個人の意見以上に関係各所の要望でそうしたかったこと(そうせざるを得ないこと)、
今回の案件は特殊性が高くて色や文字一つとっても重要だったこと。
上司:「協議は大変だしエンジニアからしたら何に時間使ってるんだ💢とか、どれほどさまざまな事を建物が建つまで言われても。
できたらね、いい建物ができたら人はそこに来るんだよ。写真を撮るだけや最近の子たちからすると、映え〜、とか?少し安っぽい感じかもしれないけど」
「自分がした何かができることで人が集まるってのは、建築を創るうえでの最大の魅力なんだよ。建築を創るのはすごくすごく大変で関係者も疲弊するけどその時の辛さははよくて1週間〜何年かとかだから。」
「ただ、できたものは何十年も残る。建築デザインやる上では自分も周りも納得することをやったほうがいい。建物が建った後にあの時こうしとけば良かったとか悔しんでももう戻せないのは人生と一緒。」
上司:「なんか説教臭いね(笑)忘れてね(笑)」
私:「‥‥」
私は知った、
自分の幼さ。そして建築は、
まだ私の知らないことで溢れてることを、
はい!
ということで今回は建築士の投資志向の昔話を書いてみました!
今月は現時点で残業100時間を超えており、投稿が2週空いて遅くなりましたが、いいねやコメント頂ければ大変励みになります!!
ほかの記事は下記から↓↓
